ビジネスにおいてITシステムが欠かせない経営資源であることに疑問の余地はないだろう。企業はITシステムを使って顧客や取引先に様々なサービスを提供しているので、ITシステムに障害が発生した場合は多大な影響を与えてしまう。情報の漏洩や紛失、販売機会の損失、企業ブランドの毀損、日本経済全体への影響など、システムの規模や種類によって影響範囲は様々だ。

本稿では、システム障害の原因と解決策を提示し、ビジネスのパフォーマンスとビジネスを支えるITシステムのキャパシティをどのように管理すればよいのかを紹介する。

第1回では、ITとビジネス(経営)の関係ついて問題提起する。

第2回と第3回で、システム障害が起きる原因について説明する。

第4回と第5回で、システム障害を起こさないための解決策について説明する。

最終回の第6回では、システム障害を防ぐ施策がビジネスの意思決定を支援できることを解説する。

なお、本稿で述べるシステム障害とは、システム性能とシステム容量(キャパシティ)に起因する障害を前提としており、システム統合による障害やシステム開発時の不具合に起因する障害は前提としていない。

そろそろ、ITシステムをIT部門から取り戻そう!

「ITはとっつきにくい」と経営者はよく口にする。実際に、IT自体は技術革新が早く、様々な製品やサービスが生み出され、英文字略語が次々と生み出されていて確かにとっつきにくい面もあるだろう。だからといって、経営者が「まったく興味ありません」というのは困る。少なくとも社内のITシステムには何があって、どんな役割で、どんな情報を提供してくれて、なかでも重要なシステムは何か? ということぐらいは理解すべきである。

経営者にとってのITシステムとは、本質的には「経営の意思決定に必要な情報をリアルタイムに提供してくれればそれでよい」ということになる。なぜなら、ITは所詮、経営を支える「ツール」にすぎないからだ。

誤解を恐れずに言えば、米国企業は昔から「ITシステムなんてビジネスを支えるツール」という程度にしか思っていない。米国企業にとって、あくまでも主役は "ビジネス" であり、システムは陰の功労者だと考えている。

しかし多くの日本企業は、ITシステムを導入すれば「売り上げが向上する」「業務が改善される」と思い込んでしまった節があるのだ。ITシステムはIT部門のためにあるわけではなく、利用部門のためにあるという当たり前のことを再認識する必要がある。

"ITプロジェクト" って何だ? "業務プロジェクト" だろ

British Airwaysで10年間CIOを務めたPaul Coby氏は「ITプロジェクトなど存在しない。業務プロジェクトがあるだけだ」とシンプルに言っているが、これはIT企業を含めたあらゆる企業にとって至言であるように思う。

マイクロソフトにとってビジネスの根幹はソフトウェアを売ることであり、ITではない。また、Googleもビジネスの根幹は検索を通じた広告代理店業務であり、ITではない。ITシステムの構築は、「どのように業務を改善するのか」あるいは「どのように価値を創造するのか」「そのためにITをどのように使うのか」という視点だけでよい。

ITシステムの開発投資の意思決定を行った経営者から見れば、「ITシステムを100%活用すること」は当たり前の話だが、実態はそうなっていない。まずは経営者がこの事実を確認することから始めてみよう。

重要情報を扱うITシステムを第三者に任せていいの?

ITシステムの開発や運用を子会社やITベンダーといった第三者に任せてしまう(アウトソーシング)企業があるが、本当にそれでよいのだろうか?

日本企業がシステム開発や運用をアウトソーシングしてしまう理由として、IT部門の人材不足を挙げることがよくある。実際、日本のIT部門の人員は少なく、役割はIT企画やプロジェクト管理、運用管理が多く、実際のプログラム開発やアーキテクチャの構築などは行わない。

「戦略的IT利用」と言うだけで、実際にはいわゆる外部への "丸投げ" であることが多い。経営上の重要な機密に触れることが多いITシステムの管理を外部組織に任せきりにしているだけではなく、さらに自社のシステムがどのように動いているのかすらわからないという経営者も多い。もっとも問題なのは、この状況が危険だという認識を持っていない、という点だ。

一方、米国企業のIT部門の人員は多く、自社内で企画し、アーキテクチャを構築し、プロジェクト管理を行い、ドキュメントを作成し、プログラム開発も行う。従って、ビジネスの視点からプログラム変更しなければならない場合は、すぐに自社内で変更することができる。

米国企業はITシステムが経営を左右していることを十分理解しているため、他人に任せるようなことはしない。自分で運転する米国企業と、タクシーに乗って後部座席で行き先を指示している日本企業では大きな差となり、この差が企業競争力、企業価値の差を生んでいるとも言えるのではないだろうか?

実は、システム障害が発生する原因を突き詰めていくと、経営者、利用部門の「当事者意識の低さ」が必ず露呈する。つまり、自分たちのビジネスを支えるITシステムを構築して運用しているという当事者意識が低いことによって引き起こされているといっても過言ではないのだ。もっと利用部門が当事者意識を持ってITシステムの開発と運用を行う必要がある。

次回は、障害発生理由のもう一つの要因であるシステム開発時のサイジングミスについて解説する。

執筆者紹介

寺澤 慎祐 (てらざわ しんすけ)

日本サイトラインシステムズ株式会社 シニアコンサルタント 兼 株式会社アイトップ 代表取締役

分析指向マーケティングとITマネジメントのスペシャリスト。サン・マイクロシステムズを退職後、企業向けにマーケティングマネジメントとITマネジメントのコンサルティングを行っている。光産業創成大学院大学においてB2Bマーケティングの講師も務める。