渋滞税とも呼ばれる「Congestion Pricing (渋滞課金)」の導入を問うコミュニティ・フィードバックの収集がサンフランシスコ地域で始まった。朝夕のラッシュアワー時にサンフランシスコのダウンタウンとSoMa地区に入ってくる自動車に最大14ドルの料金を課して交通量を減らそうというもの。過去にも導入が検討されたが、市場調査で「強く反対」が半数を超えて実現しなかった。だが、今年は新型コロナウイルスの影響でサンフランシスコの道路から渋滞が消え、市民やサンフランシスコで働く人達がその快適さを実感している。米国で交通渋滞がひどい都市トップ3に数えられる状態にこのまま戻るか、それとも大胆な改革を行うか、コミュニティの声を聞く。
サンフランシスコはUberやLyftといったオンデマンド配車サービスがよく普及している米都市の1つである。いつでもどこにいても、アプリに目的地を入れて配車を頼むとすぐに近くのUberドライバーが見つかる。自分で車を運転するよりオンデマンド配車サービスを使った方が楽に移動できる。2015年、当時UberのCEOだったTravis Kalanick氏は、サンフランシスコを走る車が全てUberになったら交通渋滞が完全解消すると述べ、自家用車を使わずに出かけるように呼びかけた。
それなのになぜ渋滞課金が必要なのかというと、オンデマンド配車サービスが普及して渋滞が緩和するどころかさらに悪化しているからだ。市内の車の平均移動速度は、13年連続で前年より遅くなり続けている。悪化の原因は、人口の増加、好調な経済、そして皮肉にもライドヘイリング需要の高まりである。
オンデマンド配車サービスの普及によって、これまで車を使っていた人達が複数の人達と相乗りするライドシェアリング・サービスで通勤するようになり、バスや鉄道といった公共交通機関の利用が増え、自転車や徒歩での移動も活発になって交通渋滞は緩和するはずだった。自転車や電動スクーターのシェアリングといった新たな移動ビジネスの成長も期待された。ところが、利用が増えたのはライドシェアリングのような車を減らすサービスではなく、Uberなどをタクシーやハイヤーのように使って目的地まで運んでもらうライドヘイリング・サービス。UberやLyftを利用する人ほど公共交通機関や自転車を使わないという逆の結果になり、ライドヘイリング需要の高まりによって市内を走る車が増えるという悪循環が起こってしまった。
こうした現象はサンフランシスコだけではなく、ニューヨークでも見られており、ニューヨーク市は昨年マンハッタン南部を通行する車から渋滞課金する予算案を可決した。ニューヨークというと、街中をイエローキャブ (タクシー)が走っているが、2016年にUberやLyftの車がイエローキャブを上回り、2018年時点で6倍以上の約80,000台に増加した。ライドシェア/ライドヘイリングの登録台数の制限に乗り出した市議会に対し、それを避けたいライドシェア/ライドヘイリング事業者が渋滞緩和策として渋滞課金を提案したという経緯がある。
技術志向で失敗するスマートシティ
ロンドンやシンガポールなど、渋滞税を導入した都市では渋滞の緩和と交通量の減少が確認されている。人やモノの移動だけではなく、安全や空気質の面からもサンフランシスコの渋滞対策は待ったなしの状態である。しかし、サンフランシスコ市は渋滞課金を強行せず、渋滞を住民が住民の問題として考えた上での解決策になることを重んじている。なぜなら、交通は環境・エネルギーや医療と共にスマートシティの重要分野であるからだ。
都市のスマート化は、イノベーションがあり、データ分析やコネクテッドテクノロジーを用いて人々の生活を向上させる都市再生と見なされている。だが、特にシリコンバレーにおいては、技術志向・産業主導の傾向が強く、新しい技術やサービスの導入が目的になってしまいがちだ。その結果、サンフランシスコにおけるオンデマンド配車サービスのように、従来の移動を変えるサービスが普及しても市民の問題解決に結びつかないようなことが起こる。
「人々の生活向上」という本来の目的に適ったスマートシティを実現するためには、住民主導で、解決すべき問題を住民の視線で捉え、導入すべき技術や必要な制度を探るべきだ。だから、市民が新型コロナ禍で車が少なくなったサンフランシスコを体験し、これまでとの差異から渋滞の問題を肌で感じているタイミングで、自動車の通行量が多すぎる問題を解決する取り組みを市民に問う。フィードバックはテキストメッセージで収集する。シンプルな賛成/反対は受け付けない。渋滞課金の料金案(10ドル/12ドル/14ドル)、プラン案、料金を徴収する時間帯やゾーン、渋滞緩和策などについて意見のみを求める。