Facebookが「Facebook Camera」という、同社のソーシャルネットワーキングサービスの写真共有機能と連係するiPhone用フォトアプリをリリースした。同社は、同様のサービスとモバイルアプリを提供するInstagramの買収を1ヵ月前に発表したばかり。やがてFacebookにInstagramの機能が取り込まれると、誰もが予想していたところに、突然Facebook Cameraの登場である。しかも使ってみると、Facebookユーザーにとっては"Instagramキラー"と呼べような出来映えだ。こんなアプリを用意していたのなら、同社はなぜ10億ドルもの資金を投入してInstagram買収に乗り出したのだろうか?
ReadWriteWebに掲載された「Why Facebook Just Launched Its Own Instagram」という記事の中で、Taylor Hatmaker氏は「山火事のように広がるInstagramフィーバーを、Facebookは黙って見ていられなかった」と指摘している。
Facebook CameraとInstagramはどちらもフィルターを使って写真を加工できるが、FacebookはCameraに足りない機能を補うためにInstagramが必要だったわけではない。昨年8月に、Facebookが写真用のフィルター技術に取り組んでいるとNew York Times紙が報じており、むしろ少し前までFacebookはInstagram潰しにかかっていたように思える。
Daring FireballのJohn Gruber氏は、昨年6月にFacebookがSofaを買収してから、SofaチームがFacebook Cameraの開発に乗り出したと見ている。当時はInstagramのようなFacebookアプリを作るだけで、Facebookは十分に対抗できるはずだった。ところが、この1年の間に状況は一変した。「Mark Zuckerbergは、Instagramがソーシャルネットワークとして成長する速度を警戒し、アプリを作るだけでは不十分と判断したのだと思う」(Gruber氏)。
「Yahoo!は2001年にGoogleを買収するチャンスがあったが、当時CEOだったTerry Semelは、その引き金をひかなかった。Instagramが次のGoogleだとは思わないが、ZuckerbergがFacebookにYahoo!と同じ道を歩ませたくないと思っているのは確かなことだ」(同)
とはいえ、Instagramの勢いを鎮火させるためだけに、わずか13人のスタートアップ企業(Instagram)に10億ドルを投じるのはギャンブルである。Instagramもそんな企業の傘下に収まるのを良しとはしないだろう。
Dan Frommer氏は、FacebookとInstagramが合意に達した理由として、ユーザーの違いを指摘している。同じ写真を加工・共有するアプリでも、Facebook Cameraは「Facebookにおいて写真を共有し、Facebookの友達の写真をチェックするためのアプリ」であり、一方のInstagramは「作成した写真をInstagram、Twitter、Facebook、Tumblr、Foursquare、Eメールなどで共有し、Instagramの友達の写真をチェックするためのアプリ」である。Frommer氏のFacebookの友達の多くはInstagramユーザーではなく、Instagramでフォローしている人たちの大部分はFacebookの友達ではないそうだ。Facebookで実際の友達だけを承認している人なら、同じような違いが現れてるだろう。だから「(Facebook CameraとInstagramは)オーバーラップしている部分が確かにあるが、それほど大きいものではない」とFrommer氏。
「"モバイルフォトアプリとしてInstagramが完璧な出来だったから"とか、"Facebookにとって必要なアプリだったから"というような理由で、Mark ZuckerbergはInstagramを買ったのではない。……写真を中心に、新しく、そして興味深いソーシャルネットワークを(Instagramが)構築していたから、Facebookは手に入れたいと思ったのだ」(Frommer氏)。
Facebookが超えたい言葉の壁
Frommer氏は言明していないが、Instagram買収に踏み切らせるほどZuckerberg氏を惹きつけたのは、おそらく写真の"言葉の壁を超える力"である。
Facebookのユーザー数が9億人を超えていても、その中身は数多くの言語グループに分かれている。Facebookは実際の友達関係を反映したSNSだから、同じ言葉を話す人同士の結びつきが自然と強くなり、話す言葉が違えば、マイナーの言語になるほどに他言語との結びつきが細くなってしまう。これはTwitterも同じだろう。しかし写真は容易に言葉の違いを乗り越える。"百聞は一見にしかず"と、時には言葉以上に雄弁なコミュニケーション手段になる。だから、Instagramは、Hatmaker氏が"山火事"と表現するような勢いで影響力を増している。そして、この分野に今、次々にスタートアップが参入しており、中にはInstagramを上回るような勢いのサービスも出てきている。
その代表格となっているのが、ボードに写真を貼り付ける感覚でコンテンツを共有できる「Pinterest」だ。おそらくFacebookは、同じように言語の制限を受けやすいTwitterよりも、写真・画像、イラスト、動画を中心にソーシャルネットワークを広げるPinterestを脅威に思っているだろう。それはInstagramも同じであり、共通の敵の登場がFacebookによるInstagram買収を実現したのではないだろうか。
先週ReadWriteWebが、「だれがPinterestを買うと思うか?」というトピックのハングアウトを行った。Jon Mitchell氏らは「Yahoo!」という意外な企業を本命に推した。写真共有サービスとして今でもナンバーワンでありながら、ソーシャルの波に乗り損ねているFlickrとPinterestの相性は良く、またYahoo!がリリースしたモバイルブラウザ/ブラウザアドオンの「Axis」がコンテンツ共有機能としてPinterestをサポートするなど、Yahoo!側からラブコールが送られている。Pinterestは、商品マーケティングに使いやすいことから、読者の間からはAmazonではないかという予想が出てきた。またTwitterのように独立を維持すれば、Appleとの提携もあり得るという声もあった。もちろん有力候補として、Facebookの名前も真っ先に挙がったが、いずれにしてもPinterestの今後は、Facebookにとって気になるものになりそうだ。
写真や画像、イラストがつなぐネットワークは計り知れない可能性を秘めている。言葉がつなぐネットワークが大きく広がった今だからこそ、なおさらだ。だから、Facebookは同社の友達関係とは異なるネットワークを持つInstagramに興味を持ち、GoogleはGoogle+のフォト機能の強化に躍起になっている。最近、モバイルやWeb分野で写真に関する話題やニュースが多い所以も、ここにある。