発売されたばかりの新しいiPad Proはストレージが64GB/256GB/512GBである。128GBがない。Appleは、その時に最も売れそうな容量を用意しないで、より大きな容量へとユーザーのアップグレードを促すことがある。2014年秋にiPhone 6シリーズを発売した時も16GB/64GB/128GBで、32GBを省いた。つまり、これからiPad Proを快適に使いたかったら256GBという暗黙のメッセージである。もしからすると次期iPhoneもそうなるのかもしれない。
しかし、音楽や映画はストリーミング、写真やファイル置き場はオンラインストレージとクラウドの活用がどんどん進んでいるのに、なぜiPadやiPhoneの内蔵ストレージの拡大が必要なのだろうか?
理由はアプリである。Sensor TowerのApp Intelligenceによると、米国のiPhone向けトップ10アプリのインストールに必要な容量が先月時点で約1.9GBになった。4年前の2013年5月の164MBから11倍以上の増大である。
米トップ10 iPhoneアプリを4年間のサイズの増大率順に並べて紹介すると、Snapchat (51倍)、Uber (22倍)、Gmail (20倍)、Messenger (15倍)、Facebook (12倍)、YouTube (12倍)、Netflix (11倍)、Google Maps (10倍)、Instagram (9倍)、Spotify (6倍)。
CPUとGPUの性能が向上し、Appleは2015年2月にApp Storeで配信できるアプリのバイナリサイズの上限を最大2GBから最大4GBに引き上げている。その枠を存分に使ったリッチなグラフィックスのゲームに比べると、トップ10アプリは全部で1.9GBだから小さいのだが、それでも毎年どんどん大きくなっている。Snapchatは株式上場を実現する過程で新しい機能をどんどん追加し、Facebook/Messenger/Instagramも負けじと機能を加えた。それがユーザーのためになっていれば良いが、トップ10アプリのユーザーの中には、それらを使ってやっていることが4年前とほとんど変わっていないというユーザー、追加された機能をあまり使っていないというユーザーも少なくないだろう。
好調なアプリ「Halide」、開発者が予想しなかったユーザーからの反応
5月末に「Halide」というカメラアプリがApp Storeでリリースされた。画面をなぞるだけの簡単な操作で、露出やフォーカス、ISO、ホワイトバランス、シャッタースピード、ボケ具合などを細かく設定して思い通りの写真を撮影できる。元Appleと元Twitterの開発者が手がけたアプリとして話題になった。
その元Twitterの方のBen Sandofsky氏が「One Weird Trick to Lose Size」というブログ投稿で、アプリのサイズについて話している。「Halideをリリースして以来、最も予想しなかったほめ言葉がサイズに関するものだった」という。
Halideは11MB、Sandofsky氏は人気のあるソーシャルネットワーキングアプリはサイズが400MBを超えていると主張しており、毎週アップデートを提供したとしてHalideの1年分の配信とソーシャルネットワーキングアプリを1回ダウンロードするデータ量が同じである。
Halideがとてもコンパクトであるため、標準ライブラリがアプリにバンドルされるSwiftを「避けた?」と友達から聞かれたというが、HalideはほとんどSwiftで構築した。時間がかかっても「Rebuild from bitcode」のチェックを外したりせず、アップロード時にAsset Catalogを用い、pngcrushでPNG画像を最適化するなど、コンパクトにするように努めた。Auto Layoutを嫌う開発者が少なくないが、Apple謹製だけに大規模な開発者が独自に開発したレイアウトエンジンのようにアプリを肥大させることはない。また不要なサードパーティのライブラリを用いるのを避け(Halideはゼロ)、サードパーティの解析サービスやA/Bテストの組み込みも避けた。これまでのところ、Appleの解析サービスで満足している。
ソーシャルネットワーキングサービスは広告を収入源とするため、ターゲティングのために詳細な解析データを収集しなければならないからAppleの解析サービスというわけにはいかない。市場投入へのスピードを求めたら、サードパーティのライブラリの活用は、それで数MB増えたとしても大きな時間短縮につながる。だが、Halideのような小規模開発者の売り切りアプリは品質が重要であり、開発の時間がかかっても数MBの無駄のカットに努める価値はある。要は何を優先するかであり、必ずしも小さいのが良いわけではない。
ただ、モバイルブロードバンドの普及で大きなアプリサイズが容認されるようになって、ちまちまとアプリサイズを削るのが割に合わない作業と見なされる風潮が強まっている。ソーシャルネットワーキング大手のアプリは機能別に開発チームが動いているから、全体のサイズをコンパクトにまとめるにはシニアレベルの鶴の一声が必要だ。ところが、「テック企業のCEOは8GBのiPhoneなんて使っていないし、彼らはネットワーク速度が遅い地域に住んでもいない」(Sandofsky氏)。
しかし、サイズへのこだわりが感謝されない努力と見なすのは誤りなのだ。Halideのサイズに対してユーザーから寄せられたたくさんの賛辞がそれを示している。「サイズを減らすには『顧客に向き合う』こと、変な秘訣に聞こえるかもしれないが、本当に効果がある」とSandofsky氏は述べている。