「ちょっと高くなってる…」。今年に入って外食時に、すでに何度か値上げに出くわした。ハンバーガーショップやタコス屋、ベトナム麺のフォーなど、安く食べられた店がほとんどで、値上げは数十セント、大きくても1ドル程度なのだけど、元々が安かった店だけに値上げがしみる。

原因は、カリフォルニア州の最低賃金が1月1日から11ドル/時 (従業員25人以下は10.50ドル)に引き上げられたからだ (加州の他にも17州が最低賃金の引き上げを実施)。同州は2023年まで毎年1月1日に引き上げ、最終的には25人以下のビジネスを含めて15ドル/時にする。15ドルというと、13日時点のレートで計算すると約1660円/時である。

  • 2017年1月1日:10.00ドル/時 (25人以下)、10.50ドル/時 (26人以上)
  • 2018年1月1日:10.50ドル/時 (25人以下)、11.00ドル/時 (26人以上)
  • 2019年1月1日:11.00ドル/時 (25人以下)、12.50ドル/時 (26人以上)
  • 2020年1月1日:12.50ドル/時 (25人以下)、13.00ドル/時 (26人以上)
  • 2021年1月1日:13.00ドル/時 (25人以下)、14.00ドル/時 (26人以上)
  • 2022年1月1日:14.00ドル/時 (25人以下)、15.00ドル/時 (26人以上)
  • 2023年1月1日:15.00ドル/時 (25人以下)、15.00ドル/時 (26人以上)

今年は0.50ドルの上昇だったが、予想以上に多くのビジネスが値上げに踏み切っている感じがする。飲食店に限って言うと、ここ数年の間に天候不良の影響などで小さな値上げが繰り返されており、確実に値段が上がっている。再来年からは毎年1ドル (約111円)ずつ上昇するが、すでに値上げだけで解決できないレベルに達しようとしている。

そこで最低賃金12〜13ドル時代を見据えて、これまで最低賃金だった仕事、たとえばキャッシャーや清掃、配達などで自動化が進められている。McDonald'sは約2500店舗に大きなタッチパネルでお客さんが商品を選んで購入するセルフレジを導入した。Wendy'sやJack in the Boxもレジの顧客対応の自動化を進める計画だ。またディスカウントスーパーのWalmartは、商品棚の管理やフロアの清掃などにロボットの導入を進めている。

ラスベガスで開催されていたCES 2018 (1月9日〜12日)では、トヨタ自動車が自動運転によって多目的に活用できるモビリティサービス用の電気自動車 (EV)「e-Palette Concept」を出展していた。Amazon、Pizza Hut、Uber、Didi Chuxingとパートナーを組み、ピザを焼きながら配達するピザ宅配、試着できる移動ショールームなど様々な用途に使えるようにする。また、FordもDomino’sと提携して自動運転カーによるピザ宅配のテストを行っていることを明らかににした。

  • トヨタのMaaS(Mobility as a Service)コンセプト「e-Palette Concept」

他にもシリコンバレーのスタートアップRobomartが自動運転技術が取り入れられた移動型スーパーを出展していた。Robomartが狙っているのは生鮮食品だ。食品市場で60%を占めると言われるが、ネット上での取引は5%未満であり、Amazonも苦戦している。そこにチャンスがあると見る。

  • グローサリーや作りたてのパン、調理済み食品などを届ける移動型スーパー「Robomart」

最低賃金の引き上げは、米国の社会に大きな変化をもたらしそうだ。というのも、米国では効率化したり、ムダを省けることがたくさんあるからだ。最近になってようやくタブレット端末で注文できるレストランやテイクアウト店が出てきたが、私はこれまで米国で券売機を導入している飲食店に出くわしたことがない。日本のコンビニのような少ないスタッフで効率的に便利なサービスを提供している店もない。労働者がたくさんいることに頼って、効率性や生産性の向上に取り組んでこなかった。米国で暮らしていると不便に思うことばかりである。だからこそ、最低賃金の引き上げがカンフル剤になって、カーシェアリングのUberが人々の移動を変えたような大きな変化が様々なところで起こる可能性がある。

変化によって単純労働者が仕事を奪われる可能性は十分にある。シアトルはいち早く2016年に最低賃金を13ドルに引き上げた。その結果、1人あたりの労働時間が減少しており、それを賃金の上昇で生まれた余裕とする分析もあれば、自動化にじわじわと仕事が奪われていると見る向きもある。おそらく両方が同時に進んでいるのだろう。変化にはメリットがあれば、デメリットもある。

米国の最低賃金が12〜15ドルになると日本でも改善の声が活発になると思う。でも、高齢化で若い労働人口が少なく、すでに効率化が進み、効率化できる余地が米国よりもずっと少ない日本は事情が異なる。その負担が限られた労働者に背負わされると、昨年に社会問題になった宅配ドライバーの過重労働のような問題が起こりかねない。無人カーによる配達のようなドラスティックな変化を、日本は米国よりも真剣に考えていく必要がある。