7月17日にマサチューセッツ州ボストンから米国横断のヒッチハイクの旅に出たロボット「HitchBOT」が8月1日にペンシルベニア州フィラデルフィアで消息を絶った。バラバラに壊されたHitchBOTと思われるロボットの写真がネットに広がっており、何者かに破壊された見られている。

HitchBOTは、ブリキ製のゴミ箱のような胴体の上部にLEDスクリーンの顔が付いている。R2-D2型のロボットだけど、手足は飾りで自分では動き回ることができない。太陽光や車のシガレットソケットなど、さまざまな電源から充電が可能だ。3GネットワークとWi-Fiを通じてインターネットに接続でき、音声認識機能を持っているので簡単なコミュニケーションも行える。マイクおよびカメラを使った音声/ビデオ・キャプチャ機能を備え、ヒッチハイク中にはソーシャルメディアにメッセージを投稿する。体長は91センチ、重さは11キロだ。

ヒッチハイクロボット「HitchBOT」

HitchBOTに目的地を書いたボードを取り付け、手をヒッチハイクのポーズにした状態で道端に置いて、ヒッチハイクはスタートする。あとは、どうなるか、どこに向かうかだれもわからない。バッテリー残量がある状態ならメッセージのやり取りがあって位置も確認できるが、電源を失ったら行方不明になる。

HitchBOTの生みの親は、カナダのマックマスター大学のDavid Smith氏(Dr.)とライアーソン大学のFrauke Zeller氏(Dr.)。Smith氏はマックマスター大学でコミュニケーションとマルチメディアを教えており、私たちが普通に生活する環境にロボットを投げ入れた時に人々がどのように反応するか(受け入れるか)を知るためにHitchBOTプロジェクトを実行した。HitchBOTは自ら移動できるロボットではない。ヒッチハイクが成功するかは、人々がHitchBOTを受け入れるかにかかっている。

しかし、HitchBOTはこれまで3回のヒッチハイクプロジェクトを達成してきた。昨年夏のカナダ横断の旅は19回のヒッチハイク、わずか26日間で1万キロを移動した。今年2月のドイツのヒッチハイクでは10日間でミュンヘン、ケルン、ベルリン、ハンブルグなどを回った。6月には短期間のオランダの旅も経験。しかも、単に車で移動しただけではなく、ディナーに呼ばれたり、お祭りのパレードに参加したりするなど、いろいろな経験をしてきた。

4度目のヒッチハイクになる米国横断の旅は最初から動きが鈍かった。フェンウエイパークでレッドソックス戦を観戦したり、釣りに行ったりと活発に行動していたが、なかなかマサチューセッツ州を離れない。州外に移動したら、目的地のサンフランシスコ方向ではなく南へと向かい始めて、フィラデルフィアで行方不明になってしまった。

感情に響く壊れたHitchBOT

HitchBOTはおもちゃのロボットのような見た目だが、人々に受け入れられるように考えたデザインなのだという。人間らしい見た目にすると人々は親近感を持つが、それが単なる機械だと感じた時に親近感が強い嫌悪感に転じることがある。いわゆる不気味の谷(Uncanny valley)に陥らないように一見して機械と分かる見た目にし、しかしロボットとして好感を持たれ、信頼されるようにLEDディスプレイを使って目や口を表示した。

機械が人間に似てくると親近感が高まるが、ある時点で強い嫌悪感を覚える。ただし、さらに進化してほとんど人間と同じようになると再び強い好感を持つから"不気味の谷"である

本稿執筆時点で、米国横断の旅が失敗した理由は明らかにされていない。私たち人間も旅先で事件に巻き込まれることがあるように、今回は不幸な出来事に巻き込まれてしまったのかもしれない。米国でHitchBOTの旅は一般的にほとんど知られていなかったので、カナダの時よりも今回は機械に対する人々のより生々しい反応にさらされた、とも考えられる。

とてもせつないHitchBOTの最後の2つの投稿

ただ、旅ではなく、プロジェクトとして見ると、今回も大きな成果があったと言える。米国ではAIBOやPepperのようなソーシャルロボットよりも、実用的なロボットがロボットと見なされる傾向が強い。その米国でHitchBOTのヒッチハイク失敗を、まるで誰かが旅の途中で不幸な事故にあったように報じるメディアが少なくない。

例えば、The VergeのDante D'Orazio氏はHitchBOTの最後の2つの投稿を紹介したうえで、「この声が聞こえるだろうか? この小さなロボットにはちゃんと扱われるだけの価値があった。これは米国における失意の日の1つだ」と書いている。

ネットに広がっている壊されたHitchBOTの画像

AIBOの修理サポート終了によって、やがて来る「別れの日」に心を痛める持ち主がいるように、ソーシャルロボットは良くも悪くも人々の感情に影響する。私たちが暮らす社会に進出してくるロボットはコストや機能・性能だけで私たちを満足させられる機械ばかりではないことを、バラバラになったHitchBOTは実感させた。ロボットに対しても親近感や信頼といった感情の持ち方が、これから問われることがあると多くの人が気づかされた。

プロジェクトチームは今週に米国横断ヒッチハイクの続報と、プロジェクトの今後の計画を公開する予定である。米国横断再挑戦も十分にあり得ると思うが、そうなった時に人々の感情がどのように釣り合うのかは興味深いところだ。2代目HitchBOTは友達のように扱われて無事にサンフランシスコまで移動するかもしれない。逆に親近感が増したことで、"不気味の谷"に落ち込んだ人によってたたき壊されることもあり得ると思う。