本連載は、システム開発ジャーナル女子部が、ITエンジニアの皆さんにとって役立つ情報をお届けするコーナーです。出産休暇・育児休業を取得中の社員が自宅にいても会社の情報を入手できるよう、SNSを立ち上げたINAX。前編となる今回は、同社で人事・総務統括部 人事・総務部 EPOCH女性活躍推進室 室長を務める桑原靖子さんに、同SNSを構築したきっかけを中心にお話を聞きました。

すべての社員が能力を存分に発揮できる企業を目指して

ご存知の方も多いと思いますが、INAXは1924年に創業し、タイルなどの建材商品およびトイレやキッチン、ユニットバスなどの住宅設備機器を製造・販売するメーカーです。桑原さんは、同社で人事・総務部EPOCH女性活躍推進室(以下、EPOCH)という、女性の活躍を推進する専門の部署で室長をされています。

INAX 人事・総務統括部 人事・総務部 EPOCH女性活躍推進室 室長 桑原靖子氏

残念ながら、日本企業の中には、過去の悪しき慣習、性別・年齢・国籍といった属性による差別を残しているところがまだまだあります。このように、仕事に直接関係のないことが原因で能力を発揮できない社員がいる状態を元に戻すために、労務の面と人材開発の面から修正していくというのがEPOCHの活動の目的だそうです。具体的には、以下の3点を柱に活動を行っているとのこと。

  1. 活躍促進…「女性社員いかに自律的に活躍してもらうか」、「管理職に部下をいかにマネジメントしてもらうか」といったことを実現するため、活躍している人をイントラネットやSNSで紹介したり、自律人材になるための研修を企画したりする。
  2. 風土改革…多種多様な価値観を戦力に変えていく。また、時代の変化に合わせて、長い間かけて作り上げられてきた風土をどのよう醸成していけばいいのかについて、トップダウン・ボトムアップの両面から実施する。
  3. 阻害要因の解消…育児休業をはじめ、社員が働きやすい環境を整備する。

EPOCHが運営しているイントラネットのトップ画面

これらを推進するため、桑原さんは日々さまざまな企画を考えているわけですが、今回紹介する「育児休業中の社員向けSNS」はEPOCHの企画の1つとして生まれました。

SNS採用の決め手は安価な初期投資と導入の手軽さ

SNSを構築したきっかけを桑原さんにうかがったところ、「育児や介護などで休業する人に対しても会社の情報を提供したいというところから始まりました。当社はイントラネットを構築しているため、当初は各社員の自宅のPCから社内のイントラネットサーバに接続するという手も考えましたが、セキュリティ上実現が難しいと言われてしまって断念。そこで、ほかに方法はないかと検討した結果、SNSという媒体を思いつきました」という答えが返ってきました。

SNSは、長い目で見るとコミュニティとして育てていくこともできるうえ、外部のレンタルサーバを採用することで開発費をほとんどかけることもなく安価な初期投資で始められることが、選択の決め手となったそうです。

早速、情報システム部にSNSを導入するための具体的な方法について相談したところ、「まずはデザインや機能を作り込まずに、始めることを最優先に考え、カスタマイズを行わない最も安価なプランから開始することになった」と桑原さん。このように、コストのリスクを負わなかったことが、モチベーションが高いうちにSNS導入に漕ぎつけることができた理由だったとのことです。

復職後"浦島太郎"にならないために情報を提供

桑原さんは、「育児休業後に復職した社員から、"復職した直後、会社がどのように変わってしまったのかまったくわからない、まるで浦島太郎のような状態だった"という話を聞いたので、休業中でも会社の情報が入手できる状態にして、少しでも早く即戦力として復帰してもらえるように手助けするのがSNSの狙いでした」と話します。

同社では育児休業を取得後の復職率が高いため、休業中の女性社員がスムーズに復職できるような手段を講じることが重要な課題だったのです。

執筆者プロフィール

藤城さつき(Satsuki Fujishiro)
コンピュータ関連業界で働く女性のためのコミュニティ「eパウダ~」を運営。男性が多いこの業界における女性の人間関係・働き方・生き方について日々模索中。株式会社タンジェリン( http://tangerine.co.jp/top.htm ) 代表取締役。