RFPに記載すべき機能要件について説明する前に、RFPによる調達を取り巻く状況について整理しておきたい。RFPによる調達は企業が欲しいモノを具体的に示して見せることが目的である。しかし、業務上、本当に必要なモノを理解できている企業はそれほど多くなかったりする。
家の建築にたとえて考えてみるとわかりやすいかもしれない。念願の一戸建てを立てるとなると、夢は広がる一方であろう。あれも欲しいこれも欲しい――自分は庭でゴルフの練習をしたいが、家族はガーデニングもしたがっている。もちろん駐車スペースも必要である。浴室は奮発してテレビ/ジャクジー付きにしようか。子供部屋は子供達が家を出ていった後は趣味の釣り道具をしまっておく部屋に変えられるようにしておきたい。妻は使い勝手のいいシステムキッチンが夢だった。そうそう、いずれは年を取って足腰も弱くなるだろうから今からバリアフリーにしておくか。
キリがなくなるのも無理はない。あなたが大金持ちでお金に糸目をつけなくてよいのであれば何の問題もないのだが、現実はそうはいかないケースがほとんどであろう。企業の調達もこれと同様である。ユーザー・ヒアリングをするとそれがよくわかる。
ユーザーは欲しいモノを教えてはくれるものの、優先順位を付けて話してはくれない。また1つの部署で使うシステムではない限り、複数の部署のユーザーから出された要望を足し算していくことになり、大抵は予算オーバーという事態になる。
若手社員やSIベンダーの人間は、ユーザーに面と向かって「No」とは言いにくいものである。ましてや、ユーザーが役職者や経営層の人間であれば、「あなたの要望は受けられません」とは言いにくい。結局、ユーザー各部署の利害が相半ばする要望を整理しきれず、さらには優先順位を付けることもできずに、ただ策もなく足し算することになってしまう危険性をはらむ。
このような調整は、どのユーザー部署の要望を優先させるということではなく、その調達の目的や背景にあるもっと大きな目的である事業戦略やIT戦略に沿って実施しなければならない。また、重厚長大なシステムになってしまうリスクも生まれてくる。
以上のようなプロセスを経て作成されたRFPを渡されたSIベンダーは企業全体としての要望をまとめたものと受け取り、これが単にユーザーの要望を足しただけのものとは思わない。
よって、SIベンダーはすべての要望を実現しようとするが、そうなるととても予算内に収まるはずはなく、「予算を増やしていただくか、一部をあきらめていただくかしかありません」という交渉になってしまう。
SIベンダーの回答に困ったIT部門の担当者はユーザー部門を飛び回って調整に入るが、その間にも時間はどんどん過ぎていき、今度は納期までに間に合いそうにないというSIベンダーの嘆きにつながっていく。発注者側が何をどのような優先順位で必要なのかということがわかっていなければ、その要望を受け付けるSIベンダーにわかるはずもない。
執筆者プロフィール
石森敦子(Atsuko Ishimori)
株式会社プライド システム・コンサルタント
『出典:システム開発ジャーナル Vol.3(2008年3月発刊)』
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。