先週テクノロジー産業を最も騒がせたニュースというと、誰もが「Marissa Mayer氏のYahoo! CEO就任」を挙げるだろう。Googleの文化を体現してきたGoogler中のGoogler。創設者2人とEric Schmidt氏に次いで名前が知られたGoogle社員である。Yahoo!にとって、これ以上は望めないようなビッグネームの獲得となった。しかし、Yahoo!の暫定CEOを務めていたRoss Levinsohn氏が昇格しなかったことを惜しむ声も多い。
Yahoo!がMayer氏をCEOに指名したことに関して、たくさんの人が抱いているもやもやとした気持ちを、Mike Walrath氏 (Right Media設立者で、2007年にYahoo!に売却)が的確に指摘している。
「Yahoo!を"本当に優れた技術イノベーター"と捉えたら、その本質を見誤る。Yahoo!の強みはオーディエンスとメディア資産である。優れたテクノロジではない」
Yahoo!のCEO職は、Tim Koogle氏(1995-2001)からTerry Semel氏(2001-2007)、Jerry Yang氏 (2007-2009)、Carol Bartz氏 (2009-2011)、Scott Thompson氏 (2012)に引き継がれてきた。その中で同社をメディア企業と見なしたTerry Semel氏の時代に最もYahoo!に勢いがあったことが、Walrath氏の指摘の正しさを証明している。
Semel時代以降、Yahoo!はGoogleやFacebookと市場を争うテクノロジ企業であろうとし、そして迷走し続けた。もしYahoo!が今後もGoogleを意識するのを捨てられないのであれば、Mayer氏のCEO指名は迷走をひどくするだけだろう。Mayer氏は、技術的なビジョナリー、またはインターネットを熟知している人物として称賛されているが、Yahoo!がその原点に返って再建を目指すなら、必要なのはメディア戦略に長けたCEOなのだ。
「メディアの世界、そしてメディアのチャンスを理解したCEO、テクノロジに関しては"これで十分"という程度が分かる人物がYahoo!のリーダーには適していると感じる」(Walrath氏)。
Levinsohn氏は、News Corp.出身で広告に明るく、Yahoo!で暫定CEOに就くまでグローバルメディア部門を率いていた。Scott Thompson時代にYahoo!はFacebookに特許闘争を仕掛けたが、Levinsohn氏は短期間で騒動を収束させ、メディアを軸にした広告事業に注力できる体制を整えた。暫定CEOで、しかもYahoo!の改革を気に留める人も減り、それゆえに自由に手腕をふるえたのが奏功したのかもしれないが、そのままLevinsohn氏に任せたら「もしかしたら……」と思った人も多い。
テクノロジーを看板にするべきではないテクノロジー企業
個人的には、Yahoo!は米Amazon.comから学ぶべきだと思っている。Amazonは近年、デジタルエンターテインメント分野でGoogleやAppleのライバルとして君臨しているが、テクノロジーを看板に据えてはいない。テクノロジーを用いて革新的なサービスを生み出しているものの、ストアのショッピング体験と品揃えが自らの強みであることを自覚し、そこに軸足を置いている。
少し前にAmazon.comが「同日配達」を新しい武器に米国の小売市場を一変させようとしている……というAmazonウオッチャーのBarney Jopson氏の指摘が話題になった。
米国で買い物すると、買い物客はその地域の消費税を支払わなければならない。買い物した場所が問われるから、オンラインストアで買い物をした場合、そのストアが自分の住んでいる地域の会社でなければ消費税を支払う必要はなかった。そこでAmazonは本社のあるシアトル以外は消費税の低い地域に拠点を置き、消費税の高い大都市の買い物客が消費税を支払わないで済むようにしていた。
しかし近年、近くの店で商品を手にとって確認し、購入は消費税のかからない他州のオンラインストアで済ます買い物客が増加し、地元のビジネスを守るために住民のオンラインストアでの買い物に税金をかける州が増えている。ニューヨーク、カンザス、ケンタッキー、ノースダコタからテキサス、そしてカリフォルニア、ネバダ、ニュージャージー、インディアナ、テネシー、バージニアへと着実に拡がっている。
するとAmazonは一転、ニューヨーク市に近いニュージャージー州、テキサス、テネシー、インディアナ、カリフォルニアと、これまでとは違って大都市郊外に物流センターを展開し始めた。また自律運搬ロボットを開発するKiva Sytemsを買収するなど、物流センターの効率性の向上に余念が無い。Jopson氏によると、いずれ同社はPrimeサービス利用者に、同日配達のオプションを用意する。すぐに品物が届くなら、たとえ消費税が加算されても、豊富な商品が揃っていて、いくつかの価格を比較でき、そして簡単に購入できるAmazonは、消費者に対して魅力的な存在であり続けられる。Jopson氏は「同日配達」がローカル書店や小売店の脅威になるとしているが、消費税と配達の問題でAmazonに差をつけられる他のオンラインストアにとっても脅威になるだろう。それぐらいインパクトのある転換である。
創業当時に比べてAmazonはすさまじいペースで変化し続けているが、根っこにある企業文化は昔も今も変わらない。だからこそ「消費税不要」から「同日配達」への大胆な軌道修正を躊躇せずに実行し、われわれ利用者を変わらずわくわくさせ続けてくれるのだ。
Yahoo!に話を戻すと、まず同社がやらなければならないのは、かつてオーディエンスを集めた企業文化を取り戻すことだ。Mayer氏は企業文化を重んじる人物であるものの、Googlerのイメージが強すぎて、Yahoo!の真の強み(オーディエンスとメディア資産)を語る同氏の姿を今は想像できない。しかし長期的な戦略を計画・実行できる人物であり、またYahoo!のオーディエンスである普通の人の視線を重んじるエンジニアでもある。08年にWetFeet.comで、「アイディアが飛び込んできた時に、わたしは常にユーザーを優先します。母を思い出して、彼女がすぐにそのアイディアに共感できるか想像してみるのが好きです」と語っている。Googleのシンプルなホームページを作り上げた、その才能がYahoo!らしさをどのように表現するか、非常に楽しみである。