ランダムにマッチングした人とビデオチャットでつながって、仕事をしている様子を互いに監視し合う‥‥。「Focusmate」というフリーランス向けサービスだ。

Mediumの投稿で知って昨年秋に試してみたら、意外にも目からウロコの効果を実感できた。奇妙に聞こえるサービスなので、これまで誰かに勧めたことはなかったが、今回はFocusmateを使った時の体験を紹介する。在宅ワークやテレワークが注目される昨今、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方の導入を考えている人達または会社に、そのコンセプトは参考になると思う。

Focusmateは自身を「仮想コワーキング」と表現している。具体的な使い方を紹介すると、まず日時を決めてFocusmateのセッションを予約する。1セッション50分だ。

その時間になったらWebカメラを備えたPCまたはモバイルデバイスのブラウザでセッションに参加する。すると、ランダムに選ばれたFocusmateパートナーが現れるので簡単にあいさつし、互いに自分のタスクを説明して仕事を始める。その間はビデオチャットが通話状態 (マイクをミュートすることは可能)で、相手の様子を横目にひたすら仕事をして50分経ったら「Have a good day!」のような簡単なあいさつをして通信を切る。パートナーとの会話は最小限にとどめ、雑談せず、セッション中は集中してタスクをこなすのが基本ルールだ。

1セッションが50分だから「50分集中・10分休憩」で1時間のセッションを繰り返せる。ただ、私はずっとFocusmateセッションを続けるのではなく、午前8時に2セッション、自宅にこもって仕事をする時は午後1時にも2セッションというように仕事の開始または再開するタイミングで入れていた。

  • 時間によってはうまくマッチングされないことがあるが、午前9時前後や午後1時前後なら確実にマッチングされていたので、同じようなパターンでFocusmateを使っている人が多いのだろう

最初は監視されているようで居心地の悪さを覚えたが、すぐに慣れてしまった。セッションの間は自分の仕事にかかりきりで相手の仕事ぶりを確認することはない。パートナーが他人であることもポイントで、職場の仲間や友達ではないから全く雑談せずにすみ、相手を空気のように扱って仕事に集中できる。かといって、他人と割り切ったドライな関係というわけでもない。集中してタスクを完了させたいという共通の目標を持った同士なので、そこには仲間意識もある。Focusmateを使って最も良かった点は、その快適な距離感だ。最初はセッションをシェアしたくないパートナーもマッチングされるのを覚悟していたが、誰もがパートナーを尊重してくれる人ばかり。常にほど良い緊張感を保って仕事に集中できた。

WeWorkとは異なるコワーキング効果を提供

米国ではフリーランスが年々増加している。元々、個人事業主が多かったところにギグ・エコノミーの成長によって規模の拡大に拍車がかかっている。今ではパートタイムのフリーランスも合わせると労働力人口の1/3以上になっており、2027年には過半数に達するという予測もある。その拡大の波に乗ってWi-Fi完備のコーヒーショップが増え、フリーランスをサポートする様々なサービスが登場した。コワーキングスペースのWeWorkもその1つだ。しかし、WeWorkは上場計画に失敗して撤回。フリーランスは増加しているのに、コワーキングスペースに以前のような勢いはない。

WeWorkのようなコワーキングスペースは、利用者がスペースを共有しても貸しオフィススペースとは異なる。定期的に交流パーティやセミナーを開いて、利用者の交流や協業を促している。様々な業種の人とつながることでアイディアが膨らみ、新しいビジネスにもつながるかもしれない。だから"コワーキング"スペースだ。しかし、その歯車がいつでもどこでも噛み合うとは限らない。刺激になるようなメンバーとの出会いに恵まれなかったら、コワーキングスペースをシェアする他の利用者はカフェにたまたま居合わせた人と何ら変わらない

Focusmateでは、コワーキングスペースのように他の利用者が同じ場所にいるわけではないし、利用者同士が意気投合することもない。でも、セッションパートナーの存在が必ず自分のプロダクティビティのプラスになる。タスクを予定通りに完了させるための助けになってくれる。だから「仮想コワーキング」だ。

  • コワーキングスペースと違って、Focusmateでは「話すのはダメ、コラボレーションもダメ」

在宅ワークをしているというと、体験したことがない人からは「サボってしまわないですか」と聞かれることが多い。自分の裁量で自由に働ける=サボれるというイメージが強いようだが、会社にいてパソコンを開いていたってサボっている人はいる。在宅であってもスケジュール通りに仕事を完了させなければならないことに違いはなく、むしろ仕事の進捗や結果で示さなければならない在宅ワーカーの方がサボれないという見方もできる。

それなら、互いに監視し合うようなFocusmateは不要じゃないかと思うかもしれないが、Focusmateは監視サービスではない。習慣を身につけるためのサービスだ。

場所や時間にとらわれずに働けるフリーランスは、仕事と個人の時間を柔軟に調整できる。自分に投資する時間を増やしたり、子育てに携わったり、または家事を分担して母親の仕事復帰をサポートすることもできる。ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい。だが、仕事を後回しにして柔軟にやり過ぎると、仕事にしわ寄せが及んでプロダクティビティが下がり、効率よく仕事を処理できなくなってストレスが溜まっていくという悪循環に陥ってしまう。逆に仕事を優先できる自由もあるから、集中できる環境でプライベートを忘れて仕事に没頭し過ぎたり、フリーランスが仕事を受けすぎて仕事漬けになるということもある。そんな無理を続けていたらいつかは破綻してしまうだろう。

それを避けるには高いプロダクティビティを保つこと。集中して質の高い仕事をし、そのためには個人の生活も充実させ、十分に休むことも大切だ。自由に時間を使える在宅ワークであっても、毎日出勤しているように9時5時で集中して働くのもソリューションの1つである。ラッパーのEminemがスタジオに入る時にサラリーマンのような定時スタイルで働くのは有名な話だ。音楽は自由でハードだが、ハードスケジュールでは働かない。その結果があの素晴らしいアルバムである。

Focusmateに話を戻すと、9時5時で働くと決めたなら、必ず9時に仕事を始めるようにFocusmateのセッションを入れて、その日に終わらずべき仕事を集中してこなしていく。私は長年のフリーランス生活ですでにワークスタイルが固まっていたので、Focusmateをひと月しか使わなかった。でも、Focusmateの言う「仮想コワーキング効果」でワークスタイルを改善できる人はたくさんいると思う。自分が今に至るまでに1人で試行錯誤を繰り返した長い時間を思い出すと、Focusmateのようなサービスを活用できる今のフリーランスは恵まれていると思う。