iPhoneとMacで使っていたメールクライアント「Sparrow」がGoogleに買収されてから、OS標準アプリを含めて後継探しを続けている。iPhoneでは「Mailbox」を気に入って使い始めたが、メッセージをMailboxのサーバにフェッチさせることで目玉機能である受信箱から"しばらく隠す"などを実現しているのが気になるところ。Dropboxに買収されてサービス基盤が整ったものの、サービスの安定性やデータ保護の安全性を確かめるためにもう少し様子を見ようと思う。

iPhoneのタッチ操作ですばやくメールを処理できる「Mailbox」

先週App Storeでの配信が始まった「Triage」(1.99ドル)も面白いと思った。Triageは厳密に分類するとメールクライアントではない。受信箱の中身をすばやく確認するのを手助けするインタフェースである。開くと、受信箱内のメッセージがカード形式で積み上げられた状態で表示される。そしてメッセージをスワイプして、どんどん処理する。上方向はアーカイブ、下方向はそのまま未読 (設定で削除や既読に割り当てることも可能)。メッセージ右上の矢印ボタンをタップするとクイック返信を行える。機能はこれだけなので、標準のメールアプリなどフル機能のメールアプリと併用する形になる。「使うかな?」と思ったのだが、使ってみるとこれが予想外に便利。時間をかけて文章を作成しなければならないメールはiPhoneではなく、iPadやパソコンを使う。元々スマートフォンでは受信箱の確認と簡単な返信しかやっていなかったから、筆者の場合iPhoneでのメール操作のほとんどはTriageで十分、効率的にメールを処理できるようになった。

「アーカイブ」「keep」「クイック返信」- 受信箱内のメールをすばやく仕分けるため(だけ)のメールアプリ「Triage」

Sparrow、Mailbox、Triageのようにスワイプを使ってスマートフォンですばやく受信箱内のメールを処理できるアプリは、他のモバイルプラットフォームでも登場している。

こうした便利なアプリの増加は大歓迎なのだが、残念なのは返信機能を使いこなせないこと。すぐに返信しなければならないメールには、受信箱のメールを確認している最中に返事を書いてしまいたい。だから、機能的なモバイル版メールクライアントは少ない手順ですばやくメールを作成できるように工夫されているものがほとんどだ。ただ、スマートフォンで長文は作成しにくいから簡潔な返信になる。Triageなどメール作成機能を「簡潔な返信用」と言い切っている。しかし、親しい間柄でなければ、用件を一言書いただけのメッセージをメールで送るのは気が引ける。iPhoneに用意されている「iPhoneから送信」という署名をそのまま付けて送れば、ぶっきらぼうなメッセージの言い訳にもなるが、なんだかiPhoneの宣伝をしているような気分である。結局、短いメッセージでも大丈夫なSMSを使ったり、またはメールでの返信を後回しにして返事が遅れることもしばしばだ。

Hacker Newsに目を通していたら「VSRE: very short reply expected (netiquette)」というブログ投稿が目にとまった。すぐに返信してもらいたい時に、メッセージに「VSRE (Very Short Reply Expected : 短い返事でかまいません)」と付ける。出欠などの返事を求める時にRSVPと付けるのと同じ使い方だ。こう言ってもらえれば、受け取った側は「Yes」「No」「OK」の一言でも、臆することなくすぐに返信できる。メールでのコミュニケーションを便利にするアイディアだと思う。もちろん、いまVSREと書かれても誰も分からないから、使えるようになるかはVSREに共感した人たちの啓蒙次第。ちなみに提案したのはギリシア在住のハッカーで、個人ブログの投稿がHacker Newsにリストされたところをみるとたくさんの人が、そのアイディアを気に入ったようだ。

iOSプラットフォームでも苦戦する有料アプリ

Sparrow、Mailbox、TriageにはiPad版が存在しない。iPhone/iPod touch専用だ。タッチインタフェースのスマートフォンで電子メールを使うことを考えてデザインされた。機能もスマートフォン向けに絞り込まれているから、そのまま拡大してタブレットで使っても、使い勝手が悪い。それぐらいスマートフォン専用だからこそ、これらのアプリの機能や操作性が面白いし、役に立つ。

AndroidユーザーよりもiOSユーザーは有料アプリを使うと言われてきたが、最近iOSアプリでも5ドルを超えると敬遠されるようになり、「モバイルアプリ開発者が食べていくにはコントラクティングまたはコンサルティングしかない」というような開発者の不満が強まっている。

こうした声に対して、Instapaper開発者のMarco Arment氏は「iOS市場攻略のポイントは価格ではなく、需要だ」と指摘している。「多くの人々が抱えた新たな問題を解決するか、または以前からある問題を新たに、またはより優れた方法で解決できれば、ほとんどのカテゴリにおいて2008年ごろと同じように有料アプリから収益を得られる」と述べている。

スマートフォンやタブレットで何ができ、スマートフォンやタブレットを使ってどのように人々が抱える問題を解決できるかを考えたら、ユーザー需要を掘り起こせるのはデバイスの特徴を活かした機能と操作性を提供するアプリになるのではないだろうか。以前なら、わずか1.99ドルでもTriageのようなアプリは購入しなかったと思う。従来のメールクライアントをイメージしたら、あまりにも機能不足。ところが、使ってみるとスマートフォンをいつも持ち歩くライフスタイルにぴたりとはまる。多機能なメールクライアントよりも、ずっと効率的にスマートフォンでメール処理を完了できる。こうしたアプリを活かすには、ユーザーも従来の習慣にとらわれずに柔軟になるのが肝要。

「VSRE」のように新しいライフスタイルに合わせたユーザー側からの提案も増えれば、スマートフォンやタブレットはより便利なものに成長するのではないだろうか。