折しも受験シーズン。この時期はコンビニなどの店頭にはブドウ糖などちょっと専門的な用語をうたった"脳のため"のお菓子が並ぶことも多いですね。受験生だけでなく、働き盛りのクリエイターたちも、仕事で脳を使うし…と、こういった「機能性おやつ」に手を伸ばした経験があるのではないでしょうか。
「脳には甘い物がいい」という言説は国内では好意的に受け取られていて、勉強盛りの学生から働き盛りのビジネスマンまで、多くの人が積極的に甘い物を食べています。甘い物をおいしいと感じるだけでなく、「頭にいい栄養だ」と考えて食べるのは、実際のところ本当に脳を甘やかしているのでしょうか?
この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第4回は、脳を酷使するクリエイターの作業のお供かもしれない甘い物が本当に脳に効果的かどうか、語っていただきました。
若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID: @asilliza
ある日の臨床中。「ブドウ糖のサプリメントって、先生、知ってます?」と、ウチの患者さんに聞かれました。この方、クリエイター職の方です。なんでも、取引先の社長がブドウ糖のサプリメントを脳のために使っていると話していたということで、「そんなに良いものなのか? と思ったので先生に聞いてみようと思ったんです」と仰ってました。
……いやはや、耳を疑いました。ブドウ糖のサプリメント。そんなものをわざわざ買っている人がいるなんて!
脳の働きを良くするためにブドウ糖の塊を服用している方がいらっしゃるなら、今すぐにやめたほうがいいですよ。結論から言ってしまえば、コンビニで売ってるような清涼飲料水をがぶ飲みしているのと全く変わりませんからね。
「機能性おやつ」の罠
ブドウ糖サプリメントでなくとも、コンビニエンスストアに行けば『ブドウ糖入り〇〇』など、機能性をうたったおやつがいくつも並んでいます。おいしくて「便利」なお菓子、クリエイターのみなさんの大好物ではないでしょうか。
ですが、こういった商品も、結局はただのお菓子。特別な効果があると思って食べ続ける必要があるかどうか大変疑問です。
「糖分」の正体を知る
甘いものに入ってる甘味成分、「糖」にはいろんな種類があります。このなかで、「脳の栄養」と呼ばれるブドウ糖は単糖類と呼ばれています。
ブドウ糖にブドウ糖以外の単糖類(フルクトース、ガラクトース)がくっついたのが二糖類。二糖類の中で、ブドウ糖+フルクトースというユニットでできているのが、砂糖です。昨今の健康情報では悪者にされがちな砂糖の中にも、ブドウ糖は含まれているのです。 そして、清涼飲料水の原材料表示には「果糖ブドウ糖液糖」が書かれていることが多いです。これは、果糖=フルクトースと、ブドウ糖の両方が含まれている液状の甘味料。砂糖とは違い、フルクトースとブドウ糖がユニットを組まずに別々に溶け込んでいる液体です。
つまり清涼飲料水を飲むと、ブドウ糖を摂取することになるのです。「ブドウ糖サプリメント」なんてものをわざわざ買って口にすることのバカバカしさがわかるでしょうか。
脳の栄養を「直食い」する必要はない
「でも、ブドウ糖だけが脳の栄養なんでしょ? 吸収が早くてすぐ使えるほうがいいんでしょ?」そう思う方も多いかもしれません。確かにそうなのですけど、ブドウ糖をあえて選んで食べる必要があるかどうか、ここからお話していきますね。
先ほど単糖類と二糖類というお話をしましたが、2つ以上の糖がくっつくと、『多糖類』というものになります。多糖類の筆頭がデンプン。パンとか、ごはんとか、麺類です。私達の感覚で言えば「食事」枠に入る食品にあたります。
うーん。そうだなあ……さっきの「糖」の話を、私の好きな『進撃の巨人』でたとえてみましょう。エレン・イェーガー独りで「単糖類」、エレン&ミカサとかエレン&アルミンのユニットは「二糖類」、調査兵団全員で「多糖類」。だんだんエネルギー量の合計値が上がってくるイメージ、伝わりますか?
多糖類は集団の力を持っていて、ちょっとずつ切り離して使い続けることができる栄養素なんですよ。だから長期にわたって作戦に参加することが可能。ですが、エレン単体とかエレン&ミカサ、エレン&アルミンだと瞬発力はあるけれど、短い間しか任務に従事できないわけですよ。このあたりのキャラクターは、お好みで置き換えてくださいね。
甘いものは瞬発力こそあれ、持続はしません。血糖値が短い時間に激しく上下します。すると、血糖値が下がった時にまた甘いものを食べたくなり、何度も口にするたび血糖値が急上昇と急降下を繰り返すため、そのうち体が疲弊してきます。
血糖値の急降下は、眠気やだるさの原因となってしまいます。脳の働きを良くしようと思って口にしたおやつが疲労度を高めるのでは本末転倒ですよね。
そして何より、おやつは元来胃が小さい割に活動量が多い子供のエネルギー不足を補うための食事のことです。息抜きのおやつタイムを楽しみにしている方も大勢いらっしゃると思いますが、後々の健康のためにも、『大人におやつはいらない』という大原則は心に刻んでおいてください。
脳の働きを一定に保つ食事の方法
では、脳の働きを安定させるにはどうしたらいいかというと、毎日の食事を見直すのが大切。デンプン質、いわゆる主食と呼ばれるものを一食当たり100g程度と、たんぱく質・野菜類を含んだ食事を定期的に摂取することです。
このように書くと何か素晴らしい、そして実現が難しい食事のように思われるでしょうが、単純にバランスの良い食事を一日に三回食べるという話です。デンプン質のみを食べると消化が早すぎて、おやつを食べたのと同じような結果を招きます。
食事内容のバランスは、20センチ程度のお皿の半分を野菜と果物類、1/4にたんぱく質、1/4にデンプン質を載せるようなイメージで考えましょう。