2010年代の終わりまでに「(従来の店舗型の)小売りは立ち行かなくなり、誰もがEコマースを利用するようになる」。
Webブラウザ「Mosaic」「Netscape」の開発者であり、近年スタートアップのアドバイザやFacebookの取締役として話題になることが多いマーク・アンドリーセン氏の発言だ。PandoDailyを運営するサラ・レイシー氏がアンドリーセン氏に靴・アパラレルのオンラインショップ「ShoeDazzle」についてコメントを求めたところ、同氏のコメントは店舗型小売りの死の予想にまで広がった。
Eコマース・ソリューションは柔軟ですばやく動ける。ShoeDazzleのCEOであるブライアン・リー氏は、時節や流行に合わせて積極的にWebサイトを大胆に変える。そのスピードは速く、それが既存の顧客を飽きさせず、新たな客層を呼び込む力になっている。一方、店舗型小売チェーンは動きの鈍い恐竜だ。同じような方向転換を店舗型小売チェーンが実行するには長い時間を要する。例えば、Appleの小売責任者だったロン・ジョンソン氏がデパート大手のJ.C. PennyのCEOに就任して1年以上になるが、J.C. Pennyの店舗に行っても見違えるような改革の成果はまだ実感できない。
店舗型小売チェーンの深刻な問題は「経済的な基盤が非常にもろい」ことだとアンドリーセン氏は指摘する。的を射たEコマース・ソリューションが登場すれば、それが小さなスタートアップからであっても、店舗型小売りのもろさが簡単に露呈する。「土地建物の固定費に在庫を抱え、多くの小売業者は借入で資金繰りする。それでは売上が20-30%下落したらほとんどが生き残れない。すべての商品を棚に陳列するなんてばかげたことであり、もっと優れたモデルが存在する」としている。
このアンドリーセン氏の「売上20-30%ダウンでアウト」発言は、様々な議論を呼んだ。例えば、Dalton Caldwell氏がdaltonで公開した「3Dプリンティングと小売りの未来」という記事だ。
iPodとiTunes Music Storeが登場する以前に、書き込み対応のCDドライブが登場したことが音楽の小売りが変わる兆候だったと指摘。3Dプリンタが手頃になれば、例えば壁に打ち込むプラスチックアンカーや、水回り用のプラスチップパーツなどはデータから作成できるようになり、Home Depotのようなホームセンターチェーンは打撃を受ける。よく仕立てられた服や手作り商品、プロ用の頑丈なツールなどは3Dプリンティングでは代えられないものの、ディスカウントストアの棚には3Dプリンティングでまかなえそうな商品が数多く存在する。「(3Dプリンティングは店舗型小売りの)売上げをゼロにするような大きな変化ではないが、こうした小さな売上げの減少の積み重ねは、時限爆弾のようにキャッシュフローを締め付け、やがて負債が爆発する」としている。
アンドリーセン氏のコメントに話を戻すと、小売りがネットにシフトするというような単純な話ではない。ネット上の小売りは競争が激しく、サービスの優劣に対して消費者が敏感で、一部のサービスだけが急速に成長するという現象が見られる。「面白いことに、Eコマースはコンシューマ向けWebの重要な一分野でありながら、シリコンバレーが力を発揮できていない」と指摘する。数少ない例外がeBayだが、それもショップ(etailer)よりもマーケット(marketplace)色が強い。いまEコマースで成功している会社は、消費者を理解するのに長け、小売りの嗅覚を持つ人材が揃ったニューヨークやロサンゼルスから現れており、シリコンバレーよりもシアトル(AmazonやStarbucksの本拠地)の方が多い。ただし、アンドリーセン氏は「わたしのコア理論は、リテールでは優れたソフトウエア会社が勝ち抜けられるだ。こうした企業にとって優れたソフトウエアプログラマを獲得する重要性が増しており、シリコンバレーにはまだたくさんの人材が存在する」と付け加えている。
実店舗のショールーム化は防げるか?
米国の小売りの過去10年間を思い返すと、まずCDショップが街からなくなり、DVDレンタルも小さいところから消え始め、大手チェーンの店舗もなくなった。書籍チェーン大手Bordersが消え、PC・家電量販店のCompUSAやCircuit Cityも姿を消した。これらは、いずれもネット配信やオンラインショップに取って代わられた分野である。10年前に、これら全てが街から消えることなど予想できなかった。
CDの場合、大手チェーン店がなくなった後でもTargetやWalmartのようなディスカウントショップや、Barnes & Nobleのような複合型の書店で購入できた。CDが売れなくなっても他の売れ筋商品でカバーできるので、様々な種類の商品を扱うディスカウントショップなどの方がしぶとい。だが、CDやDVDだけではなく、ゲーム、服や日用品(例えば、トイレットペーパーのオンラインサブスクリプション)にまでEコマース・ソリューションの影響が及ぶと状況は厳しくなる。
だが、アンドリーセン氏の2010年代の終わりまでに店舗型小売りが無くなるという予想は、これまで店舗型小売りを展開してきた企業が消え、全てがAmazonのようなEコマースになるという意味ではない。ポイントは「優れたソフトウエア会社が勝ち抜けられる」だ。
昨年の米国の年末商戦ではモバイルデバイスからの買い物が急増した。ForeSeeによると、ホリデーシーズンの買い物客の70%が買い物中に携帯電話を使用した。そのため実店舗で商品を手に取り、その場でスマートフォンを使ってより安い価格の店を探してオンラインで購入する……実店舗のショールーム化が問題視された。ところが、実態は異なるようだ。
ForeSeeが2月12日にリリースしたモバイル満足度指数によると、1位はAmazon(85)、2位はApple(83)。しかし書籍のBarnes & Nobleが6位(79)、CostcoとKohl'sが9位タイ(78)、J.C. PenneyとMacy's、Target、Walmartが13位タイ(77)と、店舗型の小売りチェーンやデパートも健闘している。
ForeSeeによると、実店舗で携帯電話を使っている人の62%が、その店のWebサイトまたはアプリを使い、ライバルのWebサイトやアプリにアクセスした人は37%にとどまった。ForeSee CEOのラリー・フリード氏は「Targetを訪れた買い物客がAmazonのアプリを使うのではなく、TargetのWebサイトやアプリを訪れることで価値が生じるように、小売店は携帯電話と小売り環境を統合した"優れた体験"の提供に集中する必要があると思う」と述べている。