IT業界の中では、見積り手法に対する過大な期待があります。これは、「ある日、天から降ってきた黄金の方程式によって○%以内の精度でピタリと当たる手法が現れるはず」という期待です。しかし、そのような"銀の弾丸"はありません。なぜならば、見積り手法はパラメータと係数から構成されており、この係数は見積り手法を開発した人が入手した実績データから作成されているからです。例えば単純な式で考えてみましょう。
見積り式 : Y = a X + b
見積り結果 : Y
パラメータ : X
係数 : a、b
例えば、規模見積りの式であれば、Yが規模、Xがユースケース数、工数見積りの式であれば、Yが工数、Xが規模、期間見積りの式であれば、Yが期間、Xが工数などと表します。この式は1次式ですが、n次式である見積り手法も少なくありません。この場合、YとXの間にある程度一般的な比例関係があったとしても、aやbに普遍性があるとは限りません。プロジェクトの特性や実績データの測定方法によって係数の値が変わってくるからです。
見積り手法を開発した際の参考とした実績データと自組織の実績データの特性が同等である可能性は低いため、多くの見積り手法は係数を自組織に合わせてカスタマイズするよう勧めています。また、見積り手法に基づいた見積りツールなどでは、自組織のデータを蓄積し、係数をカスタマイズする機能を装備しているものもあります。
とはいえ、初めての見積り手法を導入する際は、実績データがないため既成の係数を使用するしか方法がありません。そのような場合は、見積りミスが発生するリスクを低減させるため、他の手法と併用するなどの工夫が必要です。
執筆者プロフィール
藤貫美佐 (Misa Fujinuki)
株式会社NTTデータ SIコンピテンシー本部 SEPG 設計積算推進担当 課長。IFPUG Certified Function Point Specialist。日本ファンクションポイントユーザー会の事務局長を務める。
『出典:システム開発ジャーナル Vol.3(2008年3月発刊)』
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。