9月にiOS 9がリリースされたあと、大きな論争を巻き起こした広告ブロック・アプリ。近頃は話題にならなくなったが、入れっぱなしにして忘れていた……という人も多いのではないだろうか。私は「Peace」がApp Storeから取り下げられたあとに「Crystal」を使っていたが、最近別のブロッカーに切り替えた。
Crystalの使用を止めた理由は、ホワイトリスト機能が用意されていないからだ。そもそも、広告ブロッカーは、ページ表示を遅延させたり、ユーザーのWebでの行動をしつこくトラッキングするような不快な広告をユーザーがブロックできるツールだ。ただ広告を押しつけられるだけだった状態から脱し、広告の受け取りを「ユーザー自身が管理できる」のがポイントである。
でも、Crystalのようにブロックのオン/オフだけだったら、ブロックをコントロールしているのはユーザーではなく広告ブロッカーのベンダーになる。ホワイトリスト機能を用意しても、ユーザーは面倒なリスト作成を行わないという声もある。実際、デスクトップ版ブラウザでホワイトリスト機能を活用しているユーザーは少ない。多くの人がデフォルトのままブロックしている。だからといって、ホワイトリスト機能が不要だとは思わない。ユーザーがコントロールできる手段がユーザーに与えられていることが大切なのだ。
通常のページ表示(赤)とCrystalをオンにしたSafari(青)の表示時間の差をブログでアピールするMurphy Apps、広告の影響を広く知らしめたが、ライバルも同様のデータを公開し、広告ブロックで表示時間を短縮する競争が過熱した |
Crystalを開発するMurphy Appsは、まもなくユーザーが管理できるホワイトリスト機能を実装する計画だが、同時にEyeoと提携したAcceptable Ads(容認できる広告)機能も追加する。Eyeoは同社が有害ではないと判断した媒体については有償でホワイトリストに掲載する。ホワイトリスト・ビジネスではなく、広告で成り立っている優良な媒体を支援する仕組みであると主張しているが、ユーザーの一人として今のところ私は不透明感を拭いきれない。
そこでホワイトリスト機能を中心に、もう一度、iOS用の広告ブロック・ツール探しを行い、そしてたどり着いたのが「Refine」だ。まだ使い初めて日が浅いので、信頼性は評価できないが、アイディアだけでも評価できる。
Refineを開発したのプリンストン大学のまだ20歳の学生である。カスタマイズ機能が充実していて、ブロックするルールや広告の表示を認めるホワイトリストをユーザーが柔軟に作成できる。ただ、前述したようにトリガー(trigger)やアクション(action)といったコンテンツブロックの設定は普通のユーザーには分かりにくい。ホワイトリストの作成も「http://」や「www」の入力を不要にするなど簡素化が図られているものの面倒な作業である。
そこでRefineには、ユーザーの間でブロック設定を共有する機能が用意されている。人気ブロッカー・リストから「Noボップアップ」「重複する共有ボタンをブロック」といった設定を選択したり、「clickbait」や「adult」といったキーワードで検索して結果から追加できる。追加した設定をユーザーがカスタマイズすることも可能だ。
すべての広告ブロッカーを試したわけではないが、私が試した中ではRefineが"コントロール"という点で最も納得できた。もちろんRefineで共有されている設定には、ホワイトリストを重視してWebの生態系維持に努めるものがあれば、広告を一切消そうとする悪魔のような設定もある。
ポイントは、Refineにはユーザーのコミュニティがあり、ブロック設定にユーザーそれぞれの考えが反映されているということだ。広告完全非表示にする設定も共有されているけど、そうした設定は悪魔のように見なされるし、逆に広告ブロックを最小限にとどめることがユーザーの利益につながるという主張が偽善呼ばわりされることもある。社会の縮図のようだ。要はユーザー自身の判断であり、色んな考えや意見に触れて、自分の考えで自分のブロック設定を作る自由がある。この感じ、何かに似ていると思ったら、そう初期のRedditである。
しばらく前になるが、Randall Rothenberg氏の「広告ブロッキング : 望まれないインターネットの大惨事(Ad Blocking: The Unnecessary Internet Apocalypse)」という手記がAdvertisingAgeに掲載された。同氏はオンライン広告の業界団体IAB(Interactive Advertising Bureau)のCEOである。広告を強制的に非表示にする広告ブロッカーを強く非難する一方で、オンライン広告のこれまでのやり過ぎも認め、消費者が広告を受け入れる関係を再び築くために以下の4つの提言を行っている。
- インターネットを遅延させるような不要な消費者データの取得を控える
- コンテンツの表示を優先し、不要な広告表示を控える
- 動画広告の自動再生など、ユーザーを戸惑わせる広告を控える
- パブリッシャーがサイトの利用体験をきちんとコントロールする
広告ブロッカーとの対立姿勢は変わらないが、オンライン広告産業が広告ブロッカーのユーザーを非難することはない。おそらく、それは音楽産業の失敗を繰り返したくないからだろう。音楽の違法コピーの共有が問題になった時に、RIAA(全米レコード協会)は音楽の消費者でもある共有ソフトユーザーを訴えるという手段を講じ、結果的に問題をさらにこじらせてしまった。
広告ブロッカーユーザーもまた消費者である。ユーザーが手にした広告ブロッカーという盾をオンライン広告産業が無理に奪おうとしたら、広告主の顧客である消費者との対立が深まってしまう。広告は本来、消費者を楽しませ、有益な情報をもたらすものである。広告提供側が襟を正し、コンテンツと広告が共存共栄できる道を探るのは望ましい方向だと思う。
だからこそ、私たちもコンテンツブロッカーをユーザーの武器として有効に使えるように、しっかりとコントロールする必要がある。