今年、ウチの新学年前の買い物は全てディスカウントストアのTargetで済ませた。Amazon Primeのメンバーだだが、Amazonは利用しなかった。

米国では8月半ばに新学年が始まる。鉛筆やマーカー、ノート、ヘッドフォン等々、初日に子どもに持たせなければならないものを揃えるために、この時期はBack to Schoolの買い物でディスカウントストアやスーパーがごった返す。それを避けるために去年までは、Amazonで買えるものは買っておいて、揃えられなかったものだけ近所の店で買っていた。今年は、Amazonではなく、Targetのオンラインショップで買えるものを買って、近くのTargetで受け取り、そのついでにオンラインショップで買えなかったものを揃えた。オンラインショップとリアル店舗を併用したのは去年と同じだが、1軒だけで全ての買い物を済ませられて、去年より楽チンだった。

  • 売上、来店者数ともに好調、ディスカウントストア大手Target

強い個人消費に後押しされて、Walmart、NordstromやKohl's、TJXといったリアル店舗を持つ小売り大手が次々に好調な4~6月期決算を発表した。Targetもその1つで、同社は4~6月期に過去13年間で最高の来店者数を記録した。

だからといって、2017年の大量閉店に象徴される「小売りのディスラプション (崩壊)」に歯止めがかったというわけではない。同じ時期にToys "R" Usの破産が起こったし、同じ小売り大手でもMacy'sは来客数を伸ばしたにもかかわらず、決算発表後に株価を落とした。

同じデパートやディスカウントストアで、これほどまで業績の差が現れている理由はいくつかあるが、1つだけ挙げるなら「小売りの新たな体験を提供できているかどうか」だ。昨年までは、どのような取り組みもリストラでしかなかったが、個人消費が活発になり始め、ただ不採算事業を整理していた企業と、将来を見据えてAmazonに対抗し得る手段を講じてきた企業の違いが、はっきりと数字になって現れ始めた。

業績を伸ばしている小売り大手に共通するのは「スピード」「モバイル世代への対応」「顧客サポートの改善」だ。

Targetを例にすると、厳しい時期に競合が店舗をどんどん削減していく中で、同社は約1,800のリアル店舗を強みとする戦略に打って出た。一昨年に70億ドルを投じて、リアル店舗とオンラインストアを統合するプロジェクトを開始した。当時は、同社の売上全体の数パーセントに過ぎなかったオンライン部門をいくら強化しても、Amazon対抗として焼け石に水と見られた。しかし、オンラインを通じた販売の強化は改革の表面に過ぎなかった。その核心は、約1,800のリアル店舗を結ぶ物流ネットワークの構築にあった。Targetはほとんどの米国人が住む場所の10マイル以内に店舗を持つ。それほどの規模でリアル店舗があると、オンラインショップ用の配送センターを置くよりも効率的に買い物客の手に商品を届けられるという。特にクリスマス前のような配送がオンラインショップのボトルネックになる時期に強みを発揮できる。昨年のホリデーシーズンには、オンライン購入の約半分をリアル店舗において梱包から発送の処理を行った。今年のAmazon Prime Dayにも、Amazonがシステムトラブルが苦しむ中、Targetは対抗セールを成功させた。35ドル以上の買い物、またはストアカードでの買い物には2ビジネスデーの無料配送を提供。昨年ロジスティックスのShiptを買収、グローサリーの当日配送に乗り出すなど、Amazon対抗のサービスを着実に整えている。

  • オンライン購入の受け取りも増えるため、これまでレジの片隅にちんまりと設けていたカスタマーサービスをコンシェルジュデスクのようなデザインに、場所も店内で最も目立つ場所に変えた

もう1つの強化ポイントが、リアル店舗における買い物体験の向上だ。オンラインで購入した商品を店で受け取れるサービスも、その1つである。広い店内、豊富な商品は長所でもあるが、歩き回らないと買い物が済まないという短所でもある。オンライン購入も併用したら、服など実際に試したい買い物以外は受け取るだけで済む。店には入らないで、オンライン購入した商品を駐車場で受け取ることも可能である。現在進めている改装デザインでは、入り口近くにホテルのロビーのようなスペースを設けて、ウェルカムな雰囲気で返品や苦情といったカスタマーサービスに対応する。また、買い物客がレジに並ぶ時間が減るように、セルフチェックアウトを含むレジの数やスペースを見直した。最近、おもちゃ売り場の棚の品揃えを刷新したが、それらはToys "R" Usの破産を受けた見直しだ。季節やトレンドのスピードを超えて、ニュースや話題のスピードで店内を変化させている。

Targetは、Amazonのようにメンバーシップを優遇しない。全ての買い物客にとって「簡単に買い物できる場所」を目標としている。実際、私のようなAmazon Primeのメンバーに買い物させているのだから、リアル店舗ならではの新たな買い物体験作りに成功していると言えるだろう。

1時間で商品を届けるPrime Now、Whole Foods買収、レジ無しコンビニ、ドローン配送の開発など、Amazonによる小売り改革が注目を集め、変化を拒むように変わろうとしなかった従来のリアル店舗型小売り企業にはAmazonによって壊されるものというイメージが根強い。でも、Amazonが描く未来が身近な現実になるのはまだまだ先のことである。実際には、小売り産業全体が変化を受け入れ、レジ無しコンビニなどで試されている技術を少しずつ採用しながら、進化のスピードを加速させていくことになる。過去2年間の大量閉店が「小売りのディスラプション」と見なされているが、本当のディスラプションは旧い勢力に変化を受け入れさせたことだろう。この1年で買い物体験の変化を様々なところで実感できるようになった。買い物体験で、Amazonが選ばれないということが起こり始めている。