Google、Salesforce、Disney、Microsoft、Verizon等々、Twitterの買い手候補に浮上していた企業が次々に撤退を表明、ついにゼロになってTwitter株が急落している。そうした中、Twitterに非営利化の道を勧める声が広がっている。

Twitterの今の”どこへゆく”感は90年代後半のNetscapeによく似ている。95年のNetscapeのNASDAQ上場は大いに注目され、一時的に同社の時価総額は跳ね上がったものの、WindowsにバンドルされたInternet Explorerにシェアを奪われて赤字転落。伸び悩み、リストラ、そして身売り話と低迷していった。MicrosoftをFacebookに置き換えたら、Netscapeの転落はここ数年のTwitterである。

Twitterは今やサンフランシスコを拠点とする代表的な企業の1つ

Netscape (Mosaic)がWebブラウザのパイオニアであったように、Twitterはソーシャルメディアの開拓者の1つであり、一時はFacebookを恐れさせるような存在だった。だが、どちらも開拓した市場を制することはできなかった。晩年Netscape Communicatorはメールやニュースリーダーなど様々な機能を実装して肥大化し、それがユーザーから嫌われた。Twitterも近年、VineやPeriscopeなどサービスの拡充に努めている。良く言えば多機能化だが、悪く言うとコアサービスからブレている。

Netscapeのその後はというと、98年にNetscape Communicatorのソースコードを公開、その開発をサポートするMozilla Organizationが用意された。そしてNetscapeの親会社だったAOLがブラウザ開発への関心を失い、2003年にはMozilla Organizationを引き継ぐ形で非営利団体Mozilla Foundationが設立され、ブラウザ「Firefox」の開発が進められ今日に至る。

当時Netscapeの製品的な影響力は、Internet Explorerに大きく引き離されていた。NetscapeがMozillaに引き継がれることなく消滅してしまっていたとしても、人々がWebを使うという点では大して困らなかっただろう。だが、Webブラウザを世に広めたNetscapeはWeb普及の象徴的な存在だった。Internet Eplorerに対して、NetscapeはオープンなWebを繁栄させる火種のような存在だったのだ。実際、Netscapeから姿を変えたFirefoxが、後のHTML5へのシフトで大きな役割を果たすことになる。

「Twitterの危機」と「オープンなWebの危機」

今年に入って、WWWの考案者でW3Cの創設者であるTim Berners-Lee氏やTCP/IPプロトコルの共同開発者でインターネットの父と呼ばれるVint Cerf氏らが「Webの再発明」の必要性を説いている。Webは国や企業、プラットフォームに制限されることなく、グローバル規模でオープンなネットワークであるべきだ。しかしながら、中国で検閲が行われ、米国でもPRISM問題が起こり、そしてGoogleやFacebook、AmazonのクラウドサービスなどがWebの支配的な存在になろうとしている。今年春に米サンフランシスコで開催された「Decentralized Web Summit」において、 Cerf氏は「国家の歴史、国の物語がWebで今起こっている」と指摘。そしてWebを真にオープンなものに進化させるDecentralized Web (非集中型ウェブ)を提唱した。

Decentralized Web Summitで講演するTim Berners-Lee氏

サードパーティにオープンだった初期の頃からコントロールを強め続けているTwitterも集中型ウエブの1つである。だが、このまま営利企業として成功をつかめるかというと疑問符がつく。今週、「Twitter isn't worthless, but it's now worth less than its Chinese clone Weibo (Twitterは無価値ではない。だが、企業価値は中国のクローンWeiboを下回ってしまった)」と報じられたのが、今の同社の立ち位置をよく表している。皮肉にも時価総額でTwitterはWeiboを下回ってしまったが、Twitterの価値は時価総額だけでは計れない。

NPRのインタビューに対してMozilla FoundationのエグゼクティブチェアマンであるMitchell Baker氏は、「Microsoftが97~99%の市場シェアを持つ中、それと競争するブラウザに出資するベンチャーキャピタリストなどいなかった」と振り返り、だからこそ「そうした分野でMozillaの非営利という本質が重要になる」と指摘している。Mozillaは「インターネットをオープンに」というミッションに集中し続けてきた結果、2009年にFirefox 3.5がInternet Explorer 7を抜いてシェアトップになった。MozillaにならってTwitterも非営利に転換すべきと言うつもりはないが、今の状況で同社がその価値を引き出せるソリューションとしては荒唐無稽なものではない。

MozillaのMitchell Baker氏

ただ、非営利化がTwitterの価値を伸ばし得る方法だとして、それを現実にして成功させるのも困難を伴う。そもそも財政的にサービスを運営し続けられるのか。マイナーが流通を支えるBitcoinのような成功例もあるが、Decentralized Webの議論ではサービスを機能させる費用の捻出、ビジネスモデルが大きな課題に挙げられている。NetscapeからFirefoxへの過程でムダな機能がそぎ落とされたように、少なくとも選択と集中が求められるだろうし、財政の問題を解決しなければならない。

とはいえ、ソーシャルメディア市場でFacebookやSnapchatと競争することに比べたら、非営利活動の負担の方が軽いだろう。Baker氏によると、Mozillaの財政的な負担は同組織のミッションを継続的に遂行できる規模で十分なのだ。「”持続可能な財政”を保つことは、成長と利益を際限なく追い求めることとは異なる」とBaker氏は述べている。