プロジェクトにおいて、業務に結びつくコミュニケーションができるかどうかは、リーダーにかかっていると言っても過言ではありません。しかし、年齢やキャリアなど、さまざまなバックグランドを持つ部下たちをまとめていくのは至難の業。今回は、職場のリーダーとして、部下のココロを的確につかんでコミュニケーションをうまく回していくためのコツをお伝えします。

"空気"を作るのはリーダーの仕事

優れたコミュニケーションが成立している職場を作るには、発信者と受信者が自分たちの行動を分類し、ブラッシュアップさせていく必要があります。ここでは、より具体的にプロセスを掘り下げてみましょう。

コミュニケーション不全は、その理由を知ることで事前に回避することができます。それにはリーダーが、自身とチーム内のメンバーの行動を日頃から注目し、少しでも「問題アリ」と判断したら、すぐに修正しなければなりません。深刻な問題が起きるチームは、リーダー自身の行動に問題があったり、リーダーが他のメンバーの行動に関心を持たず、望ましくない行動を見逃していたりするケースが多いからです。

風通しが良く、業績に結び付くコミュニケーションが実現されているチームでは、リーダーが問題の芽を摘むことで、チームの空気や文化という無形の財産が積み上げられています。

曖昧な指示はズレを生む大きな原因

リーダーが明確さを欠いた表現でメッセージを発信した場合、受け手に理解する幅を与えてしまうことになります。

例えば、リーダーが「急ぎで」という指示を口頭で行ったとしましょう。リーダーは「口で言っているのだから今すぐ着手すべきだ。部下はそれをわかってくれるだろう」と思っているはずですが、部下は「自分が今作業中であることを見ていたはず。だから手が空いた時にやればいいのだろう」と理解する可能性もあります。こうしたズレを生む原因は、明確な日時指定をしていない発信者側、つまりリーダーにあることがほとんどです。

寛容になるべからず

「下を見ているが話は聞いています」という態度を取ったり、時折ディスプレイから顔を上げながら会話をしたりする部下がいるとします。あなたは部下のことを「まあ、話は聞いているのだろう」と考えるかもしれません。ここで注意すべきなのは、「皆忙しいのだから、仕事をしながら話を聞いていたとしても仕方がない」と寛容にならないことです。 これは優しさや寛大さではなく、単なる甘やかしです。「細かいことを言うリーダーだ」と思われても、大きなミスや、チームの結束にマイナスの影響があることを考えれば、人の話を聞く時は目を見るという当然の態度を徹底するよう指導すべきです。筆者は最近このような、話を聞く態度が悪い人が増えていると感じていますが、彼らが社外に出向いた時、どのような問題が起きるかを想像してみてください。

また、表面上は話を聞いているように見えても安心できません。人は元来、話を聞くことよりも自分から話すことを好むものです。聞いているように見えて、実は「次に自分がどう話そうか」と思案しているケースが多いはずです。これはご自身の胸に手を当ててみればわかることでしょう。

とはいえ、相手の状況を思いやるというスタンスも必要です。相手が忙しい状況で複雑な話を投げかけても、適当な反応しか返って来ないはずです。それは、相手が受信できるタイミングではないからです。受信時の相手のコンディションに気を配るという考え方そのものがチームに定着すれば、良好なコミュニケーションを実現するためのベースにもなります。

「わかった」はあてにならない

"理解が正しくできている"という判断は、実は簡単ではありません。メッセージの一部を理解し、一部を誤解しているケースもあります。一部は理解できなかったが、調べた後で理解に至った、ということもあるでしょう。さらに、受信した本人が「理解したと確信して誤解している」ケースもあれば、「理解できていないように見えて、実は読み取ることができている」ケースもあります。これは業務の内容によって様々なパターンがあると思います。

ここでの問題は「しっかりメッセージを受信しているかどうか」ということです。聞く姿勢が良いために、リーダーは部下や同僚がわかってくれた! と早合点してしまう危険があることを常に考えておく必要があります。メッセージを受信する側は、「恥ずかしい」という見栄や、「怒られるのではないか」という恐怖など、複雑な心境でリーダーのメッセージを受け止めています。「わかった」「はい」といったやりとりがあったからといって、それが完全な理解を保証するものではありません。

数多くのコミュニケーションの問題は、メッセージが不完全な理解のまま次の行動に移されてしまうことから起きています。リーダーには、言語による了解というサインだけではなく、その後の行動で疑問が生じた場合も後追いで確認し続けるといった工夫が求められます。時間が経てば、完全にその人の能力を把握して信頼関係が構築され、言葉によるコミュニケーションが機能し、ミスも少なくなるはずです。やりとりの経験が少ないうちからメッセージを丸投げし、うまくいかなかったら責めるという態度では、いつまで経っても部下の信頼を得ることはできません。

執筆者プロフィール

佐藤高史 (Takashi Sato)
株式会社コラージュ代表取締役。ビジネスコンサルタントとして人事教育・研修プログラムを数多く開発。著書「最強のプレゼンテーション完全マニュアル」(あさ出版)。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.2(2008年1月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。