アクションカメラのGoProが6月26日にNASDAQ市場に上場した。米国では2011年7月にSkullcandy(ヘッドフォン)が上場して以来のコンシューマエレクトロニクス分野のIPO(新規株式公開)として話題になっている。

今年、米国のIPO市場はドットコム・ブーム真っ只中の2000年以来の活況を呈しており、すでに144社が上場し、調達額は300億ドルに達する。しかし、コンシューマエレクトロニクス分野は低調なままで、こんなにウエアラブルやスマート家電が話題になっているのに、GoProが3年ぶりのIPOなのだ。

大きな理由として指摘されているのがスマートフォンの枠を超えた成長である。2007年にiPhoneが登場した直後こそスマートフォンは携帯+iPod+Webブラウザでしかなかったが、あっという間にゲーム機、コンパクトカメラ、ビデオ、カーナビといった家電製品の代わりとして機能し始めた。ソフトウエアは柔軟に機能を取り込み、年々ハードウエアは基本性能を向上させている。着実に単目的の製品との差を縮め、多目的に使えるメリットを伸ばしてきた。

今年の開発者カンファレンスWWDC 2014でAppleはHealth KitとHome Kitを発表したが、今やスマートフォンは家電製品のエコシステムを司るハブになろうとしている。その結果、スマートフォンのエコシステムを活用する小さな家電製品が増加する一方で、単目的の製品や自らプラットフォームを目指す製品の成長が困難になり、IPO規模の成功が見られなくなった。

GoProのIPOが騒がれているのは、3年ぶりというだけではなく、コンシューマエレクトロニクスでは1991年のDuracell International (電池)以来の規模だからだ。単目的の家電製品が市場を狭める時代に、GoProはスマートフォンに飲み込まれることなく、上手く共存しながら躍進している。

カメラメーカーではなくコンテンツ企業

GoProは、創設者のNick Woodman氏がオーストラリアへサーフィン旅行に行った時に、素人の自分でもプロのスポーツカメラマンのような迫力のあるアクション映像をキャプチャできたら……と思ったことから始まった。だから、GoProという名前になった。

GoPro HERO3+

GoProはアクションビデオを撮るのに特化した小型ビデカメラだ。ヘルメットや自転車などに装着しやすいが、カメラ自体は素っ気ないデザインで、本体にビュースクリーンも付いていない。撮影ボタンを押したら、あとは撮影のことは忘れて、ただスポーツなどに集中する。出たとこ勝負なカメラなのだが、結果を見てみると予想を超えたアクション映像になっていたりする。

IPOの資料などを読んで面白いと思ったのは、GoProの製品はカメラなのに、GoProは自身をカメラ・メーカーではなくコンテンツ企業と位置付けていることだ。Varietyのインタビューで、GoProのコンテンツ責任者であるAdam Dornbusch氏は「カメラはコンテンツを得るためのツールでしかない」と述べている。

つまり、カメラメーカーのように「防水・防塵で身につけられるカメラ」とGoProをアピールしても、防水・防塵カメラは安くはないし、そんな売り文句やスペックでは消費者はなかなか食指を動かさない。でも、波を切るサーファーの迫力ある映像だったらたくさんの人が惹かれる。撮影したのがプロスポーツカメラマンではなく、普通のサーファーが普段通りに波乗りしながら撮ったと知ったら、それを撮ったカメラにも興味が湧く。スポーツをやっていたり、アウトドア好きなら自分でも撮ってみたいと思うだろう。カメラのスペックではなく、コンテンツに刺激されてユーザーはGoProを手にするから、GoProはコンテンツ企業なのだ。

2013年だけでGoProユーザーは2.8年分におよぶ「GoPro」をタイトルに入れた動画をアップロードした。今年の第1四半期だけで、「GoPro」がタイトル、ファイルネーム、タグ、説明に含まれる動画の視聴は5000万時間を超えている。これはGoProがソーシャルメディアの活用に積極的に取り組んできた結果であり、またGoProコンテンツを見た人が刺激を受けてGoProを買い、そして自分もGoProコンテンツを公開するという良循環が起こっていることを示す。下の映像は、カモメがGoProをくわえて飛んでいき、海面すれすれを飛ぶカモメの視点が偶然撮影されたものだ。最近では、こんなスポーツやアウトドアとは関係のないシーンでも、GoProコンテンツが新たな刺激になって、GoProユーザーがどんどん広がっている。

アクションカメラ市場を開拓したのはGoProだが、すぐにソニー (POV Action Cam)やGarmin (Virb)が参入してきた。機能や使い勝手ではGoProが劣る点も多い。それでもGoProの人気が突出しているのは、ソニーやGarminはカメラを売り、GoProはコンテンツを生み出しているという軸足の違いではないだろうか。

それはスマートフォンが家電製品を飲み込み始めた時代にGoProが生き残っている理由でもある。サーフィンのアクション動画のような、スマートフォンでは撮れないコンテンツから人々はGoProをイメージし、そんなコンテンツに興味があるユーザーはスマートフォンではなくGoProを手にする。

考えてみれば、GoProこそ本当の意味でウエアラブルである。スポーツ中など、カメラの存在を消したい時に身につける。スマートフォンのカメラ機能では置き換えられない。見た目はずんぐりしているし、身につける時間も短いけど、間違いなくウエアラブルなソリューションである。一方で、今あるスマートフォンのコンパニオンデバイスはどうだろう。常に身につけられるようになっているけど、それがなくてもスマートフォンで何とかなる。それではスマートフォンに飲み込まれる家電製品と立場は変わらない。

今はウエアラブルというだけで話題になるが、やがて淘汰の時期がやってくる。そのときに生き残れるのは、ソリューションとしてのウエアラブルだと思うのだが、どうだろう。