リーマンショック後の大規模な経済衰退から回復した2010年代に最も伸びた米国株は?……上昇率トップのNetflixはなんと約41倍 (2009年末比)、4100%を超えるリターンを記録した。また、昨年9月に時価総額1兆ドル超えを達成したAmazonも14倍近い上昇だった。

NetflixとAmazonには共通点がある。今でこそテクノロジーを中核とする企業として認められているが、どちらもかつて「○○はテック企業か?」と言われていた。クラウドサービス事業を展開する前のAmazonはオンラインショップ、さらに昔はオンライン書店と見なされていたし、ストリーミングサービスを始める前のNetflixはオンラインDVDレンタルだった。だから、どちらもS&P 500においてテクノロジー関連のセクターに分類されていない。Netflixは「コミュニケーションサービス」、Amazonは「一般消費財・サービス」である。

Netflixはテクノロジー関連に年間12億ドルも投資しているが、コンシューマにサービスを提供する企業という本質は以前と変わらない。昨年3月にNetflix CEOのReed Hastings氏は「テクノロジーを駆使したコンテンツ企業というのが我々の実態です (we’re really mostly a content company powered by tech)」と述べている。しかし、株式市場においてNetflixはテック企業として高く評価されており、だから「Netflixはテック企業か?」という議論が広がった。

  • Netflix (水色)、Domino's Pizza (オレンジ)、Amazon (赤)の過去10年間の株価上昇率の推移

    Netflix (水色)、Domino's Pizza (オレンジ)、Amazon (赤)の過去10年間の株価上昇率の推移

Russell 1000を加えると、Domino's Pizzaが10年で株価を約35倍上昇させた。Domino'sはピザ宅配・販売チェーンであり、同社に「テック企業」というイメージを持っている人は一般的には少ない。しかし、株式市場における評価は異なる。

10年前のDomino'sは20世紀から続く典型的なピザ宅配・販売チェーンだった。それもダメな部類のピザチェーンで、「冷凍ピザか、Domino'sか?」という二択が成立するような状態だった。そこから、後にCEOになるPatrick Doyle社長が大改革を断行した。

下は2009年にDomino'sが公開した「Domino's Pizza Turnaround」というYouTubeビデオだ。同社のYouTubeチャンネル初のビデオとして、今でも視聴できる。それを観ていただくと、当時のDomino'sの状態が分かる。「ボール紙のようなピザ」「プロセスチーズ」「電子レンジで作るピザの方がまし」といった消費者からのキビしい声をそのまま紹介し、自分たちがひどい商品やサービスを提供していたことを認めて生まれ変わることを約束。2010年にはCEOのPatrick Doyle氏が謝罪するCMをテレビでも流して話題になった。そこからDomino'sの躍進が始まった。

素材から製造工程、サービスを改め、旧来の宅配ピザのイメージを覆す新たなピザチェーンの体験の構築に努めた。オンライン対応やモバイル対応もその1つ。最近では製造工程での品質管理に機械学習を取り入れ、ロボットやドローンを用いた宅配システムの開発にも積極的だ。

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Domino'sが最上のピザを提供しているかというと、昔に比べたらレベルアップしているものの宅配ピザ級であることに変わりはない。だが、「モバイル世代にとって使いやすい」といったことを含めて、宅配ピザの中でDomino'sを選びたくなる利用体験を実現して収益を伸ばし、投資家からテック企業に対するような熱い支持を得た。

2010年代に株価を伸ばしたこれらの企業に共通するのは、新たな市場を開拓したのではなく、映像エンターテインメントや小売り、ピザ宅配といった成熟しきった分野に変化をもたらしたこと。Domino'sやStarbucksのような非テック企業でも、インターネットやモバイルを駆使して商品の提供方法をスケールアップした企業に対して投資家は"テック企業のような評価"を与えた。こうしたディスラプションとは違う大きな変化は、2020年代に様々な分野に広がると期待されている。

ただし、「テック企業のような…」は落とし穴にもなり得る。例えば、昨年「○○はテック企業か?」に当てはめられたWeWorkは逆のケースだった。同社の場合、ことあるごとにテクノロジーをアピールしていたものの、事業自体は旧来のサブリース形態の不動産ビジネスを大きく変えるものではなかった。ネット社会に対応した高効率オフィスという新しいコンセプトを作り出したものの、当初多くの人達が期待したWeWork型と呼べるような新しい働き方を広く普及させるものにはならなかった。その結果、テック企業イメージが反作用し、それまでの革新的なテック企業に対するような高い企業評価に対して「WeWorkはテック企業か?」という議論が広がって上場延期という結果になった。