子供がCOVID-19に感染して発症した。少なくとも10日は学校を休み、症状から判断して、自宅隔離で陰性になるのを待って登校再開になると思った。これまで家族の誰も濃厚接触者にもなったことがなく、感染者や濃厚接触者になった時の情報が古いままだったからそう思ったのだが、学校に連絡して今の米国の感染対策を知ってから、この2週間は驚くことの連続だった。

まず、昨年末にCDC(米疾病対策センター)が感染した人の隔離期間をそれまで推奨していた10日間から5日間に短縮していた。多くの学校がそれに従っており、子供の学校も自宅隔離期間が「症状が現れた日または陽性と判った日から5日」になっていた。回復して平熱になったら6日目から登校できる。ただし、10日目が終わるまではマスクを着用しなければならない(米国の公立学校の多くでは、3月にマスク着用義務が解除されている)。

子供の快復力はすごいもので、2日ぐらいで症状は治まってしまった。私がワクチンの副反応で寝込んだ時の方がひどかったぐらいだ。しかし、ウチは完全に陰性になるまで学校を休ませた。すると、連絡の時に子供の状態を聞いた事務の人が「元気ならマスク着用で登校できますよ」と教えてくれた。おそらく、ウチのようにルールが変わったことに気づいていない人がいるから知らせるようにしているのだろうが、陰性確認を勧めるならともかく、「陰性確認前の登校」が"可能なら避けるべきこと"になっていない。

小中学生もワクチンを打てるようになって、症状が出ていない陽性の子供が登校することがあり得るのは覚悟はしていた。しかし、感染に気づかないまま登校するのと、陽性の可能性を分かっていて登校するのは同じではない。3月に授業中や校内活動時のマスク着用義務が解除されており、ワクチンを接種していない子供も少なくない年齢層でこの緩さには危うさを覚えた。

コロナ禍の出口戦略、「エンデミック」とは?

今、米国はコロナ対策で「エンデミック」(endemic)を目指している。昨年11月、Reutersのイベントで、バイデン大統領の首席医療顧問を務める国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長が、2023年に米国でCOVID-19がエンデミックになれる可能性に言及した。

当時はオミクロン株が猛威を振るっており、感染者が急増して今年1月初旬には感染確認数の7日間平均が80万人/日を超えるような状況だった。エンデミック化なんて夢物語に聞こえた。しかし、1月末から一転、劇的に減り始めて3月末には3万人/日以下にまで減少。エンデミックを目指す出口戦略が現実味を帯び始めた。

  • Googleが提供している米国のCOVID-19感染確認数、4月後半から上昇の兆しが見られ現在の7日間平均が7万人/日を超えた

    Googleが提供している米国のCOVID-19感染確認数、4月後半から上昇の兆しが見られ現在の7日間平均が7万人/日を超えた

「エンデミックになる」とはどういうことなのだろうか。「end」が頭に入っているため、新型コロナとの戦いの"終わり"の段階という誤解も広がっているが、エンデミックは一定の期間や一定の地域に感染が発生する流行を指す。エンデミックでも感染は拡がるし、安全ではない状況であることに変わりはない。では、パンデミック(感染爆発)やエピデミック(広地域への感染拡大・流行)との違いは何かというと、オバマ政権で医療保険改革を率い、バイデン政権で一時COVID-19対策のシニアアドバイザーを務めたアンディ・スラビット氏は「感染や流行のパターンを予測できること」という定義を示している。

過去2年以上の感染に関するデータ。ワクチン、家庭ですぐに結果がわかる簡易検査キットや重症化を防ぐ治療法といった対策も揃ってきて、対策効果の予測も可能になってきた。流行の予測に基づいて先手を打って対策することで、これまでエピデミックになっていた感染を社会、生活、経済に影響が及ばないようにおさえ込む。

流行性のある季節性インフルエンザだって、流行シーズン前に予防接種を打たなかったら爆発的に感染が広がる可能性がある。そのため、ワクチンに抵抗感を持っていない人が面倒くさがらずに予防接種を受けることが重要になる。だから、ファウチ氏は、全体の70%を超えたところで止まってしまった米国のワクチン接種率の向上、そして追加接種(ブースター接種)がエンデミックのフェーズに進む鍵になるとしている。

エンデミックというCOVID-19と共存する出口戦略を示され、2月・3月に感染確認数を低く抑えられたことで社会が明るさを取り戻した感がある。それを推進力に、社会全体がエンデミックという目標に向けて大きく舵を切り始めた。4月にGoogleが本社オフィスを全面再開し、Appleも4月から段階的に本社オフィス再開を進めていくなど、シリコンバレーでオフィスで再開する動きが広がっている。それもエンデミックに向けた変化の1つといえる。

  • 米国では今年1月に住所をベースに各家庭に4回分の簡易検査キットを無料配布するエンデミックを目指した施策が行われた(さらに3月に4回分を追加)

しかし、油断はできない。2月の急減で安心感が広がっているが、春は過去2年とも季節的に感染確認数が減少しており、特に今年は1月の簡易検査キットの無料配布によって、家庭で検査しただけで感染者に数えられていない感染者が多数いると見られている。

エンデミックを目指すという米国の方針は間違っていないと思う。問題は示された出口に浮かれすぎな感があること。過去2年に見られた7〜8月の増加、そして冬の増加をおさえ込めるか、また比較的予測しやすいオミクロンの亜種ではない変異株が現れた時にも対応できるかでエンデミック宣言の可能性は変わってくる。今はまだ次の流行を本当に予測・コントロールできるか不透明な段階なのだ。夏の感染拡大の可能性に向けて、むしろ警戒を強めて行くべき時期なのに、3月以降の米国は緩和に歯止めがかかりづらくなっている。

米国などでの解除によってマスク着用ルール緩和の議論が日本でも広がっているが、影響を予測できる範囲の緩和ならCOVID-19と共存するエンデミックに沿った緩和になる。だが、エンデミックという出口に急ぐあまり、予測を難しくする緩和にまで踏み込んでしまっては本末転倒である。