下の画像は、上がCanary版のChrome 36、下が現在の正式版であるChrome 34だ。Canary版の方は、Omniboxと呼ばれるアドレスバーにURLが表示されていない。左端にドメイン名を示すボタンがあるのみである。これはユーザーインタフェースの実験的なプロジェクトの一環で、フィードバックを収集するためにGoogleが一部のユーザーに有効にした。

ドメイン名を示すボタンのみで、アドレスバーにURLがフル表示されないChrome 36のCanary版

Chrome 34正式版のアドレスバー

正式版のChrome 34と並べてみると、Canary版の方がすっきりしていて、初めてChromeを使う人でもすぐにOmniboxで検索できることが分かるだろう。でも、ユーザーの反応はというと、支持する声はほとんど見当たらない。Canary版だから、URLの仕組みをよく知っているユーザーばかりである。URLから得られる情報と、「Search Google or type URL」という説明のどちらに価値を感じるかというと、彼らの答えはもちろん前者である。

GoogleのPaul Irish氏は「フィッシング対策として効果があるかもしれないと想像している」と述べている。おそらく、銀行などのWebサイトにアクセスしてるつもりで、ボタンには違うドメイン名が表示され、それが目立つから気づきやすいという意味だと思う。だが、Canary版ユーザーの間からは、ドメイン名しか表示されないことで逆に被害が拡大する可能性が指摘されている。

また、URLこそWebであるという声も上がっている。リンクこそWebの本質であり、URLなしでWebは成り立たない。だから、URLは中心にあってしかるべきだという。さらに、Googleはブラウザの最も目立つ場所にGoogle検索を置いて、検索でWebを乗っ取ろうとしている……という、アンチGoogleな議論に飛び火している。

URLに触れる機会の減少

Canary版をしばらく使用し続けてみたが、特に便利になったとは思わなかった。ただし、不便でもなく、別にこのままで何の問題もない。普段からOmniboxは検索ボックスとして頻繁に使ってはいるけど、URLを確認することは少ない。Canary版でURLを確認する必要があったら、左端のボタンをクリックしたらURLがフル表示される。それで困ることは全くないが、特にURLが邪魔だとも思わない。Canary版の表示方法がフィッシング対策になるかどうかは興味が引かれるところだが、フィッシング対策として期待しているのなら、もう少しそのための工夫が必要だろう。他にも、URLを非表示にする代わりに大きな検索ボックスを活用する何かを示すなど、Canary版とはいえ、もっと新たな提案があったら反応は違っていたかもしれない。

iOSに標準搭載されているモバイル版のSafariでは、すでにアドレスバーにドメイン名しか表示されなくなっている。PC用ブラウザに限らなければ、ネットユーザーがURLに触れる機会は減っている。

Facebookが4月30日にf8カンファレンスにおいて、モバイルアプリ間の連係を可能にするオープンサービス「App Links」を発表した。モバイルアプリ向けのコンテンツに数行のコードを追加するだけで、プラットフォームの垣根を越えて異なるアプリ間の連係を実現する。例えば、映画の予告動画を視聴できるアプリから、その作品のチケットを購入できるチケット販売サービスのアプリに移動することが可能になる。アプリを切り換えて、検索し直してというような手間が不要。リンクをクリックするだけで違うWebサイトのサービスへと移動できるWebサイトのような利便性がモバイルアプリでも実現する。このアプリ間のつながりを実現しているのもURLである。Webサービスをモバイルデバイスで便利に使えるようにするモバイルアプリもURLによって成り立っている。だが、Webブラウザに比べてモバイルアプリでユーザーがURLを意識する機会は少ない。

個人的にはURLがフル表示されなくなると寂しさを覚えるが、そんな感情を抱くのはGoogle以前からインターネットを使っていたユーザーだけかもしれない。検索がインターネットの電話帳ぐらいの役割だったころは、検索からできることは限られていた。それが検索によってインターネットから様々な種類の情報を引き出せるようになり、そしてモバイルアプリを使ったネット利用が主流へと成長しようとしている。世代が進むにつれて、URLへの思い入れは薄くなっていることだろう。

Canary版ユーザーの反応から判断したら、Googleは今回の実験を失敗と見なすだろう。でも、これがCanary版ユーザーではなく、URLの仕組みに興味のない一般ユーザーや、普段モバイルデバイスのみでネットを使用しているユーザーがテスターだったら、逆に「Search Google or type URL」という説明の方が親切だと感じるかもしれない。Canary版ユーザーは猛反発したものの、Googleの今回の試みは、もっと今日のネット使用に即した議論に広げなければならないように思う。Canary版ユーザーの反発も踏まえて、Googleがいずれ新たな提案をしてくれることを期待したい。