ビットコインやイーサリアムといった主要な暗号通貨が二週間続けて週末に急落した。最初の週は、企業や組織が暗号通貨を利用して資金調達するICO (Initial Coin Offering)の市場規制を中国人民銀行が発表したのがきっかけ。そして先週末は中国の金融当局が仮想通貨の取引所を当面閉鎖させることを決めた、と中国のニュースサイト財新網が報じたのが引き金になった。

ビットコインキャッシュとの分裂前に1800ドル台まで下がっていたビットコインは、それからわずか7週間で5000ドルを超えようかというところまで上がって「6000ドル突破が見えてきた」と言われていた。そこから急降下。下値支持線を次々に割って、どこで下げ止まるか予測しづらい状態になりつつある。

このひどい乱高下で暗号通貨に対する不信感も芽生え始めているが、ひと月前、ビットコイン価格の急上昇に人々が湧き始めた頃に、暗号通貨の高騰を懸念していた人物がいた。TwitterのCEO、この場合はSquareのCEOといった方が正しいだろう。Jack Dorsey氏である。

8月だけで2700ドル前後から4800ドル前後にまで価格を上げたビットコイン、9月に入って急落、11月の再分裂も予想され不安が広がる。

Dorsey氏がビットコインなどの高騰を危惧するのは、自身の傾向を「サイバーパンク」という同氏がデジタル通貨の普及を望んでいるからだ。価格の上昇は普及を後押しするが、今の高騰は暗号通貨の本当の価値を反映したものになっていないという。

暗号通貨の価値は、その根幹となっている分散型台帳「ブロックチェーン」にある。非中央集権的な仕組みであるブロックチェーンを利用すれば、中央で管理する人がいなくても色々なアプリケーションを作れる。そこに大きな可能性があり、それはまさにインターネットやWebの思想である。だから、Dorsey氏は、ブロックチェーンが「未来を切り開く次のカギになる」と考えている。

ただ、まだ成熟していない技術であり、暗号通貨でもビットコインの処理速度のような問題が起こってしまう。セキュリティ要件や安全を確認する方法も定まっていない。まだまだクリアすべき課題が山積みの段階なのだ。

たとえるなら、今のブロックチェーンは草創期のインターネットである。だれでも情報を発信したり、ビジネスを行えるようになる大きな可能性を秘めていたものの、その頃のインターネットでできることと言えば、メール、ブラウザでホームページを閲覧またはFTP接続でシンプルなホームページを公開するなど、今に比べるととても限られていた。

ブロックチェーンが草創期のインターネットなら、ブロックチェーンのアプリケーションの1つであるビットコインのような暗号通貨は、さしづめインターネット草創期における電子メールである。当時のメールは、郵便や電話のようなコストがかからず、遠くにいる人と素早くメッセージをやり取りできてインターネットの価値を強く人々に示した。しかし、まだ信用はなく、ビジネスの世界のコミュニケーション手段は郵便やFAX、電話だった。それからセキュリティやスパム、ポータビリティといった様々な課題をクリアしながら長い時間をかけて今に至る。

コンピュータ歴史博物館でブロックチェーンについて語るJack Dorsey氏。

ビットコインなど暗号通貨のプロトコルとしてブロックチェーンが注目されたことは、ブロックチェーンの成長を加速させるものになる。それでも、まだアイディアが形になり始めた段階に過ぎない。これから様々なトラブルが表出するだろう。将来の可能性を思い描いて、技術的な整備そして成長を支えていかなければならない段階に過ぎないのだ。それを考えると、5~7月の主要暗号通貨の高騰は実体を反映したものだとは言いがたい。

Dorsey氏はミズーリ州の出身で、実家に戻ったら、シリコンバレーと違って周りにはテクノロジーに関心を持っていない人が少なくない。そんな家族や知り合いからも「ビットコインってどうやったら買えるの?」と質問されるようになったという。彼らがビットコインに関心を持った理由は「簡単に儲けられると聞いたから」。暗号通貨はその技術で価値が評価されるようになるはずだが、そうした価値がなおざりにされて投機だけで高騰している。「通貨」ではなく、ただ「デジタルゴールド」と見なす人ばかりというのが現状だ。

ブロックチェーンの本当の成長は暗号通貨にとどまらない。もっと大きなものになる。「金融は、(ブロックチェーンの) の明白な可能性の1つだけど、金融関連に限らず、 (ブロックチェーンを使って) 私たちが解決を手助けできる問題はたくさんある」 とDorsey氏は指摘していた。

今もメールはインターネットの重要なサービスの1つではあるが、メールとホームページ閲覧だけだった初期のインターネットから混沌とした時期を経て、Web 2.0以降にショッピング、エンターテインメント、ゲーム、ファイナンス、ソーシャルなど、様々な分野でWebが活用されるようになった。ブロックチェーンも今は不便なことが多く、スケーラビリティも限られるが、いずれ速度や利便性が改善されたら、様々な用途を支える技術になるだろう。そんな成長をDorsey氏は期待している。

これから主要暗号通貨の価格が持ち直して再び上昇に転じる可能性もある。それを望んでいる人の方がおそらく多いと思う。でも、ブロックチェーンの真の開花を見通したら、暗号通貨バブルの崩壊が起こった方が未来の大きな成長につながるかもしれない。Webだってドットコムバブルの崩壊を経て、Googleが台頭し、Web 2.0が起こり、そしてモバイルとWebの融合によって、私たちの暮らしや社会を大きく変えるような存在になったのだ。