業界のヒエラルキー構造からの脱却を
筆者は取引先開拓に焦るあまり、多重請負契約で行っていた取引において、直接取引きを持ちかけてしまいました。その結果、大きなトラブルを招く事態に陥りました。そうしたなか、元請けのA社が手を差し伸べてくれました。
ここで誤解のないように説明をしておきますが、A社は中間会社を省くことによるコストダウンなどを目論んでいたわけではありません。事実、後に筆者の会社は、2次請けの会社と同条件での契約が保証されました。
A社の担当部長にとっては、「多重請負構造というIT業界の悪しき慣習を改善したい」という考えから出た策でしたが、筆者にとっては結果的に元請けとの営業ルートが開かれたので「災い転じて福」となりました。ただ、以後はこのようなビジネスマナーには十分気を付けることを心がけました。A社は今でも当社の大切な取引先です。
現在のIT業界は、請負適正化の一環として多重請負構造を排除するようになってきています。SIerからの請負は、多くても2次請け(孫請け)までが原則です。当社も現在はすべての取引がSIerからの1次請負となっています。
ただ、今後はユーザー企業からの直請けを当面の目標としており、大手SIer主導の業界ヒエラルキー構造からの早期脱却を目指しています。
試行錯誤
その後も取引先の開拓は試行錯誤の連続です。社員時代に知り合ったエンジニアに営業担当者を紹介してもらって取引を申し入れたり、飛び込み営業を行ったりしました。このような活動を開発業務の合間に少しずつ積み上げていったのです。その結果、今では十数社の取引先を確保しています。
実際には相当数の会社に対して営業活動を行っていたのですが、その時点で先方からの要望に応じた請負体制を作れなければ後の取引につながらないという機会損失ばかりが発生したため、多くの営業が徒労に終わりました。「数十件に1件でもモノになればマシ」筆者はこんな初歩的な新規営業の基本も、この時初めて学んだわけです。
人は成功体験よりも、失敗体験から多くのことを学ぶと思います。実際、今まで筆者なりに少なからずの成功体験はあったと思いますが、実はほとんど記憶に残っていません。反対に失敗体験は、「冷や汗」も含めて鮮明に覚えています。ですから、このコラムも自然と失敗談をお伝えすることに多くを費やすことになっています。
次回はシステム開発の道から逸脱し、Webコンテンツプロバイダーへ方向転換を図ろうとして犯した失敗についてお伝えします。
執筆者プロフィール
雨宮 国和(Kunikazu Amemiya)
株式会社ウイルワークス・システムズ代表取締役社長。十数年に渡るエンジニア経験を経て2002年に会社を設立。最近はバイクにハマる40代。Bar好き。
『出典:システム開発ジャーナル Vol.3(2008年3月発刊)』
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。