コロナ禍で事業のオンライン化に踏み切るビジネスが増えているが、ネットショップなどを作るためにまず必要になるのが銀行口座。だが、ビジネス口座の用意がスピーディなネットショップ開業のボトルネックになることがままある。
決済代行サービスのStripeによると、銀行でビジネス口座を開設するのに平均5.5日(オンラインビジネスの場合は平均7日)かかり、全体の約23%のビジネスが口座開設のためにFAXを送信しなければならず、半数以上(55%)のビジネスが口座開設のために銀行の支店に出向いている。例えば、海外滞在中に新しいビジネスチャンスに出会ったとする。今はネットショップの構築をサポートするShopifyや決済をサポートするStripeのようなプラットフォームサービスがあるから、思いついた時すぐに新しいオンラインビジネスを形にできる。その場でどんどん進めていくのが望ましい。ただ、ビジネス口座の開設がからむと「すぐに開始」とはいかず、一度米国に戻ってビジネス口座を整えなければならない。
12月3日にStripeが「Stripe Treasury」を発表した。ShopifyのようなStripeプラットフォームの顧客がAPIを通じて顧客にバンキング機能を提供できるようにする。「Banking-as-a-Service」だ。バンキング機能は、Goldman SachsやEvolve Bank & Trustといった提携銀行が提供する。
下の画像はStripeのWebページに掲載されているTreasuryのデモである。Rocket Ridesという架空の航空旅行プラットフォームがTeasuryを通じて、ユーザーの口座作成、入金や送金を処理している。
「76%の企業が産業に特化したソフトウェアプラットフォームを使用してビジネスを管理しており、従業員数500人を超える企業では92%にまで増加しています。そうした状況において、オフラインのバンキング体験はますます不調和なものになっています。Stripeのユーザーからは彼らの業務を支えるソフトウェアプラットフォーム内で直接利用できる金融サービスのデジタルソリューションを希望するフィードバックが寄せられています。一方で、Stripeのプラットフォームのお客様の間で、金融サービスを自社製品に組み込みたいと考える傾向が強まっていますが、それを実現するための障壁に直面することが少なくありません」(Stripe)
Shopifyのようなプラットフォームやその顧客は、効率的でムダのない金融サービスのデジタルソリューションを求めているものの、Goldman Sachsのような金融大手は、そうしたニーズに応えられる柔軟性を備えていない。だからといって、金融企業がデジタル化に踏み切ることで解決するかというと、現金時代の取引慣行に従った従来の仕組みを必要とするビジネスはまだまだ多い。容易に切り捨てられるものではない。StripeはSpotifyのようなインターネット企業と、柔軟に変化することができない金融企業の間に存在し、プラットフォーム顧客の利用者がソフトウェアプラットフォーム内で、支払いの受け取りや送金、お金の管理といった金融サービスを受けられるソリューションを提供する。
テクノロジーアナリストのBen Thompson氏は、Stripe Treasuryを「WindowsのようなOSを思わせる、教科書に載せられるようなプラットフォーム効果の例」と表現した。パソコンのOSが抽象的なレイヤーとして存在することで、多様なパソコンで機能するソフトウェアを開発者が提供でき、さまざまなサービスやビジネスがパソコンを事業に活用できる。それによってパソコンを活用したエコノミーが発達し、パソコンが私達の生活や社会、仕事に欠かせないものになっている。Stripe Treasuryはインターネット企業と従来の金融ビジネスをシームレスに結ぶ抽象的なレイヤーである。
2010年にサンフランシスコで設立されたStripeは、「インターネットの経済インフラを構築する」をミッションに、10年間でユニコーンの評価額トップ5に入り続けるまでに成長した。しかし、創業者の1人であるJohn Collison氏はまだ始まりにすぎないと強調している。過去10年間、欧米のGDPにおいてインターネットは成長の大きな部分を占めるセクターであり続けた。だが、事業をインターネットにも進出させるのとインターネットを基盤としたビジネスを構築して運営するのは異なる。
スーパーでの買い物や学校の授業、医師の診察などにインターネットを使うことを想像だにしなかった人達が、その必要性からネットを利用し始めている。コロナ禍をきっかけに、快適にオンラインでモノを購入したり、サービスを利用できる環境が求められるようになり、そうしたニーズに応える動きがこれから活発化するだろう。日本でも先週、オンラインでの契約やサポートを前提としたドコモの「ahamo」が大きな話題になったが、従来のビジネスでは得られないインターネットのメリットを体験してもらい、変化を受け入れてもらえるチャンスとStripeのような企業は捉えている。