先進国の多くは生産性向上の必要に迫られている。McKinsey&Companyの「The productivity imperative」によると、1970年代の米国ではGDP (国内総生産) を1ドル上昇させるのに、0.80ドルを労働人口の増加でまかなえた。しかし、労働人口の増加が鈍った今日では0.30ドル以下であり、GDPの2~3%の伸びを維持するなら生産性を引き上げるなど他の方法に頼らなければならない。労働人口が増えない西欧はさらに深刻で、減少する日本に至っては100円を増やすために1人あたりの生産力を160円に向上させなければならない。

PayScaleによるスキル需要に関する調査によると、回答したマネージャーの半数が「大学卒業生はフルタイム職に必要なスキルを備えていない」と答え、Ed Trustのレポートによると米国の高校卒業生で大学進学または将来のキャリア設計に十分な準備ができているのはわずか8%だった。これらは必ずしも学生に問題があるわけではない。プロダクティビティ向上の圧力、経済環境の急速な変化の中で、ワーカーに求められるスキルが多様化、そして複雑になっており、学生も対応しきれていない。雇用主が求めているスキルと求職者のスキルの乖離、ミスマッチが顕著になる傾向が見られる。その結果、米国では雇用主の46%が条件を満たす入材を見つけられず、人材不足に悩まされている (ManpowerGroupの調査)。

そうした問題の解決に、検索が大きな役割を果たせるとGoogleは考えているようだ。同社は米国で、Google検索 (モバイル、Web)に統合する形で求人情報の検索サービス「Google for Jobs」(以下Google Jobs)の提供を開始した。

Google検索で「ニューヨーク市でケータリング業のマネージャー (head of catering jobs in nyc)」「ワシントンDCのエントリーレベルの仕事 (entry level jobs in DC)」というように、仕事を探していることを明らかに示す検索語を入れると、検索結果のトップに条件を満たす求人が数件掲載されたGoogle Jobsのカードが表示される。その内の1つをクリックすると、Jobsのサイトに移動する。

Google検索で求人情報の条件を入力して検索

結果のトップにGoogle Jobsのカードが表示される。

Google Jobsのサイトでは、職種、肩書き、条件、州・都市、業種など、様々な条件で結果をフィルターできる。開始時点で検索対象になっているのは、ビジネス向けSNSのLinkedIn、キャリア情報サイトのMonster、DirectEmployers、CareerBuilder、Glassdoor、そしてFacebook。これらのサービスで公開された求人情報は、自動的にJobsの検索結果に表示される。また、オンラインの求人リスティングに指定のマークアップを追加することで、どのような求人情報でも検索対象に登録することが可能だ。

Google Jobsの各求人情報には、仕事の説明、関連情報、応募条件、応募できるサイトへのリンク、関連検索へのリンクなど、検索条件を設定したメールアラート機能も用意されている。

近年のGoogleの情報サービスは、たとえばGoogleマップで同社が提供するローカルビジネス情報が優先されるなど、Googleのサービスにユーザーを囲い込む傾向が強まっていた。Google JobsはWeb上の求人情報を収集・整理し、1カ所から誰でも検索できるようにして、その求人情報を提供するサイトやサービスにユーザーを導く。Google本来の検索サービスであり、Jobsを使っていると「Don't be evil」がGoogleのモットーの1つであることを思い出す。

複数のキャリア情報サイトやビジネス向けソーシャルネットワーク、求人情報サイトなどから情報を収集するのは時間のかかる作業である。Google Jobsを使ったら、それを1カ所で、柔軟な条件で検索しながら効率的に済ませられる。Jobsを使ってみると分かるが、求人情報は早いペースで更新され続け、のんびり情報を集めている内に手元の情報は古くなっている。非効率な情報収集ではチャンスをつかめない。

Google Jobsでは求人情報の分類に機械学習が活躍している。複数のサイトやサービスに掲載されている情報が1つのページにまとめられ、ユーザーが同じ求人を何度も開かずに済む。また、多種多様な職名や仕事の肩書きをAIがうまく整理してくれる。たとえば、同じFedExの運転手でも、FedEx Officeなら「SameDay City Couriers」、FedEx Freightなら「City Drivers」になるが、そうした専門的な呼び名を知らなくても一般的な呼び名から漏れなく検索できるように分類されている。

Google Jobsの最大のメリットはリサーチしやすさであり、能力を活かせる職場と、条件を満たす人材を効果的に結びつけてくれる。しかし、それだけではない。しばらくJobsを使うだけで、求人トレンド、求人の増減やペース、求められているスキルの傾向などが見えてくる。現在進行形で就職・転職に取り組んでいる人でなくとも、キャリアを積み重ねていく計画づくりに役立つ情報を得られる。単なる求人情報の検索サービスではなく、これから必要とされるスキルに人々を導こうとするGoogleの狙いが感じられる。

Googleは今年3月、Google.orgを通じて教育格差の解消の取り組みに5000万ドルを支出した。それに続いて、7月26日に未来のキャリアに向けたスキルの修得をサポートする取り組みに5000万ドルを拠出することを発表している。人々のスキルアップの支援に、なぜこれほど熱心なのか。Googleは社会の進化と自身の成長を重ね合わせる。それが「Don't be evil」なGoogleである。HTML5技術の開発支援やAndroidのオープンソース提供などWebの成長を加速させ、インタラクティブなWebやモバイルWebの普及を実現することで、Web企業であるGoogleも大きく成長してきた。生産性の向上には自動化やAIが果たす役割も大きく、その変化を加速させるためには人々も対応して将来的なスキルを培っていかなければならない。プロダクティビティの向上、新たなスキルの修得をサポートするGoogleのここ最近の動きは、「AI優先」を掲げた同社の新たな成長ドライバーを見据えた基盤戦略のように思える。