Morning Consultが米国で行ったアンケート調査によると、今年は5人に1人(19%)が「Dry January」に参加している。昨年の13%から6ポイントの上昇だ。同社は1月10日に調査結果を公表しており、その報道でDry Januaryを知った人が参加して今はさらに増えている可能性が高い。

Dry Januaryは2013年に英国で始まった1月に飲酒(アルコール)を控えるキャンペーンだ。お酒を飲む機会が増える12月に飲み過ぎて、その調子で1月も……では体に良くない。心身の健康のために1年の最初の月を酔わずに過ごす、アルコール問題対策から始まったのだが、それが米国では若い層を中心とした「Sober Curious」ムーブメントの広がりによって参加者を増やしている。Morning Consultの調査では、年齢層別の参加率でミレニアルズが「27%」と最も高い。

  • Morning Consultの「Dry January」アンケート調査結果、年齢層別の参加率(米国の21歳以上、2,085人が回答)。同社は1月4〜5日に調査を実施

    Morning Consultの「Dry January」アンケート調査結果、年齢層別の参加率(米国の21歳以上、2,085人が回答)。同社は1月4〜5日に調査を実施。

夏のビアガーデンで飲む冷たいビールや、料理をよく知るソムリエが選ぶワインは格別である。でも、そうした美味しさもアルコールを受け付けない人には苦痛でしかないし、飲める人であっても飲みたくない日もある。ダイエット中だったらアルコールは禁物だ。しかし、お酒は社交の潤滑油と言われ、集まる時にはお酒になり、仕事の付き合いでも求められ、そしてお酒は文化として尊重される。

Sober Curiousムーブメントは、ルビー・ワーリントン氏が2018年に出版した著書「Sober Curious」をルーツとする。何も考えずにお酒の文化を受け入れるのではなく、アルコールをなぜ飲むのか、なぜ飲まないといけないのか、そしてアルコールが自分のウェルビーイング(健康や幸福)に及ぼす影響を考えることを提案している。

ワーリントン氏は集中力が高まり、質の高い睡眠を得られるといった"しらふ"でいるメリットを紹介しているが、Sober Curiousはアルコールを否定するものではないし、断酒のすすめでもない。お酒を楽しんだ方が仕事もプライベートも快調という人もいるだろう。ただ、これまでのお酒の文化において、アルコールとの関係について考えることが、アルコール摂取を減らしたり、習慣的に飲むのをやめることにつながる人が大多数になる。自分にとってアルコールを摂取しない暮らしはどのようなものになるのか、まずは止めてみないと変化に気づけないので、「Dry January」はお酒と自分の関係について考える良い機会になっているというわけだ。

"アルコール断ち月間"は、アルコール文化からは煙たがれる。バーや居酒屋、お酒を提供する飲食店にしてみたら営業妨害のような提案である。アルコール産業は巨大であり、広告費世界一のスーパーボウルでは毎年ビール大手が最も目立つCM枠を獲得し、お酒を宣伝している。

それでもDry Januaryに参加する人が増えているというのは、従来のアルコールのソーシャルスタイルがあたり前でなくなろうとしていることを示す。今年Dry Januaryが始まってすぐに、ビール大手Pabst Brewingが同社のビールブランド「Pabst Blue Ribbon」のTwitterで、酔っ払いの暴言風にDry Januaryを揶揄した。酔っ払いは大目に見てもらえるアルコール文化のノリでツイートしたのだろうが、下品なジョークは不発に終わった。前向きにアルコールを控えている人たちに対して無神経であるという批判を浴び、Pabst Brewingはツイートを撤回して謝罪。逆にSober Curiousの価値を知らしめる結果になった。

Sober Curiousに関心を持つ層は19〜34歳に集中しており、飲酒人口全体に比べたらまだ少数だが、それらは次代のオピニオンを作る層である。NielsenIQによると、昨年は1月~10月にノンアルコール飲料の売上が前年同期比33.1%増、低アルコール飲料が同8.1%増だった。ノンアルコール/低アルコール飲料の市場は、2015年から5倍以上に拡大している。

今起きているのは、お酒の否定ではなく、アルコールが苦手な人も含めて、より楽しめるようにする文化の再構築である。市場にはノンアルコール/低アルコール飲料の商品が増え、料理とうまく合わせて楽しめるなど、アルコール入りのお酒の代わりになる飲み物が充実し始めている。例えば、以前はモクテル(Mocktail)というと甘いジュースみたいな商品ばかりだったのが、今は大人向けのテイストの商品が増えている。

  • 「妥協ない醸造」をアピールするノンアルコールIPA。大手から地ビールまで、ビールとして美味しいノンアルビールの選択肢が増えている。

New York Timesが「ゲストが本当に楽しめる6つのモクテル」という記事を掲載し、ミュージシャンのケイティ・ペリー氏が「De Soi」というノンアルコールのアペリティフを販売する事業を手がける。かつてF1ではタバコ企業やビールブランドが車体を彩っていたが、今はHeinekenがサーキットで大きく「Heineken 0.0」(ノンアルコールビール)をアピールしている。健康・安全と経済の両立が求められるコロナ禍の影響も大きく、お酒市場は従来の酔いの市場から、アルコールが苦手な人も含め、誰でもお酒と良好な関係を作れるドリンク市場に成長の機会を見いだそうとしている。

  • ケイティ・ペリー氏がディスティラーのモーガン・マクラクラン氏と共に創業した「De Soi」