共和党が多数を占める米下院で22日、民主党議員が銃規制強化法案の採決を要求して抗議の座り込みを行った。主導するジョージア州選出のジョン・ルイス議員は1960年代の公民権運動を率いた「6人のリーダー(Big six)」の最後の1人。”米議会の良心”と呼ばれて敬われる同氏によって、議事堂内で議員によって市民不服従運動が展開される異例の事態になった。

そんな議事堂内の様子を、本来なら私たちはTVで見ることはできないはずだった。米国にはC-SPANという議会中継を中心とした政治専門ケーブルチャンネルがあるが、議会中継映像をC-SPANに提供するカメラを使えるのは議会が行われている時のみ。銃規制に消極的な共和党は座り込みの様子を直接国民に見せたくなかったのだろう。共和党多数の下院はTV中継の例外を認めず、議会が閉じると同時にC-SPANに議事堂内の映像がフィードされなくなった。ところが、C-SPANはライブ中継を再開した。座り込みする議員が開始したPeriscope(Twitter傘下)やFacebook Liveの映像を流し始めたのだ。

座り込みをする議員がPeriscopeやFacebook Liveを活用し、見られなかったはずの座り込みの様子がライブ中継された

本来なら見ることができなかった座り込みのライブ映像を視聴できる。これはスゴいことである。共和党に言わせると座り込みは議会に対する圧力である。それをニュースや伝聞ではなく、国民が直接判断できる。ただ、同時にC-SPANが流したPeriscopeとFacebook Liveの映像は、TVとライブストリーミングの溝を浮かび上がらせる結果にもなった。

Periscopeからの映像はスマートフォンを縦にして撮影しており、横長のTVでは余白だらけになった。また見る人の立場からフレーミングを考えて撮っていないので、的外れな映像になりがちで、ノイズや周りのひそひそ話の声が大きく入って肝心の討論の邪魔していた。配信も途切れがち。The Vergeの「How Congress' bad Periscopes brought out the best in C-SPAN」で指摘されているように、見続けるのが苦痛な映像だった。C-SPANというと、いつ見ても同じような議会中継で、映像的には退屈なチャンネルだが、そんな普段のC-SPANの映像が恋しくなってしまう中継だった。

もちろん映像の専門家ではない議員が、手持ちのスマートフォンで撮影しただけなのだから、プロフェッショナルな映像でなかったのは仕方がない。だが、同じ映像をPeriscopeで見ると印象が全く異なる。コメントが付くから映像だけでは分からないことが見えてくるし、別のPeriscopeやFacebook Liveにも切り替えられるから、様々なライブ中継を通じて座り込みの様子を確認できる。

C-SPANのアンカーはPeriscopeなどで映像を届けられることを革新的と表現していた。年齢層が高くなるほど、TV視聴者が増え、ネットを活用する人が少なくなる。だから、C-SPANがPeriscopeなどの映像を流す価値があるという意見は分かる。映像の良し悪しではなく、映像をより多くの人に届けることが大事なのだ。それが記録にもなる。だが、ライブ中継番組としては、プロが撮影・配信していないライブストリーミング映像を、ただ見つづけるのは苦痛でしかなかった。革新というなら、PeriscopeをPeriscopeたらしめているのはインタラクションである。優れた撮影でなくとも、インタラクションによってライブストリーミングが視聴者を惹き付ける中継になり得る。

ソーシャルサービスにとってライブコンテンツは金脈

今年4月、Twitterが米プロアメフトリーグNFLの今季10試合のストリーミングの権利獲得を発表した。報道によると、契約金額は1000万ドル弱だという。コンテンツプロバイダーにとって数多くのユーザーを抱えるソーシャルネットワーキングサービスは、効果的にコンテンツや情報を広げられる媒体になる。一方、SNSがライブストリーミングに力を入れている理由は、ライブストリーミングがその時を切り取るコンテンツだからだ。過去のコンテンツをコンシューマに提供する方法はいくつも存在するが、それが起こっている時のライブ映像の配信は独占になる。コンテンツの価値が高いほどにライブ配信の需要が高まり、広告を高く売れる。ターゲティングできるSNSならなおさらだ。Re/codeの「Twitter wants to sell its NFL ad spots for more than $50 million」によると、Twitterは1000万ドル弱で獲得したNFLのストリーミングで、広告を総額5000万ドルで販売しようとしている。The Informationの「Media Firms Lose Out to Celebrities on Facebook Live」によると、Facebookも同じ理由でFacebook Liveに力を注いでおり、同社も大型スポーツイベントなどの権利獲得を模索し、またFacebook LiveでTV画面に進出するプロジェクトも進めているそうだ。

Facebookのマーク・ザッカバーグ氏は、テキスト中心だったソーシャルコミュニケーションが写真中心に変わり、やがて動画、VR(仮想現実)へと移っていくと見通している。VRについては分からないが、動画に関してはTwitterも同じ認識なのだろう。今から楽しみなのは、TwitterがNFLの試合をどのようにライブ提供するかだ。TVのネットワーク局と同じようなライブ中継で、ただモバイルデバイスやPCでも見られるというだけでは、C-SPANのPeriscope映像と同じである。「Twitterでも見られる」ではなく、Twitterならではのソーシャルな体験を提供するライブ中継にすることで、視聴者と広告主の関心をライブストリーミングに集められる。インタラクションが肝になる。