シリコンバレーにはTeslaオーナーが本当に多い。Teslaの一般的なイメージというと「EV(電気自動車)」、「革新的な取り組み」、そして「高級車」だと思うが、Teslaだらけで日常的に路上でTeslaに遭遇するシリコンバレーではトップ3に「ドライバーのマナーが悪い」が入ってくる。
Hotcarsの「こんな習慣で私達を悩ませるTeslaオーナー」という記事を読むと、15位の「お高くとまっている」から始まって「充電ステーションに割り込み」「(ハイトルクで)タイヤ跡を残す」「TeslaだけがEVブランドだと思っている」などが続き、堂々の1位は「方向指示器をほとんど出さない」(=周りのことなんか考えていない)だ。かなり面白おかしく誇張された記事ではあるが、当たらずといえども遠からずだ。
Redditのシリコンバレー板には「Tesla Drivers: Why are you so bad at driving?」というスレッドが立っている。実際、高速道路でTeslaのドライバーから無理に割り込まれたり、猛スピードで追い越されるのはよくあることで、Teslaが近づいてくると用心する。そうしたマナーの悪さは高級車のドライバー全体に言えることでもあるのだが、2017年にAAAがTeslaの保険レートを30%引き上げている。理由は、同じクラスの他の車に比べてTeslaのオーナーからの保険金請求数が多く、支払い額が平均を上回っているため。当時Teslaは破損しやすいのではないかという安全性の議論が広がったが、ドライバーの運転マナーも原因の1つと見られた。
そんなTeslaだが、数年後にはTeslaドライバーのイメージが一転しているかもしれない。リアルタイムの走行データに基づいたセーフティスコア(Beta)による保険商品の提供をテキサス州で開始したからだ。
いわゆるテレマティクス保険であり、同様の保険商品はすでに欧米や日本でも登場しているが、Teslaの場合、計測用のデバイスを自動車に取り付ける必要はなく、車の性能やセンサーを余さず反映できる車両のシステムからの走行データからセーフティスコアを計測できる。一般的に保険会社が使用しているクレジット、年齢、性別、国籍、運転記録、保険請求履歴などは用いず、ドライバーの運転行動に基づいて毎月の保険料を算出するという。
欧州連合(EU)では性別による区別を禁じて男女同一の保険料が求められている。統計的に女性の方が安全に運転する可能性が高くても、それが全ての女性に当てはまるわけではない。長年運転しているからといって運転がうまいとは限らないし、若い人が全員むこう見ずなドライバーではない。事故や車両破損の可能性は個々で異なる。Teslaによると、リアルタイムの運転行動を用いた保険によって、平均的なドライバーで20〜40%、最も安全なドライバーなら30〜60%も保険料が安くなるという。
大まかに、セーフティスコアには以下の5つが影響する。
- 前方衝突警告
- 急ブレーキ
- 急ハンドル
- 安全回避できる車間距離をとらない運転
- オートパイロット時にハンドルから手を離すなどして警告を受けた後も問題が継続し、オートパイロットが強制解除される。
TeslaがAppleとよく比べられる理由の1つがパーソナルな体験の提供を重んじていること。Teslaの車は"走るスマートフォン"と呼ばれて従来の車とは一線を画され、MacがパソコンではなくMacと呼ばれるの同じように、Teslaはオーナーから愛着をもって車ではなく「Tesla」と呼ばれる。
初期のMacがそうであったように、これまで"走るスマートフォン"は高価で、そのため「お金持ちのおもちゃ」のようにヒットし、結果"お高くとまったTeslaオーナー"というイメージが定着してしまった。
しかし、路上でマイナーな存在だったEVが少しずつ普及していく段階を迎え、Teslaも「Model 3」で普及帯を開拓している。この夏から秋にTeslaの状況は大きく変わってきた。例えば、JATO Dynamicsの調査で、欧州においてTeslaのModel 3が9月に月間販売台数トップになった。EVがトップになるのはこれが初めて。また、米国でレンタカー大手のHertzがTeslaに100,000台を発注した。
テキサス州で始まったTesla独自の保険も、一般消費者へのアプローチの1つと言える。高級車のオーナーが保険料を少しでも節約したくてセーフティスコアを気にすることはないだろうが、普及帯のTeslaに興味を持っている人にはうれしいサービスである。
ハードウェアとソフトウェア、そしてサービス(保険)が連携して、安全な運転をサポートする。車好きにも、そして運転が苦手な人にとっても車がより身近な存在になりそうだ。Teslaはより多くの人にとって手の届く車になろうとしている。MacのGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)がコンピュータの専門家ではない広く一般の人達にインパクトをもたらしたように(The computer for the rest of us)、"走るスマートフォン"が真価を示すのはこれからだ。