昨今、"錆びない"カラダのための抗酸化作用サプリメントや健康食品がちまたにあふれています。酸化による肉体の老化を「錆び」と表現する印象強い売り文句ですが、では、こういった物を摂取しないと、体は"錆びて"いってしまうのでしょうか…?

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第20回は、抗酸化にまつわるサプリメント類についての見解をはじめ、"錆びない"カラダを手に入れる秘訣について語っていただきました。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID: @asilliza

「抗酸化作用」のあるサプリメントや健康飲料、最近多く見かけるようになりました。その宣伝の決まり文句が「錆びないカラダ」。老化は活性酸素による酸化が原因だってことを言いたいのでしょうけれど ……、もう10年前くらいから、抗酸化物質は一概に体にいいとは言えない、という論調になりつつあるのです。

一例として、世界的に読まれているJAMA(米国医師会発行の医学雑誌)で発表された論文を見てみましょう。複合剤ではなく、単独の栄養素を含むサプリメントを治療目的で利用した人々からとられたデータをメタアナリシスという方法で解析した結果、ベータカロチン・ビタミンA・ビタミンEは死亡率を上げてしまうようである……という結論なんですね。これ以外にも抗酸化物質ががんの増殖を助けてしまうなど、様々な論文が出されてきています。

私が診ているある患者さんは、担当医師から「抗がん剤の治療中に、抗酸化サプリメントの類いは飲まないようにしてください」と言われたそうです。抗がん剤の効果をサプリメントが阻害しないように行われた指導だったのですが、その患者さんは「『がんにならないためには抗酸化物質!』と喧伝されているのに、(がん患者が飲んだら)ダメなんですね!」と驚かれていました。

薬ではなく栄養素だから……という理由で、薬よりも気軽に取り入れがちなサプリメント。ですが、食べ物では摂取不可能な量の栄養が凝縮されていて、先の例のような医薬品との相互作用や、過剰摂取による体調不良などを引き起こすこともあるので、スナック感覚で取り入れるのはやめた方が無難です。

私自身、サプリメントや健康飲料の類は一切使っていません。そういった物で栄養不足を補うより、「運動」「食事」「睡眠」の3つを大切にするほうが、アンチエイジング、つまるところ健康な肉体の維持には安全かつ効果的だからです。

結局それか……とがっかりしている読者さんたちが画面の向こうに見えるようですが、忙しくても「運動」「食事」「睡眠」の質を向上させるためには、いくつかのコツがあります。

サプリメントを使わず健康を目指す3つのポイント

1.運動するための時間をわざわざ作ろうとしないこと

健康増進を目指すにあたり、多くの人は「ジムに通う時間を作らないと……」と考えるかと思います。ですが、数回通ったあたりで挫折する方がほとんどです。

しかも、歯を食いしばって週に一回程度のジム通いを続けても、時間を捻出する努力に反して、たいした運動量にはなりません。それよりも、毎日の生活で自分の体を使う手立てを考えてみましょう。

駅の階段を使う、少し遠回りして通勤通学する、家の掃除を徹底する……などなど、ご自分の日常生活の中で体を無理なく動かすように仕向けていきましょう。すると、これだけで相当な運動量になるんです。私自身は、片道20分程度の自転車通勤がよい運動になっています。

2.とにかく「ヤサイマシマシ」を。

食事をとる際、まず野菜を大量に摂取できるメニューを念頭に置くことです。

今年の4月からオンラインサロン『ハイパー養生団』を組織して、日々団員の食事指導をしているのですが、開始してすぐ、団員の食卓にはとにかく野菜が足りないと気づきました。とはいえ、極端に偏った食事をしている団員はいませんでしたから、意識しないと野菜は不足すると考えてよさそうです。現在、養生団内では某有名ラーメン店の注文用語である「ヤサイマシマシ」を呪文のように唱えるようになりつつあります。

野菜の摂取をとにかく意識して、それまでの感覚からすれば「大量」と思えるくらいにとること。そして旬を意識して多品目を摂取するよう心がけることを指導すると、団員の体調はかなり改善しました。念のため、野菜「だけ」食べるのでは効果がありませんのでご注意を。目安として、20センチ程度のお皿の半分を野菜、1/4にたんぱく質、1/4に炭水化物を載せるようなイメージで考えましょう。

3.睡眠はシンデレラのように。

夜中の12時を過ぎる前に、ベッドへ滑り込むことを心掛けましょう。

多くの場合、朝8~9時頃には職場や学校などに着いていないといけませんから、夜中の12時前に眠らないと、6~7時間程度の睡眠時間を確保することができない生活を送っているかと思います。短時間睡眠で済む体質の方はまれですから、ともかく、12時の時計塔の鐘が鳴り終わる前には眠りにつくようにしないとならないのです 。

フレックスタイム制の場合、遅くに眠って遅くに起きても特に問題はない……と考える方が多いかもしれませんが、朝の早い時間帯の光線を浴びることで睡眠と覚醒のリズムが整うという利点があります。

また、朝食時間帯が後ろ倒しになることによって昼食までの間隔が狭くなる、もしくは全体に食事時間帯が遅くなっていくことによって太りやすい生活になるという弊害があります。フレックスであるなら遅くに寝起きするのも、早寝早起きすることも自由ですね。できることなら、早く出勤し、早く退勤して、夜は早く眠れるようにしたほうが、体にとっては利点があるといえます。

シンデレラの衣服や馬車は、12時の鐘が鳴り終わるとぼろ着とカボチャに戻ってしまいましたよね。毎日遅くに眠っていると、いつしか皮膚はぼろ着のように、体はドテカボチャのように鈍重になってしまいますよ。

この3つのコツを守るだけでも、さまざまなサプリメントや健康飲料を口にすることなく「錆びないカラダ」を手に入れることができます。まずは、一つだけでもお試しを!

参照リンク

「Mortality in randomized trials of antioxidant supplements for primary and secondary prevention: systematic review and meta-analysis.」