スニーカーやストリートウェアのオンライン転売/再販プラットフォーム「StockX」が新たに1億1000万ドルの資金を調達、評価額がついに10億ドルを超えた。スニーカーヘッズ (Sneakerheads)と呼ばれる熱心なコレクター、投資資産としての価値の上昇によってスニーカーの転売市場が急成長しており、投資銀行のCowenは北米におけるスニーカー/ストリートウェアの転売市場が現在のおよそ20億ドルから2025年には60億ドルを超えると予測する。そんな成長市場において、StockXは「スニーカーのNASDAQ」と呼ばれている。別の表現だと「安心して買える転売市場」だ。
ファッションに興味がない人は「スニーカーが投資資産?」と思うだろう。でも、人気シリーズや稀少なコラボモデルなどの発売日にはなんとしてでも入手したい購入希望者が殺到する。争奪戦が過熱して、160ドルで発売されたAir Jordanシリーズの新製品が、その日のうちに10倍以上の価格で取引されるというようなことが起こっているのだ。
スニーカーに大きな転売価値が生じているのは、ブランド力を重視するメーカーが、ブランド価値を維持するために生産数をコントロールし、稀少なコラボモデルや復刻モデルを交えながら頻繁に新商品を発表しているからだ。そうしたメーカーのブランド戦略によって、スニーカーの価値が裏付けられ転売市場や中古市場が発展してきた。
転売市場で高価なスニーカーを入手するのをためらう人も多いと思う。確かに、転売市場でスニーカーを入手するのはリスクを伴う。メーカーから直接購入するのと違って偽物が紛れ込んでくるし、加えてスニーカーの価値には、カルチャーというあいまいな要素が大きく影響する。例えば、同じAir Jordanでも現役選手だったマイケル・ジョーダンと同じ時代を過ごした人と、伝説的なプレーヤーとして知っているだけの人ではAir Jordanモデルに対する思い入れが異なる。また、日本でも90年代に空前のスニーカーブームが起こったが、過熱的な人気で時価が高騰することも珍しくない。そんなスニーカーの真贋や良し悪しを見抜ける目利き力を持った人は少なく、多くの人は手に取ったスニーカーに付けられた値札が高すぎるのか安いのか、不確かなまま判断している。
StockXは、そんなスニーカー転売市場にデータをもたらした。同サービスでは、その商品の累計取引数、取引価格、価格の変動率など様々な情報を確認でき、それらを参考に購入希望者がビッドするので安定して価格が変動していく。だから、「スニーカーのNASDAQ」だ。高すぎる価格で買ったり、安すぎる価格で売ってしまう失敗を避けられ、これから価値を高めそうな商品を見抜くためのテクニカルな情報も得られる。
データに加えてもう1つ。StockXは本物を購入できる安心感を提供する仕組みになっている。売り手が出品するスニーカーをStockXに送り、本物と鑑定されたもののみ出品できる。StockXが仲介して発送も行うから、従来のオンラインオークションで起こっていたような落札後のセラーと購入者の直接的なやり取りに伴うトラブルも避けられる。
転売というと、偽物をつかまされたり、ぼったくられる可能性がある裏市場のように見なされてきた。それをStockXがデータの力で、安心して適正な価格で売買できる市場に変えたことで、スニーカー/ストリートウェアの転売/再販市場の大きな成長が見込まれるようになった。
過去にメーカーは転売業者と対立してきたが、多くの人が安心してスニーカーを取り引きできる転売プラットフォームは、転売/再販を通じてスニーカーの価値やブランド力を向上させ、新製品への期待を高める。メーカーも転売/再販の価値に注目するようになり、メーカーがStockXのような転売プラットフォームで製品をリリースする試みも実現した。メーカーの小売り市場と転売/再販の境界が少しずつ薄れ、転売/再販を含めた新たな小売りモデルが誕生しようとしている。
現在StockXはスニーカーとストリートウェアを扱っているが、スニーカーのために作られた転売プラットフォームではない。2016年に正式にサービスをスタートさせた時のキャッチコピーは「ものの株式市場」だった。スニーカーやストリートウェアだけではなく、ブランド商品を中心に、様々なものがStockXのビジネスモデルの対象になり得る。90年代にオンラインオークションのeBayがものの取り引きに革命が起こしてから約25年、フリーマーケットのようなオンライン転売/再販市場がビジネスへと変わろうとしている。だから、StockXの評価額が10億ドルを超え、スニーカー/ストリートウェアの転売市場の大きな成長が見込まれているのだ。