昔と今のシステム環境の大きな違いは「仮想化技術」である。従来のシステムの多くが静的なシステム構成で、一度構築したシステムは変更することは難しかったが、現在は必要な時に必要な量だけITリソースを動的に追加・削減できる。つまり、システム構築前のシステム・サイジングという言葉は古い概念となり、システム・リソースは動的に配置変更するのが常識となる時代がすでに来ている。ITリソースの「必要な時と必要な量」を知るためにはリアルタイムに適切なログ(コンピュータの利用状況やデータ通信の記録)を採取することが必要なのだ。
ログの採取には意味がある
システム監視では、システムの状況を常にログに残しているが、採取したログは意味のあるものでなければならない。当たり前の話のように聞こえるが、漫然とログを取っているケースは非常に多い。サーバがダウンした、ストレージのディスクが故障した、ネットワーク機器がおかしいという事象があったとしても、ログは採取していたが、その原因追及のために必要なログが採取されていなかったという話はイヤになるほど聞かされてきた。
さらに、ビジネス・パフォーマンスを左右するログが取れているかという点も大いに怪しい。ユーザー企業は、システムを稼働すること自体が目的ではなく、システムを使って売上を上げたい、納期を短くしたい、生産量を最適化することが目的なのだが、それらのビジネスを左右しているシステムのログが採取できておらず、ERPなどが示すデータと統合されなければ、システムによってビジネスがどう変化したのかがわからないままだ。
適切なログを採取する効果(その1):投資対効果があがる
仮想化技術を使ったシステムにおいて何を根拠にITリソースの増減を判断すれば良いのかといえばログである。しかし、多くの場合、ログはその時々の瞬間情報であり、変化率やしきい値への近似度合いがわかるわけではない。静的なログではなく、システムの状況をリアルタイムに把握し、状況の変化によってアラートをあげて、ITリソースの増減といったアクションをとることができれば、システム・サイジングが最適化されて投資対効果を上げることができる(下図参照)。
適切なログを採取する効果(その2):ビジネス・パフォーマンスの監視
ITシステムはビジネスの目的を達成するためにある。ビジネス目的を達成するためにITシステムが構築されたはずなので、ITシステムが指し示す何らかのデータがビジネスの状況を反映する、逆にビジネスの状況がITシステムの何かのデータに反映することになる。ITシステムの状況とビジネスの状況をリンクさせることができれば、ITシステムのログを監視することがビジネス・パフォーマンスを監視することにつながる。
リアルタイムのログでビジネスアクション
ITシステムがビジネスを支えているため、リアルタイムにログを採取してシステムの「今の現実」を知るということは、ビジネスの「今の現実」をリアルタイムで知るということになる。逆に、最善の意思決定をするためには、ITシステムに「今の現実」を伝えてもらう必要がある。今の現実のデータを収集し次のアクション(意思決定)につなげる技術としてCEP(Complex Event Processing:複合イベント処理)が注目されている。
次の例は米国サイトラインシステムズ社のCEP利用事例からの抜粋である。
・複数システムの性能指標をモニターし、一定の振る舞いがあった場合はシステム障害やサービスレベル低下の兆候であるため、ITリソースを追加する。
・クレジットカードの決済処理が短時間に遠距離で処理された場合は不正利用の可能性があることをアラートとしてあげる
・飛行機会社の予約状況が一定レベルを下回った場合に、チケット販売促進のためのマーケティング施策が実行される
・株価などの金融情報をモニターし、平均株価の変化率が±10%の正常範囲を超え、あらかじめ設定した株価の変化率が10%を越えない場合は、あらかじめ設定した株式を買ったり売ったりする
これらの業務はすべてITシステムが実行しているので、ITシステムが作り出すメトリクス(測定指標)をITシステムが予兆検知してリアルタイムにアクションをすることができる。
最終回は、具体的なCEPの手法と、リアルタイムログの採取とシステム監視ができることによって得られるプラスアルファについて紹介する。
執筆者紹介
寺澤 慎祐 (てらざわ しんすけ)
日本サイトラインシステムズ株式会社 シニアコンサルタント 兼 株式会社アイトップ 代表取締役
分析指向マーケティングとITマネジメントのスペシャリスト。サン・マイクロシステムズを退職後、企業向けにマーケティングマネジメントとITマネジメントのコンサルティングを行っている。光産業創成大学院大学においてB2Bマーケティングの講師も務める。