部下が何か問題を起こした時、それがミスなのであれば「なぜそれが起きたのか」「何を怠ったのか」を調べ、予防策を部下と一緒に考えることになるはずです。

人間は必ず間違いを起こします。しかし、ミスが多い人、少ない人がいるのも事実です。リーダーは、ミスが起きにくいチームを育てることも仕事です。問題が起きたことの理由や原因追求は必ず行い、部下に考えさせるようにしなければなりません。一緒に振り返ってみて、何が原因なのかを本人が明確に理解しているかを確認し、できていないようであれば原因や理由を指摘する時間を用意します。

「叱り方」というと、「どうやって部下に厳しく接するか」といった技術的なことを考える人が多いのですが、大事なのは「何を指摘するか」という中身です。その指摘の質がリーダーに問われているわけで、大声など出さなくてもいいのです。

叱る理由は部下の能力によって差があるはずです。想定できたはずのことを見逃したといったケースでは、「想定できる」ことが期待されているという前提があります。もし部下が心の中で「そんなの無理だよ」と思っていたとしたら、潜在能力があることを上司や会社が認めているということをきちんと本人に理解させる必要があるでしょう。「君のためを思って叱っているんだ」などという陳腐な台詞ではダメです。

「叱る」のは理解を深めるチャンス

ミスではなく、考え方や解釈の違いが原因で叱る時はどのようにすればよいのでしょうか? このような時に考え方が合わないまま叱ったとしても、部下は表面上「わかりました」というだけです。

この場合は叱る前に状況を尋ね、なぜそのようにしたのか、その背景にある考え方を部下自身の口から語らせることが重要です。先にリーダーの考えを述べるのではなく、部下の考え方をすべて聞くことに注力すると問題の本質が浮かび上がりますし、部下の考え方も深く理解できるようになります。

部下の考え方を知るチャンスというのは、実はそう多くはないのではないでしょうか。忙しい日々の中でスタッフがお互い何をどう考えているのかということを知るには、叱らなければならない状況の方が、緊迫していてより本音を聞き出せる可能性があります。つまり、コミュニケーションのチャンスと捉えることもできるはずです。

「エンジニアのプロフェッショナルとは」とか「自分たちの会社の方向性は……」といった話は、日常業務の中では充分に議論ができず、なかなか周知徹底できないかもしれません。ですから、トラブルが起きた時に価値観についてのすり合わせを行えば、チームの質の向上につながるはずです。

考え方や振る舞いといった目に見えないことは、急には理解できないことも多いでしょう。ですから、具体的な事例を多く挙げて説明し、その判断基準をなるべく多く示すことができれば、部下の理解も深まります。基準を数値化できるならば再確認し、数値化の難しいものは事例によって価値観と現実とのイメージの乖離をなくし、再発を防ぐわけです。

具体的な例としては、裁判をイメージしてみるといいかもしれません。裁判では判決が示され、その後に判決に至った理由が述べられます。感情ではなく、そこに至った判断基準が示されるのです。また過去の判例などとも照らし合わせることで、当事者以外にも判断基準が周知されていくところも参考になりますね(裁判員制度が始まったら、「感情」が判決に与える影響がどうなるのかわかりませんが……)。

部下の心の中に行動のための基準を作り、それが今後の行動に反映され、ミスが二度と繰り返されないようにすることが叱る目的です。

執筆者プロフィール

佐藤高史 (Takashi Sato)
株式会社コラージュ代表取締役。ビジネスコンサルタントとして人事教育・研修プログラムを数多く開発。著書「最強のプレゼンテーション完全マニュアル」(あさ出版)。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.4(2008年5月発刊)
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