来週末はバレンタインデー。この行事への興味の度合いはさておき、チョコレートを好んで食べる人は多いのではないでしょうか。

作業に追われるクリエイターの舌と心を癒やすチョコレートは、昨今、健康食品としても脚光を浴びています。含有成分やカカオの比率などをプッシュする商品もあり、間食するならせめて健康にいいものを、と選んでいる人もいるかもしれません。

甘くて、薫り高く、しかも健康に良い…「完全食品」ともいえそうなチョコレート。ついついおやつとして食べてしまう人には朗報ですが、果たしてそんな「おいしい話」はあるのでしょうか?

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。

第6回は、クリエイターの作業の相棒・チョコレートとの上手なつきあい方についてお話いただきました。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID: @asilliza

バレンタイン商戦真っ只中の今日この頃 。昨今は1月末ごろから、百貨店の催事からコンビニの店先まで、バレンタインチョコが百花繚乱といった趣ですね。こんな時期なので、施術中に患者さんとチョコレートの話をすることもよくあります。

チョコレートと健康、その関係を見直す

バレンタインの時期に限らず、ある種の機能を謳ったチョコレートは、コンビニやスーパーのお菓子売り場でも幅を利かせています。そのため、健康にいいからとチョコレートをおやつに選ぶ方も多いのではないでしょうか。

ある時、患者さんから「高カカオマスチョコレート」はコレステロール値を下げる効果があるのかどうか、質問されたことがありました。この患者さん、テレビ番組で「72%カカオマス配合のチョコレートを一日25g食べ続けると、悪玉コレステロールが減る」と言っていたので、紹介されていた銘柄のチョコレートを買い込んで、数カ月食べ続けたそうなのです。そうしたら、特に効果がみられなかっただけではなく、太ってきた……ということでした。

まず、「太ってきた」という訴えについて。25gあたりのチョコレートのカロリーは150kcal程度な のですが、消費者庁の調べによれば高カカオチョコレートはカカオ由来の脂質が増えるため、それよりもカロリーが高い傾向にあり、160kcal程になるそう。このカロリーを白米に換算すると、小ぶりの茶碗に半分盛った (100g)のとほぼ同じくらいです(約170~180kcal)。毎日チョコレートを食べ続けるのなら、その分食事を減らさなければ太るのは当たり前です。

また、チョコレートにはカカオポリフェノールやGABA(ガンマアミノ酪酸)などの成分が含まれる……とはよく言われるのですが、これらの成分が人体に対し及ぼす作用は、エビデンスがはっきりしていませんし、チョコレート自体にも前述の通り脂質が含まれています。食事を調整しないのであれば脂質過多になる恐れがあります。

それよりも確かなのは、チョコレートはカフェインの宝庫だということ。同じ量のコーヒーに相当するカフェインが含まれていますし、コーヒーとチョコレートを併せてたしなむ方も多いでしょうから、こちらの興奮作用のほうが気になるところです。

また、気管支拡張作用のあるテオブロミンも含まれており、ぜんそく等で気管支拡張剤を使っている方の場合、呼吸器に影響が出ることも考えられます。高カカオチョコレートはそうでないものよりカフェイン・テオブロミンともに多く含有しているため、健康な人が嗜好品としてたしなむ分には問題ないのですが、子供・お年寄りはじめ感受性の高い人やぜんそく持ちの方は、摂取量に注意が必要です。

チョコレートにまつわるロマンチックな逸話として、古来より興奮剤や媚薬として用いられてきた歴史を知っている人もいるかもしれませんが、かつてはこれらの成分の作用を薬として利用していたんですね。

さて、先ほどの患者さんの話に戻しますと、「最近胃の調子があまり良くなく、食欲がないのに太ってきた」ということでしたので、連用しているチョコレートのカフェインや油脂で胃腸が荒れているのではないのかと考え、食べるのを控えたほうがよいとお伝えしました。

嗜好品は「たしなむ程度」に

さて、今度は別の患者さんのお話。「先生はチョコレートを旦那さんにさしあげるのですか?ウチは面倒で。」とおっしゃる方がいたので、「円滑な家庭生活のために、イベント食は欠かさないほうがいいですよ」とお話したことがありました。

せっかく、愛情表現をしましょうというイベントを、世の中がこぞって盛り上げてくれているのです。いつもは気恥ずかしくて表現できない気持ちを簡単に伝えられる機会を逃すのはもったいない。その時は、「チョコをひと箱用意するだけで、だいぶ違いますよ」とお話しました。

その後、患者さんから「先生、チョコをあげたら、夫がやたらと嬉しそうにしてました!」と報告がありました。こういうコミュニケーション、意外かもしれませんが、健やかな生活には大切なものです。ウチは、今年はどこのチョコにしようかな……。

「健康食品」としては先ほどのように辛口な分析をせざるを得ないチョコレートですが、「嗜好品」としては最上級。この時期にたくさん出回る高級チョコレートは夢のように美味しいものです。私自身もラ・メゾン・デュ・ショコラのオランジェットやトリュフが大好きです。

ですが、節度を持ってたしなむからこその嗜好品。「チョコレートは健康にも良いから、毎日たくさん食べてもOK♪」と思っていらした方、それは考え直したほうがよさそうですよ。

出典

独立行政法人国民生活センター 高カカオをうたったチョコレート(結果報告)

国立健康・栄養研究所 重点調査研究業務 食品成分の有効性評価及び健康影響評価研究成果公開システム 発芽玄米の栄養価とγ-アミノ酪酸(GABA)の機能性と安全性(平原文子氏) 6)安全性と今後