米国では多くの州で16歳から自動車免許を取得できる。免許と中古車を手にしたティーンエイジャーがやるアルバイトといえば「ピザの配達」。日本におけるコンビニと同じぐらいピザのデリバリーは米国の定番学生バイトなのだが、そんな車持ちのティーンエイジャーの間で「バード・ハンティング」という新しいバイトが広がっている。「狩り」といったら狩りなのだが、ターゲットは鳥ではない。Birdというシェアリングサービスのキックスケーター型の電動スクーターだ。

  • 「電動スクーター版のUber」と呼ばれるBirdのスクーター

Birdは、Uberでドライバー担当のバイスプレジデントを務めていたTravis VanderZanden氏が設立した。「スクーターのUber」と呼ばれている。ユーザーは、スマートフォンアプリを使って近くに置いてあるBirdの電動スクーターを探し、ロック開錠に1ドルを支払い、1分あたり15セントで電動スクーターを借りる。目的地に着いたらアプリでロックしてレンタル終了だ。

  • Birdアプリで近くにあるスクーターを確認、広い公園、モールや商店街、観光名所などがピックアップ・エリアになっていることが多い。

電動スクーターや電動アシスト自転車のシェアリングサービスは、効率的に満充電状態を維持し続けるのが難しく、またへんぴな場所に乗っていかれたまま行方不明になることも多い。その課題をBirdは「Charger」という仕組みで解決しようとしている。

チャージャー (Charger)に契約した人たちが、利用者が乗り捨てた電動スクーターを回収、そして充電してピックアップ・エリアに戻す。報酬は、1台あたり5~20ドル。契約に際して、Uberのドライバーのような厳しい審査やトレーニングはない。銀行口座を持っていて本人確認ができたら、ティーンエイジャーでもすぐにチャージャーになれる。

チャージャーがChargerモードでアプリを開くと、充電が必要なBirdの電動スクーターがマップ表示される。盗まれないように気をつかって利用者が目立たないところに置いておいたり、または借り終わったスクーターをゴミ箱に投げ込んでいたりと、簡単には見つからないことが多い。回収しにくい場所に置かれていたり、放置されたままの期間が長くなると報酬が上昇する。だから、5~20ドルなのだ (20ドルは、行方不明状態になったスクーターを発見した時の特別報酬)。

チャージャー達はポケモンGOでポケモンを探すように、マップに現れる充電が必要なスクーター、他のチャージャーが見つけられなかったスクーターを探し、そして回収する。学校の帰りに10台でも集められたら、1日で50ドル以上の収入である。Birdが本拠を置くサンタモニカやロサンゼルス、サンディエゴなどではすでにたくさんの人に利用されていて、ストリートに置かれている電動スクーター数が多く、チャージャーが一日で500ドル以上を稼ぐことも可能。簡単で面白く稼げる方法としてティーエイジャーから20代を中心にチャージャーが増加しており、「Birdハンティング」状態になっている。

利用者 (ライダー)たちは好きなところに乗り捨てているのに、充電された状態のスクーターがいつもピックアップ・エリアに集まっている。それを不思議に思っているライダーは多い。払って乗るライダーがいて、回収して稼ぐチャージャーがいるからBirdは機能している。

  • ハンドルの左側にブレーキ、右側のレバーで加速、キックスケーター型だが大きいので初心者でも気軽に乗りこなせる。

ただし、成長に伴う問題も次々に発生している。見つけたスクーターを巡ってチャージャーが口論になることが珍しくなく、他のチャージャーが集めたスクーターを奪う行為も報告されるようになった。防衛のためにチャージャーがグループを作り、それがチーム同士の争いに発展するような問題も生み出している。また、回収したスクーターをすぐに充電せず、他のチャージャーが入ってこられない場所に置いておいて報酬が上がるのを待つケースも。本当の紛失や盗難もあるが、その中にチャージャーによる詐欺的な行為が混じっている。

チャージャーの不審な行動については、Birdが調査し、違反が認められた場合は支払いとアカウントの停止を行う。しかし、ルールで違反行為を完全に防ぐことはできない。報酬のチャンスが大きくなるほどに「違反を犯してでも…」というチャージャーが増え、成長の痛みでは済まない、コントロール不能に陥る可能性も指摘され始めた。

ギグエコノミーの成長に欠かせないモラル

Birdのチャージャーはゲーム感覚で競争できて、しかも報酬につながるから面白い。でも、それはBirdというプラットフォームが機能してこそだ。

一線を越えて、チャージャーが違反行為を繰り返せば、その結果コストの上昇分が利用料金に上乗せされたり、チャージャーの競争を抑えるための報酬引き下げが起こる。それでBirdのエコノミーがしぼんでしまったら、ゲーム感覚で楽しめる新しいアルバイトが台無しになる。ネットワークゲームだって、チートでのプレイが蔓延してしまうと、つまらなくなって瞬く間にプレイヤーが減少してしまう。それと同じことがBirdにも起こり得る。

監視強化や罰則強化というような運営の対策も必要だが、コミュニティにモラルを根づかせられるかどうかが、事業モデルとして確立できるかどうかの分かれ道になる。最近の例だと、任天堂の人気ゲーム「スプラトゥーン2」に「ついにチートが…」という話題がネットで広まったが、同時にチートで荒らされるのを防ごうという声が次々に上がった。利用者に愛されるサービスは、素晴らしいコミュニティを守っていこうという自浄能力を持つ。

電動スクーターのシェアリングサービスを手頃な料金で便利に活用できる未来をコミュニティ全体で目指すような意識を利用者や協力者と共有する。そんなブランディングを、Birdのような成長の波をとらえたサービスが実現できたら、シェアリングエコノミーやギグエコノミーは次のステップへと進めると思うのだが……。