アースデイに合わせて、ライドヘイリング・サービスの米Lyftが同社のサービスの利用をカーボンニュートラルにすると発表した。4月19日からLyftの利用で排出される二酸化炭素 (CO2)を相殺できるだけのカーボンオフセット (カーボンクレジット)を購入する。ライドヘイリングをイメージできないという方は、少々乱暴なたとえになるが、タクシー大手がカーボンニュートラル宣言したと想像してみてほしい。ちなみにカーボンオフセットの自主購入では世界最大規模。Lyftは勝負に出た。うまく利用者やドライバーの理解を得られたらライドヘイリングの旗振り役をライバルのUberから奪えるかもしれない。だが、舵取りを誤ると破綻の可能性もある。

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Lyftは、走行距離、使われた車のモデルや年式などから、サービス使用によるCO2排出力を算出し、そしてクリーンエネルギーやカーボンニュートラルのソリューションを提供する3Degreesからカーボンオフセットを購入する。自動車メーカーによるカーボンオフセットは購入しない。

さて、カーボンニュートラルと聞いて「それって何だっけ?」と思った人もいたのではないだろうか。10年近く前には、効果的なCO2対策として話題になっていたが、ここ数年あまり聞かなくなった。大きな理由の1つは、CO2排出の「相殺」よりも「削減」に人々の意識が向き始めたことだ。

カーボンニュートラルを通じて、将来CO2を削減する技術や仕組みが育っていくが、「相殺で良し」となると、それに安心して今のCO2排出に歯止めがかかりにくくなる。結果的に削減実現が遅くなる可能性が指摘されている。また、カーボンオフセット購入のような仕組みは複雑で、それがCO2削減につながるプロジェクトへの本当に効果的な投資になっているか分かりにくい。電気自動車や自動運転カーといった未来が少しずつ形になってきたこともあって、相殺ではなく、もっと直接的な削減の取り組みが進捗し始め、同時にカーボンニュートラルに対する人々の関心が薄れてきた。

だから、ここに来てカーボンニュートラルという言葉にふたたびスポットライトが当たることは、必ずしも歓迎されていない。カーボンニュートラルは、ガソリン車全盛時代の温暖化問題対策というイメージが強い。

トランプ政権が発足してから米国の環境保護政策が大きく転換した。例えば、4月2日に米環境保護局 (EPA)が、オバマ前政権下で定められた車の燃費基準を大幅に緩和すると発表した。「燃費基準を高く設定しすぎた」としているが、温暖化対策に消極的なトランプ政権に歩調を合わせた形だ。排気ガスを排出しない車を一定の割合で販売するようにカリフォルニア州が自動車メーカーに義務づけるなど、米国では州ごとに基準が設けられているが、そうした州ごとの厳しい環境規制設定の取り消しも検討されている。緩和がどの程度になり、どのぐらいの影響になるか、現時点で分からないが、すでに米国ではガソリン車を含めてSUVの売り上げが好調だ。

ライドヘイリング・サービスに関しても、カーボンニュートラルの環境への影響に対する影響と似たような議論がある。1人で自動車に乗って通勤するのに比べたら、カーシェアリングはCO2の削減になる。しかしながら、バスや電車といった公共交通機関の利用の方が大きな削減につながり、ライドヘイリングサービスの普及によって、そうした公共交通機関を整備する意識が薄れたら、結果的にCO2削減の障害になる可能性が指摘されている。だから、今回のLyftのカーボンニュートラル宣言を、CO2を排出するサービスをより利用してもらうための免罪符と批判する声もある。

だが、Lyftの共同創業者であるJohn Zimmer氏とLogan Green氏は、カーボンニュートラルを公にしたMedium投稿の中で次のように述べている。

「大きなファイナンシャル・リソースをもってオフセットに関わることで、我々はライドシェアを追求しながら、同時にガソリン車を置き換えるという強いモチベーションを事業に組み込むことになる。ライドシェアを増やし、同時にクリーンビークルをプラットフォームに増やさなければ、購入を必要とするカーボンオフセットは減らせない」

ライバルUberの失速もあって間もなく黒字化を達成できそうな見通しなのに、Lyftはカーボンニュートラルという深刻な経済的負担を背負う。それは、このままガソリン車の時代に甘んじることなく、クリーンな自動車へのシフトを積極的にサポートしていくという約束だ。そうしないとLyftは、いつまでもカーボンニュートラルの負担を軽減できないのだ。

ガソリン車時代へ逆行する今日の流れに逆らうLyft。同社の心意気は、ライドヘイリング・サービスの最大の利用者層であり、そして温暖化問題に最も関心を持っている年代層であるミレニアルズに届くだろうか。