「貯金がうまいか?」と聞かれたら、わが家は「へた」だと思う。アリとキリギリスならキリギリス。すべての楽しみを我慢してまでコツコツとためられない。つい、うまいものを食べに行っちゃうし、「ひたすらため続けるのってツラい」と思ってしまう。そんな倹約がヘタくそなわが家でもお金をためられるサービスが登場した。サンフランシスコのスタートアップDigitによる貯金箱サービス「Digit」だ。
初めてDigitのことを耳にした時、銀行口座にお金が入ったり、使う予定のないお金があったら勝手に貯金に回してしまったりするサービスと聞いたので「それ、ないわ~!」と思った。でも、先にベータサービスを体験した人の話だと、「とても楽しく貯金できる」という。楽しくためられるなら「貯金=ツラい」で貯金できないわが家としてはスゴいことである。
Digitに登録すると普通預金口座のようなDigitアカウントが作られる。そして、自分が普段の生活に使用している銀行口座とDigitをリンクさせる。すると、Digitが口座の残高のモニタリングを始める。残高の水準、入金の規模、生活費の規模、入金と出金のサイクルなどを把握し、それをもとにDigitが貯金を開始する。
2~5日おきに1回、5ドル(約595円)から50ドル(約5950円)程度。過度の引き出しを行わない保証はしていないが、ユーザーの生活レベルに合わせて、ユーザーが十分に許容できる範囲に収めるそうだ。
自然とお金をためられる「Digit」。上記の写真の場合、193回貯金しており、平均は3.88日おきに1回39ドル。サービスは無償で、安全性は、25万ドルまでのFDIC(連邦預金保険公社)の保証付き。リンクする銀行口座のログイン情報をDigitはストアしない |
自分の口座間とはいえ、誰かが勝手にお金を移すのは気分の良いものではない。でも、実際に試してみると、そんなに悪い気分ではないのだ。毎回「持っていかれた……」と思うものの、喪失感を覚えるような額ではないから「今日はランチに出掛けるのを止めて自分で作ろう」とか、「ラテじゃなくて、普通のコーヒーにしておこう」とか、そのたびごとにポジティブに倹約する気持ちになれる。これが、例えば1回1ドルのような少なすぎる額だと、なかなか貯まらないし、それぐらいなら倹約せずに見過ごそうという気持ちになってしまうだろう。ちゃんとお金が貯まるけどネガティブにならない、毎回いいあんばいで持っていくものだと感心する。
Digitのもう1つの特長が連絡や操作が基本的にテキストメッセージであること。例えば、ボーナスが入金されたり、いつもより出るお金が少なかったりした場合、Digitが「口座残高が○○ドルを超えましたよ。何ドルぐらい貯金に回しますか?」と尋ねてくる。「○○ドル」と返信すると、銀行口座から○○ドルがDigitの口座に移る。現金が必要になった時も「○○ドル引き出して」とテキストでメッセージを送ったら、翌営業日には銀行口座に指定した金額がDigitから送られている。お金を移すのはちょっとした手間だが、これならサクっと完了できる。正直、最初はお金を移したという実感を持てなかったほどだ。
自動的に貯金されるのを止めたい時は「Pause (一時停止)」とテキストで指示すると、Digitが「どのくらいの間?」と聞いてくるので期間を返す。すべてがテキストメッセージでのやり取りなのだ。だから手軽だし、貯金のアシスタントがいるような感じでためようという気分が萎えない。何かをやってくれた時に「ありがとう」と送信したら、ちゃんと「どういたしまして」と返ってきた。
「今年はスマートウォッチがくるか?」とか、「Appleが電気自動車事業に参入か?」などと騒がれているが、IT企業の力を最も信じている米国の若い層が最も"変革"の実現を期待している分野は金融である。1981年から2000年に生まれた10万人以上からデータを集めた「The Millennial Disruption Index (MDI)」によると、ミレニアルズ世代はリーマンショックとその後の不景気、就職難を体験しているだけに「銀行大手」に不信感を抱いている。相変わらず銀行大手は高所得者の資産運用の手助けは熱心で、それ以外の人たちからは何かにつけてサービス料を取るばかり。だから「信頼できるパートナー」というような感覚を抱けない。
おじさんの1人である私は最初「テキストメッセージで貯金」なんて危なっかしいと思ったが、ミレニアルズたちは顧客本位のサービスを提供する金融機関が登場したらリスクよりも変化に期待するのだろう。現時点でDigitユーザーの平均年齢は27歳だ。ベータサービスでは全体で100万ドルを超える貯金を達成したそうだ。これはユーザー全体の収入の5.5%程度だという。大きな規模ではないし、Digitアカウントには利子がつかないので資産は増えない。貯金箱のようなサービスだ。でも、普通の人たちが普通の目標をクリアするのを無理なく、自然と手助けしてくれるサービスの登場は注目に値する。