Googleの自動運転カーが交通違反で捕まったら、誰が違反切符を受け取るのか?
最も多い答えは「いざという時の運転を担当する人」だ。そして、その答えは現在Googleの自動運転カーの公道テストが行われているカリフォルニア州マウンテンビューでは正解である。テストに使われている車両は、通常の車と同じようにドライバーによって運転できるようになっており、公道走行時には必ず自動運転カーを熟知したドライバーが乗っている。
でも、想像してみると、自動運転の制御アルゴリズムをプログラミングした本人が乗っているのならともかく、自分がハンドルを握っていない時にスピード違反で捕まったら、標識をちゃんと認識できなかった「車のせい……」と言いたくなるだろう。ちなみにカリフォルニア州ではポイント制が採用されており、違反はドライバーの運転記録に影響する。
さらに、この問いを複雑にしたのが、Googleが5月27日に公開した自社開発の自動運転カーのプロトタイプだ。完全自動運転で運転席がない。ハンドル、アクセルペダルやブレーキペダルは付いていないので、乗っている人ができることは車の停止だけである。
自動運転カーと完全自動運転カーでは、社会に与えるインパクトが大きく異なる。人による運転が必須の自動運転カーなら恩恵をこうむるのは運転免許を持っている人に限られるが、完全自動運転カーなら車を運転できない人に車の便利さが広がる。公共交通機関で行けない場所にも車で自由に出かけられるし、障害を持つ人や高齢者の行動範囲も広がるだろう。車の運転が得意ではない人や高齢者が無理にハンドルを握る必要もなくなる。全員が呑んでしまっても大丈夫だ。
完全自動運転カーには車を運転できない人だけが乗る可能性があり、それが可能になって欲しいものだ。では、乗っている人がマニュアルで運転できない完全自動運転カーが交通違反で捕まったら、誰が切符を受け取るのか?
現時点で、その答えは分からない。
プロトタイプを公開する数週間前に、Googleはメディア関係者やアナリストを招待したGoogleカーの試乗会を行った。参加したThe AtlanticのAlexis Madrigal氏(シニアエディタ)が「Google's Self-Driving Cars Have Never Gotten a Ticket (Googleの自動運転カーは違反切符を切られたことがない)」という記事を書いている。
試乗会の時に、Madrigal氏の前を走っていたGoogleカーが難しい運転を強いられたという。左折のために2台が交差点に入った時に、対向車線に切れ間ができなかった。1台目はスムースに左折できたが、2台目の時に信号が黄色に変わって「とどまるか」「左折するか」という判断が必要になった。Googleカーは「左折」を選んだ。Madrigal氏は正しい判断だと思ったが、タイミングは微妙だったという。急げば、事故を起こす可能性が高まる。Googleカーが、そこまで考慮していたかは分からない。そこでMadrigal氏は地元警察署を訪れて、すでに数十万マイルのテスト走行を重ねているGoogleカーの運転履歴を調べた。すると、違反歴は"ゼロ"だった。ちなみに自動運転カーの公道テストに関して、Googleと市警察の取り決めはなく、違反があれば、他のドライバーと同様にGoogleカーも問答無用で切符を切られるそうだ。
自動運転カーは、標識や信号、歩行者、誘導員、障害物など数百のオブジェクトを同時に見分け、交通ルールを遵守しながら適切に対応する。何が起こってもあわてないし、長時間運転し続けても疲れない。想定どおりに動作すれば、人間よりも間違いなくルールを守った安全運転を実行できる。ただ、想定どおりにきちんと動作させるのがタイヘンなことであり、さらにきちんと動作するという信用を社会から得るのはもっとタイヘンなことである。
すでに市街地を走っているGoogleカーが違反ゼロという輝かしいドライバー歴を積み上げてきていることを知ると、ハンドルやアクセルペダルのないGoogleカーが単なるプロトタイプではなく、より現実的なものに見えてくる。
責任を負うのは自動運転技術を提供する企業
Googleが自動運転カーの公道テストを行っているカリフォルニア州では、自動運転カーの実用化を目指した法案が成立している。現時点で節目となるのが、2015年1月1日だ。その時までに、カリフォルニア州車両管理局(CA-DMV)は自動運転車が公道を安全に走行するのに必要な規制案を完成させなければならない。自動運転カーの公道の利用を認める。交通の常識を変える第一歩である。
最近の公聴会は、CA-DMVの法律顧問補佐Brian Soublet氏が法における"運転者"の定義についてコメントを求めることから始まった。道路交通法で運転者は運転席に座る人物(person)を指す。誰も運転席に座っていなければ、自動運転技術を成立させている人物(person)になる。
もしGoogleカーが切符を切られたら、誰が受け取るのか。人物(person)であれば、自動運転技術を開発するプロジェクトのリーダーや、違反の原因に関与した人たちになりそうだが、そこに責任を押しつけるのは明らかにおかしい。責任の所在についてはGoogle内でも議論があるようだが、公聴会の様子から判断するとGoogleは自動運転技術を提供する企業にあると考えているようだ。CA-DMVは保守的な姿勢で、従来の道交法の運転者の定義のまま広義に解釈して、人物(person)という表現に企業も含めることが可能だと考えている。だが、Googleはあいまいな表現を望んでいない。いま検討されている規制案は公道テストのためのものだが、それでも責任の所在を人物(person)に制限するような表現で妥協したら、いずれ運転できる人物(person)がいない車を認めないという見方に変わる可能性がある。それでは、将来の完全自動運転カーの実用化において障害になり得る。
Googleの自動運転カー・プロジェクトが完全自動運転カーを目指したものであるからこそ、自動運転カーのルール作りにおいて妥協はできない。車を運転できない人たちが完全自動運転カーを利用できるようになるのは、まだまだ未来の話だが、最初の規制案を作る"今"から完全自動運転カーに対する理解が得られていたら、未来はぐっと今に近づいてくる。全ての人が完全自動運転カーが走る未来を想像できるように、Googleはこのタイミングでプロトタイプを公開したのだろう。