Appleが1月29日に2018年10月~12月期の決算を発表した。主力製品であるiPhoneの売上高が前年同期比15%減と落ち込んだ影響で全体の売上高も5%減。9四半期ぶりの減収減益だった。厳しい結果であることに変わりはないが、1月2日に下方修正したガイダンス通りであり、売上高は過去最高だった一昨年の12月期に次ぐ規模、そして1株利益は過去最高である。ただ、問題はこれまで成長ドライバであり続けたiPhoneだ。販売台数に関しては数四半期前から減速状態だったが、それでも高付加価値化による価格引き上げで売上高は伸ばしていた。その売上高まで下がったため、先行きへの不透明感が一気に増した。

市場が成熟期を迎えているだけに、iPhoneがかつてのような飛躍的な成長を取り戻すことはもうないだろう。しかし、iPhoneに代わる成長ドライバがまだ確かではない。それが現れるか、どうかがAppleの今後を左右する。

予想を超える中国経済の減速を原因とするAppleショックによって混乱してしまったが、今回の決算は本来、iPhone販売の伸びがピークを過ぎ、iPhone依存から抜け出す長期的な戦略の一歩を示す場として注目されるはずだった。想定以上の落ち込みになったものの、そのポイントは変わらない。それが何かというと、カギはインストール・ベースのデバイスの台数、そして「15億台」と「10億台」である。

  • 昨年までiPhone、iPad、Macの販売台数を公表していたが、今年から売上高のみに

    昨年までiPhone、iPad、Macの販売台数を公表していたが、今年から売上高のみに

Appleは、今回の決算から発表方法を刷新している。例えば、昨年まで公にしていたiPhone、iPad、Macの販売台数を非公表にし始めた。それに対して「販売台数隠し」というような指摘も散見されるが、販売台数を非公表にしたところで、販売台数の実態は明らかだ。それでも非公表にするのは、決算発表を通じて各製品の販売台数のみに注目が集まり過ぎるのを避け、別のもっと価値のあるデータに目を向けてもらうためだ。それらをピックアップしてみた。

  • 実際に使用されているインストール・ベースのデバイスが2018年に約1億台増加し、約14億台に増加。
  • 実際に使用されているインストール・ベースのiPhoneが2018年末に9億台を突破。1年で約7500万台の伸び、世界の全ての地域で前年度を超える成長で過去最多を塗りかえた。
  • 有料サブスクリプション契約が昨年に1億2000万件増加、3億6000万件を超えた。2020年には5億件に達する見通し。

インストール・ベースのデバイス台数については、これまでも決算発表会見のコメントで順調な増加に触れることはあったが、より具体的な数字を示し、これからは定期的にアップデートしていくことを約束した。そして今回初めてiPhoneのみのインストール・ベース台数を公表した。

サービス成長の基盤になるインストール・ベース

ここ数年Appleで最も成長著しい事業が「サービス」であり、二桁の売上高の伸びを続けている。そのサービスに関してCEOのTim Cook氏が昨年夏に、2020年度の売上高を2016年度の倍に伸ばすという目標を掲げた。2016年度は243億4,800万ドル、その倍だと約487億ドルであり、それだけでFortune 100入りする規模である。そのサービスの基盤となるのがAppleデバイスの利用者になる。つまり、アクティブに使用されているインストール・ベースのデバイスだ。

iPhoneの販売台数が公表されていた2018年のデータから計算すると、iPhone 1台あたりの年間サービス売上高は44ドル、Appleデバイス1台あたりだと28ドルである。これが多いのか、少ないのかというと、Facebookは北米においてiPhone 1台から年間100ドル以上を得ているという分析がある。Googleはさらに多い。FacebookやGoogleの収入の多くは広告だ。その「パーソナライズ+広告」よりも、Appleが狙っている「パーソナライズ+サブスクリプション」の方が大きな市場に成長する可能性を秘めている。

Appleがサブスクリプション型の動画コンテンツ配信や、Amazon Primeのようなパッケージ型のサービスを今年発表するという噂が飛び交っているが、インストール・ベースの規模がしっかりしているほど、新しいサービスはスムースに立ち上がるだろう。「Apple Watch」や「AirPods」のような新しいカテゴリーのハードウェア製品を投入する際にも、ネットワーク効果やハロー効果が効いて成功させやすくなる。Appleは「エコシステムの価値」を新たな軸足にしようとしており、インストール・ベースの規模はそれを測るものさしになる。

短期的な目標としては、2019年にインストール・ベースのデバイス数を全体で「15億台」、iPhone「10億台」がポイントになる。そのまま2020年まで成長曲線を維持していけたら、サービスを新たな柱とする新しいAppleが現実味を帯びてくる。そしてサービスの成長によって、Apple全体が再び長期的に安定した増収ペースに乗るのが理想的なシナリオだろう。逆に、iPhoneの失速によってインストール・ベースの伸びにブレーキがかかるようなことになると黄信号である。

iPhone減速の要因の1つとして、高付加価値による高価格化が挙げられている。12月期決算でもAppleは約38%の売上総利益率を維持した。Appleは低価格競争には加わらず、十分な利益を確保することで知られる。モバイルPC向けに劣らない性能のプロセッサ、OLEDディスプレイを搭載したiPhone Xシリーズは999ドルからである。

サービス強化で「高過ぎ」問題も解決する?

でも、考えてみると、iPhoneが売上を落とし、デバイス製品に比べて利益率が高いサービスの売上が伸びているのだから、全体の売上総利益率が上昇しそうなものだ。その点について、Appleウォッチャーで知られるJohn Gruber氏がポッドキャスト「The Talk Show」の中で、全てのハードウェア製品で同じように利益を確保しているのではなく、「Apple TV」は利益ゼロ、スマートスピーカー「HomePod」はコスト割れの価格で販売されていると指摘した。証明することはできないが、信頼できるソースからの情報だという。

Apple TVもHomePodもAppleのサービスに紐付いたハードウェアである。中でもHomePodは、サブスクリプション型の音楽サービス「Apple Music」が必須と言える。だから、Apple TVやHomePodの販売から儲けられなくても、アクティブに使用され続ければ、サービスから利益を得られる。このまま2020年までの目標を達成できるぐらいサービスが順調に成長し、サービスが新たな柱になったら、サービスとハードウェア製品の合わせた粗利益の確保が他のハードウェア製品にも広がるかもしれない。Appleが廉価市場に参入することはないだろうが、高価格化がAppleデバイスの進化にブレーキをかける問題のソリューションになり得る。