日本でも盛り上がり始めた「ブラックフライデー・セール」。ブラックフライデーと銘打った激安セールをあちこちで見かけるようになったが、本場の米国ではブラックフライデーの遺物化が進んでいる。
米国では11月の第4木曜日が感謝祭 (Thanksgiving Day)の祝日であり、木曜日から日曜日まで連休になる。感謝祭に里帰りする人達も多く、感謝祭をのんびり過ごした後、集まった家族そろって金曜日に買い物に出かける。それを狙った1年で最も大きなセールイベントがブラックフライデーだ。
オンラインショッピングがまだ存在していなかった頃から歴史を積み重ねてきたブラックフライデーは、オンラインショッピングが主流となった今でも「リアル店舗の激安セール」と見なされている。
例えば、ブラックフライデーでは毎年その年の死傷者が話題の1つになる。Black Friday Death Count (BFDC)によると、2006年以降のブラックフライデーの死亡者は12人、重軽傷者は117人。年々減少しているということはなく、毎年どこかで事件や事故が起こっている。ちなみに死傷の原因は、殺到した買い物客による「圧潰」(29%)、「催涙スプレー」(25%)、「銃撃」(18%)、「車の事故」(13%)、「殴り合い」(8%)だ。普段の買い物をネットで済ませる人が増えているのだから、感謝祭のセールでも「もうリアル店舗には行かない」という人が年々増加している。だが、今でもこんな事件・事故が起こり続けているのは、リアル店舗のお祭りとしてブラックフライデーがまだ健在であることの証しだ。
しかし、ブラックフライデー騒動は健在でも、実際の買い物は着実にオンラインにシフトしている。PwCの調査によると2016年には51%がブラックフライデーに買い物をしていたのが、今年の推定は36%である。そして「買い物の日」としてサイバーマンデーが、ブラックフライデーにかわって小売業者にとって重要な日になっている。
サイバーマンデーは感謝祭の週末の後の月曜日だ。金曜日から日曜日までモールや百貨店を巡っていた買い物客が月曜日にネットに向かう。それを狙ってオンラインショップが一斉に特売するのがサイバーマンデーだ。
米国人なら誰でも「サイバーマンデー」という言葉を知ってるが、最近はサイバー"マンデー"を不思議に思う人が増えてきた。別に月曜まで待たなくてもオンランショップにはいつでもアクセスできるし、それがオンラインショップの長所なのに「なぜ月曜日?」というわけだ。
それは個人のインターネット接続がまだダイヤルアップだった頃の名残りである。今の若い人はイメージできないと思うが、当時は電話網を使ってインターネットに接続していたため、通信速度が遅く接続時間に応じて電話料金が発生した。だから、常時接続の高速回線を使える会社に出社してから月曜日にオンラインショップ巡りをする人が少なくなかった。
そうした消費者の動きに目を付けた米小売業者が「金曜日から日曜日はリアル店舗」そして「月曜日からオンラインショップ」というサイクルを定着させようと2005年に「サイバーマンデー」という言葉を使い始めた。パソコンどころか携帯でも常時接続の高速ネット接続が利用できる現在、月曜9時にオンラインショップのトラフィックが上昇することはない。サイバー"マンデー"は形骸化しているのだが、当時のマーケティング戦略の影響が今も残っている。
連休明けの月曜日はセール日としてあまり好ましくないものの、Adobe Analyticsによると、米消費者のサイバーマンデーの支出額は2018年に79億ドルと2016年の34億ドルから大幅に上昇、今年は94億ドルになる見通しだ。小売業者は新聞やテレビといったメディアで変わらずブラックフライデーを宣伝しているが、小売りの主戦場はサイバーマンデーである。金曜日よりも月曜日により多くの人気商品の大きな値引きが行われ、消費者にとってブラックフライデーはもう1日で散財する日ではなくなろうとしている。
ブラックフライデーの語源としては、その一日の大きな売り上げで百貨店をはじめ小売店が黒字を達成できるという説が一般的だが、いかに大きな小売りイベントでもリアル店舗においてわずか1日で獲得できる消費者には限りがある。今、米小売業者は1つのセールイベントではなく、一連のセールイベントの1つとして、ホリデーシーズン商戦開始を盛り上げる号砲のようにブラックフライデーを用いている。サイバーマンデーの後も、クリスマスにまだ間に合うタイミングを狙ったグリーンマンデー、クリスマス直前最後の週末のスーパーサタデー、クリスマス後のボクシングデー等々、いくつものセールスイベントが続く。消費者のニーズや動きをリアルタイムで分析しながらダイナミックに価格を調整し、タイミングよくフラッシュセールを仕掛け、ホリデーシーズンにわたってそれらを繰り返しながら、今日の小売業者は利益を最大限化していく。