米国人との間でMotorolaの新しいスマートフォン「Moto X」が話題になった時に、同社がビルトインUSAをうまくアピールしていないのをものすごく残念がっていた。まだ発売されていないMoto Xが米国組み立てであることを知っているのは、よほどのガジェット通という感じなのだが、シリコンバレーだと知っている人が多く、そしてたくさんの人がビルトインUSAを評価している。
Moto Xはバックカバーや前面カラー、ボタンなどを細かく指定できるカスタマイズが用意されていて、数千の組み合わせから自分の1台を作れる。米国内での組み立てだから注文から数日で商品が届き、パーソナライズしたものがイメージと異なれば、すぐにやり直してもらえる。
米国ではウォール街デモが収束してそれでも失業率が改善されなかった頃から消費者の間でメイドインUSAをサポートしようという雰囲気が強まった。それから食品、衣類、家具、ガジェット、車、あらゆる商品でメイドインUSAがアピールされるようになった。しかし、それが最近、消費者の間で失望感に変わりつつある。メイドインUSAブームに乗っかって、ただ大きくメイドインUSAと表示しただけの製品が目立つようになったからだ。
海外製品との競争に敗れたかつてのメイドインUSAに戻るだけなら元の木阿弥である。少しぐらい高く、すぐには質の向上を期待できなくても消費者が購入してくれる今をチャンスに、消費者が本当にメイドインUSA製品を買いたいと思わせる価値を生み出さなければ、メイドインUSAの未来はない。それをMoto Xは示した。豊富なカスタマイズはスマートフォンとしてユニークなサービスだし、しかもそれがビルトインUSAを活かしたサービスだから米国人の心に響いている。
家具のデザインをクラウドソーシング
筆者はこれでも食材をすべて、毎週日曜日にファーマーズマーケットで地元の農家から買っている。値段は大手の安売りスーパーよりも高いが、安心できるし、うまい野菜や果物が手に入る。仕事を抜け出す場所も個人経営のカフェだ。グローバル規模の某チェーンよりもずっと落ち着く。普段はAmazon.comを活用しまくっているけど、がんばっている地元のビジネスも積極的にサポートしているのだ。
そんな筆者の目に先週、2つのネットサービスのニュースがとまった。
1つは家具デザイナーのJoni Steiner氏とDavid Steiner氏、Development 00のコラボレーションである「OpenDesk」だ。ダウンロード可能なテーブルやイスのデジタルデザインをホストし、製作をサポートするベンダーやクラフトマンを紹介している。家具の設計図は自由に使用でき、もしCNCマシーンを使えるなら、ダウンロードした設計図から自分で木材をカットして自分で仕上げられる。材料が手に入らなければ、OpenDeskが提携する各地域の業者から購入できる。またOpenDeskが提携する業者に材木のカットからペイントまでしてもらって、あとは組み立てるだけの状態(IKEAで販売されているような状態)で購入することもできるし、最後まで組み立ててもらうことも可能だ。
現時点で公開されているのはJoni & David Steinerがデザインしたテーブルとスツールのみ。OpenDeskコミュニティに貢献するなら、ダウンロードした彼らの作品をプロダクトデザイナーがカスタマイズしたり、手を加えることを認めている。またOpenDeskでデザインを公開したいデザイナーの参加も募っている。
OpenDeskにアクセスしてみて、Joni & David Steinerの作品に魅力を感じた人はOpenDeskの価値を認めると思う。イギリスのデザイナーの家具を、輸入せずに手に入れられるのだ。たくさんの有能なデザイナーがOpenDeskで家具のデザインを公開し、誰もが近くにある材木屋や工務店、工房、大工の協力を得て形にできる……それがOpenDeskの最終目標だろう。
正直なところ、そうした好循環を生み出すのは容易ではないと思う。でも、不景気の重苦しさをなんとかしようと、消費者がメイドインUSAや、地域のビジネスの活性化をサポートし始めた今はニワトリとタマゴ状態を打ち破るチャンスである。IKEAの展示場を回って、箱詰めされた家具を買って帰るのではなく、自分が本当に気に入った家具を地元の業者と製作する。Moto Xに感動した米国人の心には、OpenDeskも響くのではないだろうか。
もう1つは「KeyMe」という合い鍵サービスだ。ユーザーはiOSアプリを使って鍵をスキャンし、鍵のデジタルコピーをクラウドに保存しておく。もし鍵をなくしたり、鍵をかけて締め出されてしまったりしたら、デジタルコピーのデータをiPhoneに呼び出して鍵屋に見せれば鍵のコピーを作成できる。デジタルコピーをクラウドに保存するのは無料だが、データの呼び出しが1回9.99ドルになる。コードカットができれば、どこの鍵屋でも対応できるそうだが、KeyMeはユーザーをサポートしてくれる各地域の鍵屋とのパートナーシップづくりも進めている。
米国で鍵屋(ロックスミス)は昔から続く業者が数多く残っている。ロックアウトした時に何とかしてくれる頼もしい存在だが、そのサービスは昔も今も変わらない。効率的なサービスとは言いがたく、料金も高い。悪く言えば、一定の需要に胡座をかいてサービスの改善を怠ってきた。それをKeyMeは、iOSアプリとクラウドに組み合わせて便利かつ手頃な価格で利用できるようにした。
ロックスミスですら変われるのだ。昔から続く地域に根付いたビジネスでも、アイディア次第でまだまだ利用者にとってさらに便利なサービスに変われる。こうした進化こそ、いま地域のビジネスをサポートしている消費者が期待しているものだ。