米国は、世帯構成の統計だと車所有率が90%を超える車社会であり、その規模から自動車関連は食品や衣料品と共に個人消費動向や製造業の景況感を判断する上で重要な指標となっている。その米国の自動車市場で今、異変が起こっている。
6月の米国の新車販売台数は前年同期比3.0%減の147万4,360台、6カ月連続の減少となった。その結果、2017年上半期 (1~6月)は前年同期比2.1%減の845万2,453台で終わった。上半期としてはリーマン・ショックの影響で販売が落ち込んだ2009年以来、8年ぶりに前年実績を下回った。下半期についても回復する見通しはなく、2017年通年でも前年を下回ることになりそうだ。この減速についてアナリストの多くは、1,755万台で過去最高だった2016年を経て上昇ペースが一時的に足踏み状態になった経済サイクルと見ている。だが、米国経済全体が順調な回復基調にある中での新車販売の減速であり、「大きな変化の前ぶれ」と見る向きもある。
2つの異なる見方をもう少し深掘りすると、2015年時点では新車販売の増加が2017年も続いて年間1,800万台超えが実現すると予想されていた。陰りが出始めるとしたら、米国で最大規模の自動車市場であるカリフォルニア州においてZEV (Zero Emission Vehicle)規制が強化される2018年。ところが、米国の景気回復を背景に利上げが進行して、それに伴う自動車ローン金利の上昇を懸念する声が高まり、予想よりも早く買い替え需要の頭打ちが表面化し始めた……というのが、多くのアナリストの分析だ。
ただ、米国で暮らしていて、新車販売台数の新記録を塗りかえた2016年も自動車市場に勢いがあったという実感を持てなかった。2000年に1,740万台で記録を更新した時はまだまだ好調が続きそうな雰囲気で満ちていたが、2016年はメーカーによるインセンティブ (販売奨励金)で自動車ディーラーの値引き合戦が目立つ中での記録更新。消沈していた米国経済の中で回復を印象づけた2000年とは逆に、上向く米国経済の中で自動車が四苦八苦している印象だった。
そこで指摘され始めたのが「大きな変化の予兆」である。1980年代/1990年代に生まれたミレニアル世代が結婚して家庭を持つ層に拡大してきた。消費者層としてもベビーブーマーを上回る規模になっている。彼らは進学や就職にリーマン・ショックによる景気低迷の影響を受けており、何よりも先に車を手に入れていた40代以上の世代と違って、自家用車を持つライフスタイルにこだわらない。車が不要な都市に住んだり、または車を持たずにカーシェアやオンデマンドの配車サービスを利用するライフスタイルを柔軟に考える。そうした層が消費者の主流になろうとしている影響が、金利上昇の影響で表出してきたという見方だ。
J.D. Power and Associatesによると、2000年に新車販売台数記録が塗りかえられてから当時は43.5歳だった新車購入者の平均年齢が年々上昇し続け、2009年に49歳に達した。それから横ばいが続いており、近年の新車購入の主流がベビーブーマー世代であることが分かる。見方を変えると、自動車が好調な時期が続いていたものの、これから消費者層の主流になるミレニアル世代を巻き込んだ伸びではなかった。ベビーブーマー人口の縮小と共に、いずれ新車購入者の平均年齢が再び下がっていくだろう。しかし、人口が維持されても新車販売台数が減少していく可能性が否めない。そうした変化に自動車産業は対応していかなければならない。
先週Mediumで「Apple’s Next Move? It’s Obvious. But We’re Missing It.」という記事が多くの人によってシェアされた。私たちには見えていないAppleの次の動きとして、Seyi Fabode氏は米国だけで1, 620億ドル市場に及ぶ家庭用電力管理システムと家庭用スマート蓄電池を指摘している。一見、車と関係のない話題に思うかもしれないが、電気自動車 (EV)を開発・販売するTeslaも家庭用蓄電池を手がけている。そして先週末、中国最大規模のバッテリーメーカーContemporary Amperex Technology (CATL)とAppleが自動車用バッテリーに関する極秘プロジェクトを進めていると中国のYicai Globalが報じた。
噂されていたAppleの自動車開発プロジェクトが車向けも視野に入れた自律プラットフォームの研究に変わったことが明らかになって、同社が自動車市場への本格参入を「あきらめた」という見方がある。たしかに車に関して、Appleは核心に迫っていないように見える。だが、考えてみて欲しい。もし自動運転で車を運転する必要がなくなったら、車に乗る人たちが何をするか。目的地にある店の情報を調べたり、エンターテインメント、コミュニケーション、移動時間をひと仕事こなす人だっているはずだ。今はドライバーの立場から自動運転カーが語られているが、実際に使われるようになった時に自動運転カーは人々を運転から解放する。その時間をいかに楽しみ、活用できるようにするかが、自動運転カー時代のドライビング体験の向上になる。
今、カメラ市場がデジタル・ディスプラプションに直面している。それを起こしているのはカメラではない。もちろん今も最高の写真を撮影できる高機能なカメラも求められているが、年々マニアのためのツールとなっている。今カメラと言えば、若い世代はInstagramやSnapchatをイメージする。ユニークな写真をすぐに共有できるソフトウエアとサービスのカメラが多くの人々の写真の楽しみを変えた。車に関する「大きな変化」というと、カーシェアリングやオンデマンド配車サービスの台頭、自動運転カーの登場を想像する。車好きだったら、自分で運転しなくなっても自分たちが乗る車にこだわるだろう。でも、多くの人にとって車との付き合い方が変わるのは、車の変化よりも体験の変化。車の中の退屈で生産性も限られる時間が変わる時ではないだろうか。