インターネット広告に関して今、ユーザーと広告主/オンラインメディアは逆の方向を向いているようだ。

IAB(Internet Advertising Bureau)がまとめた英国の広告ブロッカーに関するユーザー調査によると、広告ブロックツールを使用しているユーザーは全体の15%だという。男性(22%)のほうが女性(9%)よりも広告を避ける傾向が強く、若い世代(25-34歳:29%、18-24歳:34%)ほど広告ブロッカーを導入している。

また、PageFairの「2014 Report - Adblocking goes mainstream」によると、2013年、広告ブロックツールの利用者は前年に比べて17%も増加した。2014年6月末時点の広告ブロックツールのアクティブユーザーは1億4400万人。今年9月に公開される予定の2015年レポートでは2億5000万人前後に達している可能性が高い。

広告ブロックツールの利用者の推移、2013年から増加ペースが上昇 (出典: PageFair)

一方で、同じIABのインターネット広告売上レポートの最新版によると、2015年第1四半期に米国のインターネット広告売上が133億ドルを記録したそうだ。第1四半期としては過去最高である。このペースだと今年は、昨年の年間500億ドルを超える見通しだ。

インターネット広告売上の推移(出典:IAB/PwC)

広告主はインターネット広告を有効な広告手段と見なし、インターネットに流れ込んでくる広告費によってネットユーザーは豊富な無料コンテンツにアクセスできる。しかし、ユーザーが広告を拒否する傾向がここ1-2年で急速に強まっている。インターネットユーザーの広告疲れと呼べるような傾向が見られる。

まばたき程度の遅延もクリック数に影響

インターネット広告を嫌う人が増えているのには、主に2つの理由がある。1つはスノーデン事件以降、プライバシー保護への関心が高まっていること。過去2年の間に、ユーザーをトラックしない検索サービスDuckDuckGoの検索数が6倍に増えた。

広告ブロックツールの利用者も2年ほど前から急増し始めた。ユーザーはトラッキングを嫌い始め、一方でオンラインメディアは1つでも多く広告をクリックさせるために、トラッカーや広告関連のJavaScriptの実装を年々増やしている。その辺りの実状を、WiredのライタースタッフだったQuinn Norton氏が包み隠さずに語った「The hypocrisy of the internet journalist」が話題になったのも記憶に新しい。

もう1つが広告関連のJavaScriptの増加によるサイトのパフォーマンスの低下だ。Googleの研究によると、400ミリ秒、まばたきする程度の時間の違いも検索数の増減にはっきりと現れる。目的のWebサイトが表示されるまで、パートナーサイトから広告やコンテンツを収集する間にユーザーがうんざりするのは言うまでもない。

だからといって、広告ブロックツールがソリューションになるかというと、広告が表示されないようにしてもユーザーがトラックされ続けるし、今の広告ブロッカーは"メモリ食い"であるため、端末のパフォーマンスに影響が及ぶ。Mozillaに貢献しているNicholas Nethercote氏の「AdBlock Plus’s effect on Firefox’s memory usage」によると、AdBlock Plusを使用せずにニュースサイトを開いたFirefoxのメモリ消費量は194MiBだったが、AdBlock Plusを有効にしたら417MiBに増加した。

1カ月当たり14ドルのコスト

効果的な広告を提供するために広告関連のJavaScriptを仕込んでも、パフォーマンスを損なってユーザーがサイトを使わなくなってしまったら、広告主やオンラインメディアにとって損失である。訴訟を通じて広告ブロックツールを骨抜きにしようという動きもあるが、それでは根本的な解決にはならない。ユーザーが反発を強め、Webのエコシステムの成長は鈍ってしまうだろう。広告主も、この風向きの変化を感じていて、それが近年Facebookに広告が集まり、ソーシャルマーケティングやバイラルマーケティングに力を注ぐ企業が増えている理由の1つである。

オンライン・マーケティングの世界は今年、変革の時期を迎えたと言える。理由は、2014年の米インターネット広告売上の500億ドルという数字だ。これはインターネット広告市場の"成長"を示す数字として紹介されている。たしかに大きな数字なのだが、米国のほぼ全員がインターネットに接続するようになったと考えると、1人当たり年間177ドル。1カ月当たり14ドルである。まだまだ小さな金額であり、今なら広告とは別の方法でまかなうことが可能な数字である。

例えば、AppleはiOS 9でSafariにコンテンツブロック用の拡張機能を用意し、また「News」という新アプリを提供する。広告まみれのWebではなく、ユーザーが快適にWebコンテンツを利用できる環境を同社が整えようとしていると見るのは的外れな推測ではない。体験にこだわり、iOSデバイスやMacを安売りしないAppleなら、コストをハードウェアやプラットフォームからの利益に吸収できるだろうし、他のプラットフォームとの明確な差別化につながる。

ほかにも、サブスクリプション型のパッケージで広告フリー/トラッキングフリーを実現しようとしたり、マイクロペイメントを行ったりするなど、さまざまな試みが行われ始めている。

1人当たり1カ月14ドル、さまざまな可能性を選べる今なら、大胆に、そして革新的に、今日の広告ベースの無料モデルに代わってすべての人を満足させられる新たなモデルづくりに挑める。米インターネット広告市場に流れ込む金額が今以上に膨れあがったら、広告疲れを感じ始めたインターネットユーザーといずれ衝突し、双方が受けるダメージも大きくなる。そうなると思い切ったことができなくなる。今年はインターネットが変われる大きなチャンスなのだ。