Java特許侵害でOracleがGoogleを提訴した裁判が4月16日に米サンフランシスコで始まる。この訴訟に関して、裁判所に提出されたドキュメントがAndroidの売上を推定する資料になるとした英Guardianの記事が話題になっている。2008年から2011年末までのAndroidの売上高は5億4300万ドル以下でしかなく、Googleのモバイル事業におけるAndroidからの売上はiOSからの1/4以下だという。
GuardianのCharles Arthur氏は、GoogleがOracleに提示した和解案の額に注目した。Oracleが侵害を主張する2つの特許の1つは2012年12月に失効し、もう1つは2018年4月までである。この2つの特許についてGoogleは2011年末分までとして280万ドルの支払いをOracleに提示し、残りの期限についてはAndroidの売上高の0.5%("104"特許: 12年12月まで)と0.015%("502"特許: 18年4月まで)とした。Arthur氏は、Googleが今後の支払い額を売上高の0.515%(0.5%+0.015%)に押さえようとしているのなら、2011年末までの分の280万ドルも同じ条件で算出されていると考えて、2008年に最初のAndroid搭載スマートフォンが登場してから2011年末までの、Androidプラットフォームからの売上高を5億4300万ドル以下と見ている。
「この数字は、MapsやSafariブラウザの標準検索機能としてGoogle Searchが採用されているiPhoneなどAppleのデバイスから、同じ期間にGoogleは自らのハンドセットからの4倍以上に相当する売上を得ていたことを示す」(Arthur氏)
米AsymcoはArthur氏の着目点をさらに掘り下げて、Android経済全体を推測している。5億4300万ドル(Asymcoは5億4400万ドルで計算)の売上高から、Android端末の出荷台数をベースに年別の売上高を算出。Android端末1台から得られる売上高の平均を1.75ドル/年として、これらの数字とGoogleが示してきたモバイル事業の年間推定収益を比較した。その結果、GoogleがiOSデバイスを含むモバイルデバイスから得る売上の平均は、2008年の7.50ドル弱から年々着実に上昇し、2011年には8.33ドルになっているが、そのうちAndroid端末1台からの売上高は2ドル程度から1.70ドルに下落している可能性があると見ている。
GoogleはAndroidの提供を、戦略的に無料としており、損益計算だけですべてを判断できるものではない。Asymcoは「見返りという点で、Androidの継続性は安定している」とした上で、「ただし、価値を生み出すという点では物足りない。Android端末からの年間の平均売上が1.70ドル/デバイス/年であるのは、端末の使用期間を2年間とすると、Googleに3.50ドルがもたらされることになる。Appleは2011年に販売したiOSデバイスから1台あたり576.30ドルを得た。Androidの経済は、iOSの経済とは大きく異なるものだ」とまとめている。
AmazonのAppstoreよりも儲からない
このところ、Android市場のビジネス的な価値の乏しさに対する指摘が続いている。「Battleheart」や「Zombieville 2」などのゲームを開発するMika Mobileが3月に、Androidの多様なハードウエアのサポートにかかるコストの高さや、売上の減少からAndroidプラットフォームからの撤退を明らかにした。
最近ではFlurryが、Google Play (旧Android Market)よりも、AmazonのAppstore for Androidの方がアプリ開発者にとって魅力的なマーケットであるという分析レポートを公開した。2012年初頭に45日間以上の期間で1100万人以上をサンプルに調査した結果、AppleのApp StoreのDAU (Daily Active Users)あたりの売上高を基準にした場合、AmazonのAppstoreの売上は89%であり、Google Playはわずか23%にとどまった。AmazonのKindle FireもAndroidベースだが、Amazonを利用するための端末として大幅にカスタマイズされており、一般的なAndroidタブレットとは一線を画す。AppstoreがGoogle Playを上回る理由についてFlurryのPeter Farago氏は、「Kindle Fireにおいて、Amazonはユーザーを巧みに自身のショッピング体験に引き込んでいる」と指摘している。
そして今回のGuardianの記事だ。GoogleがAndroidよりもiOSから、より大きな売上を得ている点について、Daring FireballのJohn Gruber氏は「前から何度も言っていることだが、もう一度言おう。モバイルにおいてAppleと手を組むのではなく、対抗する道を選んだのはGoogleの過ちだった」とコメントしている。
Googleは、6月27日-29日に米サンフランシスコでGoogle I/O 2012を開催する。今年もチケットが1時間とかからずに売り切れた。Androidを含むGoogleに対する開発者の関心は依然として高いが、最近のAndroidに対する逆風の強まりを合わせて考えると、Androidの今後には2つのポイントがあると思う。
1つはAsymcoが指摘するように、Androidの価値は損益計算だけではないということ。例えば、Chromeブラウザがブラウザ市場で大きなシェアを獲得できなくても、Chromeの影響でMicrosoftにInternet ExplorerのHTML5対応を踏み切らせたことは、Googleの勝利だったと言える。ChromeがWebの前進を促す存在であるのと同じように、Androidもモバイルの前進をけん引する存在になれれば、売上の大小にかかわらずAndroidは魅力的であり続けられる。ただAndroidはChromeほど未来を提示できていないのが現状であり、まずはGoogleがAndroidで仕掛けたNFCの今後が注目される。
もう1つは逆に、AppleやAmazonのようにプラットフォームとして優れたショッピング体験を提供できるかだ。すでにAndroidにおいて、GmailやMapsなどGoogleのWebサービスと連携した利用体験は優れているが、それは無料サービスと広告を組み合わせたビジネスモデルの上に成り立つものだ。消費者がGoogleに対して「サービスやコンテンツを購入する場」というイメージを持っていないのが、少なからずAndroidからの売上の伸び悩みに影響していると思う。ただ、これはGoogle全体の課題でもあり、もし同社がAndroidの経済を本当の意味でiOSに対抗するものに導こうとするなら、それは広告モデル依存からの脱却をはらむシフトになる。