Uberの登場で、サンフランシスコのタクシー利用が65%も減少」。9月17日に公開されたThe Atlanticの記事だ。

サンフランシスコ市営交通局が公開した資料によると、2012年3月には月間1,424回だったタクシー1台当たりの平均利用数が今年7月には504回にまで減少した。その大きな原因として指摘されているのがUberやLyftといったライドシェアと呼ばれる運輸ネットワークの成長だ。

筆者もタクシーではなく、ライドシェアを使うようになった1人である。初期の頃にUberを試してみて、当時は"白タク"のようなサービスと危ぶまれていたけど、実際に使ってみて快適な体験に感動した。だから、サンフランシスコでタクシーがUberに食われているのを不思議だとは思わない。

だが、筆者は今年に入ってUberを使っていない。筆者の周りでもUber離れが進んでいる。理由ははっきりとしている。Uberの信用が揺らいでいるからだ。

例えば9月だけでも、「Uberの契約ドライバーが利用客をハンマーで殴った」、「女性の利用客が男性ドライバーから嫌がらせを受けた」、「Uberドライバーが車内にマリファナとアルコールを所持」、「Uberドライバーが駐車サービスの係員に拳銃を突きつけた」というように、Uberドライバーによる事件が多発している。

他にもUberがユーザーのロケーション情報を宣伝に利用していたという疑惑ライバルサービス(Lyft)の偽のアカウントを作って5,500回以上も予約・キャンセルを繰り返した疑惑が浮上。ライバルの車に客として学生アルバイトを乗車させ、ドライバーにUberへ移籍するよう口説かせたヘッドハンティングも問題視された。

ここまでひどいのは最近のことだが、個人的には利用した後、ドライバーに5つ星を付けるのに躊躇する経験が何度かあって1年ほど前から次第にUberを使わなくなっていた。

米国でUberが成功した理由

Uberに代表されるライドシェアは契約ドライバーが自家用車を使って乗客を運ぶサービスである。利用者はスマートフォン・アプリを使って近くにいる車を確認して呼ぶ。

Uberの成功には2つのポイントがあった。1つは、米国のタクシーに対して利用者が大きな不満を抱えていたこと。米国のタクシーのライセンスは発行数が制限されている。だから、ライセンスを保持する業者は競争の少ない環境に胡座をかいて、サービスの向上に無関心だった。呼んでもなかなか来ない。クレジットカードで支払えないタクシーもまだまだ多く、しかも釣り銭を十分に準備していなかったりする(から、釣り銭は自動的にチップになる)。そんな不満をライドシェアは解消してくれた。アプリで近くにいる車を呼べば、数分でやってくる。支払いも登録アカウントで行うので、目的地に着いたら支払いの手間なくすぐに降りられる。

利用者減少に悩むサンフランシスコのタクシー、モバイルアプリでスマートフォンから近くにいるタクシーを呼べるようにするなどライドシェア・サービス対策にようやく乗り出した

もう1つはドライバーの収入である。Uberのドライバーの取り分は売上の8割、同社は最高で年間9万ドルの収入が可能であるとアピールしてきた。これは魅力的な数字である。ちなみに、米国のタクシー運転手の年収の中央値は3万2687ドルで、9割が4万6500ドル以下に収まる。

Uberドライバーは個人事業主であり、稼げるかどうかはドライバー次第。高い評価を維持することが、乗客を増やす近道である (逆に評価が下がると、Uberから一時停止が命じられる)。初期は5つ星評価を獲得するためにあれこれとアイデアを試すドライバーが多く、そんな良心的なサービスが口コミで広がり始めてUberの躍進が始まった。「ドライバーの努力→Uberの評判が上昇→利用客が増加→ドライバーの収入アップ」というストーリーである。

ところが、最高9万ドルという年収にひかれてタクシー運転手もUberに乗り換えるようになってくると、需給バランスが崩れ始めたのだろう。ドライバーが容易に収入を伸ばせなくなり、収入が限られるとドライバーが負担しなければならない燃料費や車の維持費が重荷になる。

Is Uber’s Business Model Screwing Its Workers?」という記事で、KaziというUberドライバーが最低賃金ギリギリの収入なのに、利用客からUberドライバーの仕事について聞かれると「自分のビジネスを持っているようなものだから気に入っている」とウソをついていたとコメントしている。やがてUberドライバーの不満が爆発し始め、Uberのドライバー収入に関する説明が事実と異なるとしてドライバーが訴訟に踏み出し始めた。そして前述のUberドライバーの不祥事だ。上手くかみ合っていた歯車が一転、悪循環に回り始めたような印象を覚える。

Uberのトラブルで思い出すのは、JetBlueの会長であるJoel Peterson氏が昨年末にLikedInで公開した「Building a High-Trust Culture #1」というコラムだ。

ビジネスの成功に欠かせないのは「信頼 (Trust)」であり、リーダーとそのチーム、仲間同士が信頼しあっている会社ではイノベーションが起きやすく、より良い成果が生み出せる。取引の成功にも信頼は欠かない。それは大企業でも、創業者2人だけのスタートアップでも変わらない。逆に信頼の欠如や政治的な駆け引きは、コストや時間の無駄を生み、関わる人たちのやる気を削ぐ。

ライドシェアというシステムは完璧なものではなく、例えばドライバーの管理や教育、法的問題の解決など課題が数多く残されている。ただ、Uberは荒削りながらも長く変化しなかったタクシー産業に大きな"凹み"を入れた。だから、危うい部分はあるけど、サンフランシスコの人々はUberを信用して活用した。初期のUberドライバーもサービスが機能するように協力した。Uberの成長の歯車をかみ合わせていたのは、利用者、ドライバー、Uberが相互に信頼関係を築けていたからである。

そこを意識してUberは残された課題の解決を何よりも優先すべきだった。ところが、LyftやSidecarとの競争に邁進し、サービスを拡大することに突き進んだ結果、歯車をかみ合わせていた信頼を損なってしまった。それが今Uberが米国で直面しているトラブルを生み出しているように思う。