米国の4大スポーツというと、NFL(アメフト)、MLB(ベースボール)、NBA(バスケ)、NHL(アイスホッケー)。フットボールと言えばアメフトになる国なので、ワールドカップが今一つ盛り上がっていないと思われることが多い。たしかにドイツ大会以前はそうだったが、今はそんなことはない。米国でもプロスポーツとしてサッカー人気が高まっている。近年、欧州で活躍したベテラン選手が新天地として米国のプロサッカー・リーグMLS(メジャーリーグサッカー)を選ぶケースが増え、2012年にMLSの平均観客動員数がNBAやNHLを上回った。これは世界のサッカーリーグで第8位の平均観客動員数である(同時期にJリーグは12位)。実際MLSのスタジアムは熱気にあふれていて、5大プロスポーツに数えてもいいと思えるほどだ。
しかしながら、米国内において「プロサッカー? 全然知らない」と言う人が今でも多いのも事実なのだ。
例えば、ワールドカップとMLSの試合中継のTV視聴率に関するThe Atlanticの記事は「Americans Love the World Cup—We Still Don't Care About Soccer (ワールドカップは好きだけど、サッカーに関心はないアメリカ人)」である。サッカー人気は4年に一度ワールドカップで米国代表を応援し、そして冷え込むの繰り返しに過ぎないという結論だ。
「なんといってもオーディエンスが若く、ヒスパニック人口は増加していて、(放映権料は)NFLやNBAに比べたら格安なのだから、TV局はサッカーをブレークアウトさせたくてたまらない。だが、現実はスタジアム以外の場所では誰も米国のサッカーなど見ていない」(The Atlantic)
MLSのプレイオフの視聴率は0.32%。NBAチャンピオンシップの17.7%やNHLチャンピオンシップの5.8%に遠く及ばないのだから、The Atlanticのような指摘をされても仕方がない。でも、MLSの平均観客動員数の伸びとTV視聴率の低迷ぶりのギャップは違和感である。そもそも、TV局がサッカーを米国でブレークアウトさせたくて努力しているという見方に疑問符を付けたくなる。だって、ワールドカップですら、地上波の試合中継は週に1回1試合だけなのだ。ケーブルサービスや衛星TVサービスを契約したら、サービスパッケージによって全ての試合が見られるようになる。
これは見方を変えるべきなのだ。30代後半以上、TVと言えばケーブルTVや衛星TVサービスの世代はワールドカップやMLSの試合中継を見ていない。サッカーに関心のある若い世代は、ケーブルと言えばTVではなくインターネット接続なのだ。彼らの観戦方法はストリーミングであり、ブラジル大会のストリーミングサービスを提供している[WatchESPNの視聴者数は好調だ。
米国対ドイツ / ポルトガル対ガーナが、NFL決勝のスーパーボウルを上回るストリーミング視聴者を集めた](http://www.theverge.com/2014/6/26/5847778/us-world-cup-game-helps-1-7-million-streaming-record)。ブラジル大会は米国では昼間になるため、その時間帯にはカンファレンスコール数も激減した。多くの人が何かしらの方法で観戦していたことになる。おそらくスポーツバーのランチアワーに駆け込んだか、もしくはスマホやタブレットでストリーミングだろう。Twitterのデータもスーパーボウルを上回るものになっている。
つまり、2006年以降にサッカー人気が急上昇した米国では世代間のギャップが大きい。そこにすっぽりとTV視聴の昔と今の違いも当てはまるから、従来のTV世代が醒めているのに対して、ストリーミング世代は盛り上がっている。だから、従来のTV視聴者向けのTVサービスで若いサッカーファンを引き込みたいと言われても、そもそもアプローチが的外れに思えるのだ。
Aereoに対する違法判決、衰退するブロードキャストTV
TV放送ストリーミングサービスのAereoに対して、米最高裁判所が同社のサービスを違法とする判断を下した。同社は受信用の小型アンテナを多数管理し、小型アンテナ1本を1ユーザーに貸し出すことで、Webサービスを通じてユーザーが地上波放送をクラウドに録画したり、ストリーミング視聴できるようにしていた。アンテナとストレージはクラウドの向こう側にあるから、視聴する端末はネット端末を幅広く使用できる。
利用料金は月額8-12ドル。地上波放送を再配信して利益を得る怪しいサービスに思えるものの、筆者の周りで使っている人は誰もが絶賛していた。Webアプリやモバイルアプリがとてもよくできていて、新しい種類のサービスなのに迷わず使用できるらしい。サービス自体は、従来の地上波放送と新出のストリーミングサービスやダウンロードサービスを滑らかに融合させる感じで「TV視聴が変わる!」と勧められていたから、ベイエリア地域にサービスが拡大したら契約しようと思っていた。が、残念ながら今回の違法判断となった。裁判ではケーブルTVおよび衛星TVサービス事業者がTV放送の再配信に高額のロイヤルティを支払っているのが争点になった。Aereoの仕組みはユーザーの権利に根付いたものであり、デジタル世代のベータマックス訴訟と注目されたが、今回は再配信と見なされTV放送産業の勝利になった形だ。
最高裁の判断にはデジタル世代から不満が噴出している。Aereoは高額なケーブルTVや衛星TVサービスを契約することなく、地上波放送を便利にしてくれるソリューションである。また、遠隔にあるアンテナとストレージを個人の管理物として認めなかった今回の判断は、遠隔にあるサーバに格納した個人ファイルにアクセスするクラウドコンピューティングサービスの根幹を揺るがす判例にもなり得るからだ。
Re/Codeに、メディア大手のシニアエグゼクティブで自分はコードカッター(ケーブルTVサービスを解約した人)だという人物から「Aereo Shutdown Will Be a Disaster for Broadcast TV (Aereoの閉鎖はブロードキャストTVの悲劇になる)」という意見が寄せられた。「もし自分がTVネットワークの一つを運営していたら、すぐにでもAereoの資産の買収に乗り出し、デジタル配信サービスの再構築を始める」と述べている。それこそ、若いサッカー好きをTVに引き込める方法だと思う。だが、残念ながら米国のTV産業ははクラウド時代へのシフトではなく、従来の地上波/ケーブル/衛星にとどまることを選んだ。スマートTVの話題がいつの間にか消えてしまうのも納得できる。