米国で人気の高い掲示板型のソーシャルサイトRedditが「ヘイト、人種差別、暴力を黙認しない」と宣言した。それに対してBlack lives matterをサポートする人達から、支持ではなく猛烈な反発の声が上がった。なぜか?
Redditは発言の自由を優先し、「いかなるコンテンツも削除しない方針」を掲げている。コンテンツポリシーで「暴力や威嚇、ハラスメント」を禁じているものの、線引きがあいまいで、人種差別が問われるようなコンテンツは意見と見なされる傾向が強かった。結果、Redditに人種差別を助長するようなコンテンツが集まっていた。2015年にSPLC (Southern Poverty Law Center)が「インターネットで最もひどい人種差別コンテンツが見つかるサイト」と非難し、それから改善を求める声に直面したが、消極的な対応が目立ち、2018年にはCEOのSteve Huffman氏が「人種差別はルールに反しないが、ここ (Reddit)では歓迎されない」とコメントしていた。
そのHuffman氏がオープンレターで人種差別を認めないと宣言し、しかもタイトルに「Black lives matter」を入れたから、これまでの経緯を知る人達が怒りを爆発させた。例えば、暫定CEO在任中(2014年~15年)に人種差別やヘイトの問題の解決に努め、抵抗勢力に妨害されたEllen Pao氏は、「The_Donaldのヘイトやレイシズム、暴力を拡声するのではなく、閉鎖させるべきだった。今起こっている問題の多くにあなたは関わってきた」とツイートして、オープンレターの真意を問いただした。また、創業メンバーの1人であるAlexis Ohanian氏が取締役から退き、後任に黒人を据えるように求めた。Ohanian氏はプロテニスプレーヤーのSerena Williams選手と結婚しており、子供に恥じない父親になるための行動だった。
そうした抗議は、またたく間にRedditのユーザーコミュニティに広がった。サブレディットr/AgainstHateSubredditsのモデレーターが、Redditの人種差別コンテンツ問題を指摘し、黒人取締役やコミュニティマネージャーの採用を含む改善策を提案するHuffman氏宛てのオープンレターを投稿。共同署名者に他のモデレーターやユーザーが次々に署名し、6月15日時点で800を超えるRedditコミュニティが参加、数億人規模のユーザーが賛同するオープンレターになっている。Redditで抗議活動が展開されることはめずらしいことではないが、これほどの規模は過去に例がない。
Redditはオープンレターの提案に対して改善を約束しており、そして新たな取締役にY CombinatorのCEOであるMichael Seibel氏を指名した。同氏は黒人である。
日本ではあまりポピュラーなサービスではないので、この問題からRedditのことを危ういサービスのように思う方もいるかもしれないが、Redditは良くも悪くも大きな影響力のあるユーザーコミュニティを持つサービスだ。だから、Ask me anything (AMA: なんでも尋ねてくれ)にObama前大統領や現大統領のTrump氏、Bernie Sanders氏、Bill Gates氏などが登場し、人々の質問に率直に答えてきた。
オープンレターに賛同している人達は、誰にでも自由な発言を認める方針を取り下げることを求めているのではない。誰もが情報を交換でき、地理的障壁に関係なく機会と協力を与えられるオープンなプラットフォームであるWeb。その自由は尊重されるべきである。だからといって、何でも許されるわけではない。日本でもネットにおける誹謗中傷の問題の議論が広がっているが、リアルな世界で許容されないようなことまで許されるような文化がRedditにははびこっている。コンテンツポリシーで暴力や威嚇、ハラスメントが禁じられているのに、現実の非常識が通用してしまうのは自由の範疇を超える。
2000年代中頃にWeb 2.0がバズワードだった頃は「こちら」と「あちら」が別世界だったから、ネットの悪しき面に現実が受ける影響は限定的だった。しかし、今やネットは現実世界の上にレイヤーのように存在する。米国は4年前に、フェイク情報もはびこるネットに現実が塗りかえられた。それからは悪い面が目立つ4年間だったが、新型コロナウイルス禍ではネットが現実の不自由を緩和する力になった。そして4年前とは逆に、現実で起こっているBlack lives matterがRedditの悪しき面を変えようとしている。