「ラリー・ペイジがTEDのステージに立っているのを、自宅で見ているんだけど、彼はGoogle Glassをかけていない。GoogleはGlassを続ける気はあるのか? 極めて懐疑的にならざるを得ない」

Google Glassを未来と断言したRobert Scoble氏、そして昨年末にGlassをかけるGoogle社員がめっきりと減っている事実にショックを受けているとGoogle+で語っていたScoble氏。やはりPage氏のTED講演ではGlassをかけているかどうかが気になっていたようで、「最悪だ。CEOがGlassをサポートしていないという、ひどいメッセージを受け取った」と落ち込んでいる。

Glassユーザーの一人として、たしかに最近はGlassに対する逆風の強まりを感じる。2月にサンフランシスコのバーでGlassをかけていたITライターが絡まれた上に暴力を振るわれるという事件が起こった。普段の生活で、そこまでひどいトラブルに遭遇することはないものの、冷ややかな視線を感じたり、ネガティブな議論をふっかけられることが増えている。そのようにプロトタイプユーザーが心細くなっているところに、Google社員、そして幹部の関心までもが薄れているように見えるのだから、Scoble氏が落胆する気持ちはよく分かる。

「Googleは、このパラダイムシフトを本当に完遂できるのだろうか?」(Scoble氏)

24日にGoogleはRay-BanやOakleyなどのブランドを持つLuxottica Groupとのパートナーシップを発表した。Glassの製品化へ向けた動きは着々と進んでいるが、Glassがフェードアウトしそうな雰囲気も感じられるのが現状である。

マナーに気をつけるというよりも、最近は用心しながら使っているGoogle Glass

ウエアラブルを体験するものとしてGlassは面白い存在であるものの、製品としては未熟だ。プロトタイプだから当然なのだが、それでもこの時点でたくさんの人たちに受け入れられるのを想像できないのだから、今夏の発売で初代iPhoneのようなインパクトのある製品になるのは厳しいと言わざるを得ない。

しかも、GoogleはGlassプロジェクトの成果を他の製品で活用し始めている。例えば、「Ok Google」で始める音声検索や音声コマンド、Google Nowのカード通知、そして先週発表したAndroidのウエアラブルプラットフォーム「Android Wear」である。

Android WearでGoogleは時計を最初のデバイスとしているが、イントロビデオを見たり、概要を読む限りでは、ユーザーインタフェースはGlassに近い。このままGlassを発売しても、たくさんのユーザーに浸透させるのは難しい。それならば、プライバシー侵害が懸念されている撮影・録画機能を省き、音声とシンプルなタッチ操作という現時点で評価されているGlassの長所を抽出し、メガネ型よりも広く一般に受け入れられそうな時計を作った方が得策だ。GlassのExplorerプログラムで学んだことから、無難なウエアラブル製品作りに乗り出したのがAndroid Wearに思える。

Android Wearの発表を読んで、2009年に鳴り物入りでベータ公開されたWaveの失敗を思い出した。一般公開からわずか数カ月で、GoogleはWaveの開発中止を宣言したが、Waveが消え失せたわけではない。今もその技術はGoogle+やGoogleドキュメントで生き続けている。たとえ、このままGlassが製品として飛び立たずに失敗の烙印を押されたとしても、Glassプロジェクトの成果は活用されていく。

こうして考えるとAppleとGoogleは対称的だ。

Appleはユーザーの役に立つと確信できるまで、新しい技術や機能、アイディアを製品として提供しない。Tim Cook体制になって「革新を起こせなくなった」とよく言われるが、Steve Jobs氏がCEOだった頃も「最近のAppleは革新的ではない」と言われ続けていた。それはAppleが時間をかけて、とことん煮詰めて製品を完成させるからだ。Appleが新しい技術を製品としてリリースする時、誰もがそれを身近に感じられる。携帯の概念を覆したiPhoneですら、すぐに受け入れられた。全く新しい市場であってもエンドユーザーが根付くから、開発者も集まってエコシステムが育まれる。

一方、Web 2.0企業であるGoogleは、アイディアを製品として煮詰めたりせず、すばやくベータ公開して世間を驚かせてきた。そうしてGoogleはWebの進化を加速させてきたのだが、オンラインサービスやWebアプリで奏功した手法がコンシューマ向けのハードウエア製品でも通用しているとは言いがたい。Glassプロジェクトを見ていると、初代Nexusを思い出す。開発者を興奮させたものの、スマートフォンとしてのユーザー体験は今ひとつで、販売方法を含めて消費者や業界を迷わせた結果、新たなエコシステム作りが上手くいかなかった。そうなるとGlassにおけるScoble氏のように、真っ先に支持を表明した人たちですら懐疑的になってしまう。

シェアでは圧倒的なのに、今でもiOSオンリーの優れたアプリに比べて、Androidオンリーの魅力的なアプリが少ないのは、最初の核となる開発者からの信頼をつかみ切れていないからかもしれない。Android Wearの方が製品としてまとまっているし、現状にフィットしているのは分かっていても、Glass発表時に興奮して投資に踏み切ったアーリーアダプタたちの気持ちは複雑だ。