候補者討論会が始まって11月3日の投票日に向け米大統領選は終盤戦へ突入したが、今回の選挙は世代別の投票率の変化も注目点の1つになる。これまで政治に大きな影響力を及ぼしていたベビーブーム世代の声が衰退し、世代交代が始まる選挙になるかもしれないからだ。
米国ではここ数年で若い層の投票率が向上している。例えば、2018年の中間選挙のミレニアルズの投票率は42%だった。X世代 (40代、50代)の55%、ベビーブーマー (60代、70代)の64%に比べたらまだまだ低いが、2014年の中間選挙の時はわずか22%だったのだ。ミレニアルズはベビーブーマーに匹敵するぐらいの有権者人口なのに、国政選挙で存在感を発揮できていなかった。その頃に比べると、今は有権者になり始めたZ世代を含めて若い層が影響力を発揮し始めている。
そして今回、9月中旬の時点でFacebook/ Messenger/ Instagramを通じた有権者登録 (投票するために多くの州が義務づけているもので、自分が住む州であらかじめ登録しておく)が250万人を、Snapchatを通じた登録が75万人超えた。すでに前回を上回っており、このペースだと今回はソーシャルメディア経由が500万人を超える可能性がある。その一方で、全体では新型コロナウイルス禍で外出が制限されるようになった3月以降、登録者数が前月比で4年前を大きく下回っている。有権者登録はオンラインの方が簡単なのだが、これまで対面形式で登録してきた人達にとってオンラインは分かりづらく、高齢層が登録を控えていることで若い層の登録の伸びが際立っている。
選挙に参加する若い層が増え始めた理由はいくつかあるが、大きな理由を1つ挙げると、InstagramやSnapchat、YouTube、Reddit、Twitch、TikTokといった若い層が利用するサービスを通じて投票の価値を説き、選挙への参加を呼びかける運動の高まりである。例えば、Snapchatはヤングアダルトに有権者登録を促すプログラムを設け、オバマ前大統領やアーノルド・シュワルツェネッガー元カリフォルニア州知事、Snoop Dogg、クインシー・ブラウンなどが参加した。ニュース番組のGood Luck AmericaやNowThis Newsでも登録を呼びかけている。Register to Voteというポータルがアプリ内に用意されていて、郵送投票のやり方など選挙に関する情報を簡単に得られる。有権者登録はSnapchat内から簡単に済ませられる。
Snapchatなどをやっていなくて、そうした運動がどのようなものか想像できない方は「When We All Vote」のサイトを覗いてみると雰囲気をつかめる。ミッシェル・オバマ、トム・ハンクス、リン=マニュエル・ミランダ、ジャネール・モネイ、クリス・ポール、フェイス・ヒル、ティム・マグロウなどを共同チェアに、2018年に設立された非営利組織だ。これまでにあった組織と何が違うかというと、投票することが若者にとってポジティブなものになるように、データドリブンかつ多角的なアプローチで、投票に関わるカルチャーを変えることから選挙への参加を促す。National Voter Registration Day (9月22日)の数週間前にミッシェル・オバマ氏がインフルエンサーと呼ばれる人達に直接連絡して協力を求め、今年はビリー・アイリッシュがWhen We All Voteの動画に登場し、ゲームストリーマーやTikTokクリエイターも投票を呼びかけるこれまでにないRegistration Dayになった。「そんな遊び半分で」というような批判的な声も上がっているが、これまでの伝統的なアプローチで変わらなかったものが変わり始めている。
今年の大統領選でミレニアルズとZ世代の投票数がベビーブーム世代を上回るほど伸びる可能性はまだ低いが、オンラインで有権者登録をする人が増え、対面式の有権者登録方法に代表される従来の選挙が次第にオールドスタイルになっていく。今年6月にトランプ大統領がオクラホマ州で開いた選挙集会で広大な会場の2階席に大量の空席が発生した。その際に、TikTokのユーザーグループが参加申し込みをして欠席することを呼びかけたのが一因という見方が広まり、バズることに長けたTikTokユーザーが現実の政治に関わる影響力が注目を集めた。
Z世代のオーディエンス構築を支援するプラットフォームZebraIQが公開した「2020 State of Gen Z Report」というレポートによると、Z世代は動画ファーストであり、友達との連絡にFaceTimeのようなツールを好み、ニュースなどはモバイル動画でキャッチアップする。くしゃみの絵文字で「疑い」や「フラストレーション」を伝えるなど、他の世代とは違った感覚で絵文字やMemeを使いこなす。そしてZ世代は、オンラインゲームやゲームコミュニティ (Fortnite、Twitchなど)、またはソーシャルチャットサービス (Discord、Houseparty)をサード・プレース (自宅や職場とは別の居心地の良い場所)としている。
ゲームメーカーでしかないEpic Games (Fortniteを開発・運営)とAppleやGoogleの対立が大騒動になり、ショート動画サービスでしかないTikTokを米政府が排除しようとしていることを不思議に思った人も多いと思う。ミレニアルズやZ世代にとってFortniteがX世代/Y世代にとってのStarbucksのような居場所になっているからEpicは強気にプラットフォーマーに反旗を翻し、ミレニアルズやZ世代が次代の最大の有権者層になるから中国発のショート動画サービスTikTokの爆発的な普及を米政府が脅威としているのだ。