ストレスで体調を崩すというエピソードが非常に多く聞かれる昨今。働けなくなるほどの不調は「突然身に降りかかってくる」イメージがありますが、実際にそうなのでしょうか?

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第26回は、過労やストレスによる心身の不調が「ココロ」と「カラダ」どちらから始まりやすいか、2つのタイプについてお話しいただきました。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID:@asilliza

過労やストレスによって、ココロとカラダの健康を損なう……みなさんのオフィスでもよく聞かれる事態ではないでしょうか。

私が臨床で耳にする患者さんたちからの言葉からは、体調不良やうつ病などの不調は、突然襲ってくるのだと考えている方が少なくないように感じています。ですが、実際はそうではありません。

特に、生活習慣や過労によって引き起こされている不調は、クリティカルな状態になるまでの間、様々なレベルのサインが体やココロから発せられているのです。しかし、このサインに気づいていても無視する、ないしは感じ取れない状態であることが原因で、最悪の場合……行き着くところまで行ってしまうのです。

タイプ別・カラダとココロのサインを受け取るコツ

どんな方でも、仕事が異常に忙しくなる時期はあるでしょう。そこで体調を崩さないためには、普段からカラダやココロがどんなサインを発してくるかキャッチする訓練をしておくことが大切です。

追い詰められた時、ココロとカラダのどちらが先に悲鳴をあげるか、ご自分で把握できていますか?どちらを壊しやすいかは人それぞれなので、まずは自分のタイプを把握することから訓練を始めます。

カラダの方が先に壊れるタイプ

このタイプの方は、精神力が強く、メンタルがとても強靭なため、カラダの方が先に悲鳴をあげます。ですが、ココロが「まだまだいける!」と言っているので、それに従ってしまうのです。裏を返せば、カラダの感覚が弱いとも言えます。結果的に、気づいた時には恐ろしく重い病気に罹っているなんてことも!

まずは日常的に、自分のカラダの状況をチェックする癖をつけておきましょう。チェックすることはこんな感じです。

・食欲はあるか、妙に食べる量が多いことはないか
・排便はどうか
・肌の色つやはおかしくなっていないか
・足のむくみはないか
・手足やお腹・お尻を触って妙に冷たいことはないか
・風呂に入っても全然温まらない…なんてことはないか
・どこか痺れたり痛みが出ているか
・なんとなく思考力が落ちていたり、ちょっとしたことに腹が立ったりしないか
・どうにも朝起きられないことはないか
・テレビを見ようと座った瞬間眠ってしまうようなことはないか

チェック項目にいくつも当てはまるようなことがあるということは、カラダの方は大声をあげて「休ませて!休まないと壊れちゃう!」とあなたに伝えてきているのです。項目が多いと感じられるかもしれませんが、自分に起きがちなことをピックアップしたリストを作っておいて、習慣化しておくと便利ですよ。

上記のような兆候が現れていたら、カラダの声に応えて、なんらかの形でしっかりと物理的な休養を取ることが必要です。連勤や徹夜続きなら躊躇なく休暇を取りましょう。

ココロの方が先に壊れるタイプ

体よりメンタルの不調が先だって出てくるタイプです。このタイプは「メンタルの弱さを自覚しているため、それほど無理はしないようにしている方」と、「メンタルが弱いにもかかわらず過負荷をかけてしまう癖がついている方」に二分されます。どちらにせよ、カラダの方が丈夫であれば多少メンタルに不調があっても吸収できるのですが、カラダのケアがうまくいっていないことがほとんどです。

自分ではメンタルの弱さのせいだと思っている不調が、実は身体的な不調が原因で引き起こされていることがあります。精神的な不安定さは、自律神経系の働きが不安定であることによって増強されてしまう傾向があるからです。カラダの中でオートマチックに働いて、内臓や神経などの働きを調整してくれるのが自律神経系なのですが、これらがうまく働かないと「何となく不調」な状態が常態化して、結果的に精神的に不安定になることがあるのです。

ですので、ココロの方が先に壊れるタイプの場合、これから挙げる「養生の3本柱」を守って毎日過ごし、ことさら気をつけて日常生活を規則正しく送るようにします。

「養生の3本柱」
・12時前の睡眠
・決まった時間にバランスよく摂取する食事
・ウォーキング等の軽い運動

ココロが先に壊れてしまうタイプの方は、「忙しいんだからしょうがない」と、食事や睡眠をすぐに手放してしまうのですが、これがココロを壊す一番の原因になるのです。ですから、忙しい時期こそ精一杯のできる範囲を守るように心がけます。

これらを守って体調を一定に保っていても、どうにも出てくるココロの不調。それが本当の意味での『メンタルの不調』なのです。こうしてみると、自分がどれくらいストレスに弱いメンタルを持っているのかが分かるようになってきて、こっぴどくココロを壊してしまう前に回避できるようになるのです。

いずれのタイプも、自分自身のカラダとココロの状況が掴みきれていないために、ひどい不調に陥ってしまうのです。毎日自分をしっかり観察し、把握することが辛い目にあわないためのいちばんの近道です。多忙さにかまけて自分の状態を省みないでいると、最悪の場合、文字通り身動きがとれなくなってしまいます。ご自身のココロとカラダの声を、きちんと汲み取ってあげてくださいね。



「修羅場サバイバル」は、今回をもって連載を終了させていただきます。これまでのご愛読、誠にありがとうございました!7月からは新連載の開始を予定しておりますので、どうぞお楽しみに。